オラクル・オブ・マッポーカリプス #2
(あらすじ:次なるニンジャスレイヤーの標的は、ブラスハート。サンズ・オブ・ケオスを創始し、サツガイと既に二度接触したとうわさされる重要人物だ。何としてもこのニンジャを仕留め、サツガイの足跡を捉えねばならない)
2017-07-19 22:33:23(ブラスハートはクラバサ・インコーポレイテッドの上級社員であり、タキが掴んだ情報によれば、現在はオムラ・エンパイアが所有する浮遊要塞に滞在しているという。ニンジャスレイヤーはコトブキと共にオムラ社員のパワード鎧で変装し、浮遊要塞への出社行為に及んだ。要塞の行き先は……ナスカ!)
2017-07-19 22:35:20リラグゼーション・オムラミュージックが流れる通路を、奥ゆかしい左側通行で移動するオムラマン達。今は晴れやかに「足軽」のノボリ旗を各自掲げ、ガスマスク呼吸音もヤルキに満ちている。鎧姿のコトブキは歩きながらぎこちなく再度振り返る。マスコットのオムーが気になるのだ。 1
2017-07-19 22:43:46(やめろ)ニンジャスレイヤーは囁いた。コトブキは後ろ髪引かれながら、(あれはドロイドの類いでしょうか。それとも、人?)と尋ねた。(どうでもいい)(サーモグラフで確かめようとしたのですが、よくわかりませんでした)(……まっすぐ歩け)(はい) 2
2017-07-19 22:45:46ニンジャスレイヤーのパワード鎧胸部には「50000」の表示が灯っている。年収5万オムロといえば、アシガル社員としてはなかなかの稼ぎだ。一方のコトブキは「30000」に抑えられている。ゆえにニンジャスレイヤーがコトブキに注意するさまは図らずも自然であり、誰の疑いも呼ばなかった。3
2017-07-19 22:48:48要塞の廊下は清潔であり、チリひとつ落ちていないようにも思えた。奥ゆかしい飾り切りがほどこされた壁面にボンボリ・パネルが埋め込まれ、通路を照らす。『潜入成功だな、お前ら?』タキの秘密通信が入った。『オムラ・エンパイアにはおかしな社内プロトコルがいっぱいだ。うまくごまかすしかねえ』4
2017-07-19 22:53:02(まず、どこへ向かう)『道なりだ。ただし、何も考えずに他の奴らに流されンなよ。こいつらはだいたい、部署ごとの始業前勉強会に向かうんだとよ。ケッ。勉強会用の会議室はIDチェックがある。偽装には下準備が居るが、他の社員共の目の前でキョロキョロしてみろ。速攻クソ怪しいだろ』 5
2017-07-19 22:56:18(成る程な)『まずはアレだ、社員食堂に行け。誰も他の部署の連中に興味なんて示さねえ。ねぼけ眼で朝飯を食ってる呑気な社員に混じってりゃ、時間が稼げる……待て!ホールドン!他の奴らに倣え!』タキが会話を切り上げた。キン、キン、キン。ヒノキ・ボーを打ち合わせる音が聞こえてきた。6
2017-07-19 23:00:50「オナーリー!オナーリー!」ヒノキ・ボーを打ち鳴らすアシガルは露払い社員である。オムラマン達はたちまち壁際に寄り、75度のオジギ姿勢で静止した。二人も彼らに倣った。彼らが畏まるのは「38000」の露払い社員にではない。その後ろを悠然とついてくる社員だ。ノボリには「ダイカン」。7
2017-07-19 23:06:14ダイカンはオムラ・エンパイアの社内用語であり、いわば課長職を表す。年収表示は11万オムロ。桁が違う。社員たちはオジギ姿勢で静止し、ダイカン社員の通過を待つ。心の中で微かにオジギ待機姿勢の奥ゆかしさを認められての大抜擢を夢見ながら。「オナーリー!オナーリ!」「ハゲミナサイヨ!」 8
2017-07-19 23:07:47『ケッ!ケッ!チョッチョッ!』頭を下げるのはニンジャスレイヤー達だったが、モニタしているタキは憎々しげに舌打ちした。『何がダイカンだ気取りやがってよォ』これが部長職、すなわちハタモトであった場合は、オジギは90度必要だ。役員クラス……タイローであったときはドゲザである。 9
2017-07-19 23:12:14『こいつら、路地裏でパンチの一発でもくれてやれば、頭を下げるのはそいつの方だってのによ……偉そうに!』(どうでもいい)ニンジャスレイヤーは答えた。(ただの偽装だ。おれ自身と関係のない話だ。構っていられるか)(新しい体験なので、新鮮です)コトブキが述べた。ダイカンは通過した。10
2017-07-19 23:16:53ダイカンと部下達が行ってしまうと、オムラマン達はいそいそと移動を始めた。時折彼らの何人ずつかが別れ、通路横の自動開閉フスマをくぐって勉強会に出席する。フスマの開閉速度は極めて速く、モタモタすれば挟まれて重傷を負うであろう。二人はしめやかに前進。やがて社員食堂の看板を発見した。11
2017-07-19 23:18:58(入るぞ)『ああ入れ』カシュッ。高速でフスマが開いた。二人が広間にエントリーした背後で、フスマは再び高速で閉じた。「イラッシャイマセ!業務はこれからかな?」オムーがボディランゲージと共にアイサツした。「朝ご飯は大事!しっかり栄養を取って、業務に支障のないようにしてね!」 12
2017-07-19 23:22:16配膳カウンターの奥には厨房。いくつものアルミ鍋が蒸気を噴いている。二人は配膳トレーを持ち、列に並んだ。カウンターの上にはメニュー写真と共にUNIXモニタがあり、要塞のカメラが映す地上の俯瞰LIVE映像を流しているようだった。雲海だ。「アンデス・スシでパワー朝食」の字幕が躍る。13
2017-07-19 23:25:20「我らのメガスゴサ級オムラ空中要塞は今、誇らしい貴方がたオムラマンを乗せて、雄大なナスカ高原付近を航行中です。当社員食堂では、滞在地域のカルチャーをしっかりと取り入れ、バラエティ溢れるパワー食を提供しています」音声ガイドが流れる。「注意、骨付肉の注文は年収5万オムロから!」 14
2017-07-19 23:31:13「スゴイ!骨付肉が注文できるじゃないですか」コトブキが言った。「わたしは頼めませんが……」「スシでいい」ニンジャスレイヤーは悪目立ちを避けた。二人はそれぞれ四角い紙パックを取り、テーブルの隅に向かった。 15
2017-07-19 23:35:27「インヘニオ谷は現在、極めて危険な情勢です。それを解決するのは、あなた!」音声ガイドを聴きながら、向かい合って座った二人はガスマスクを開き、ポークビーンズのノリマキ・スシを咀嚼する。「皆さん一人一人が、メガスゴサの大事なパーツです。武力社員の皆さん、パーツに感謝しましょう!」16
2017-07-19 23:38:44モニタには壮麗なエメツ・プラントの空撮録画が映し出された。漏斗状の形状で、鈍い灰色だ。「クラバサ・インコーポレイテッドとの協業テクノロジーにより、ナスカ・プラントは地球有数のエメツ生産性を獲得しています。文明の叡智!しかしそれに唾吐く敵がいます。まるで未開の洞窟人です!」 17
2017-07-19 23:43:23「ドーモ。要塞長のハタモト、フレデリクセンです」要塞長のいかめしい鎧姿のバストアップが映し出された。胸には「470000」の年収表示。肉眼で見れば失禁するアシガルも居るかもしれない。要塞長は気さく、かつ、実直に話しかける。「今回のミッション成否が株価に与える影響は多大です」18
2017-07-19 23:49:37「ナスカ・プラントはイノベーションの源泉。しかし頑迷な一部の地元民はエメツ鉱山に蟻の巣めいたアジトを築き、不法占拠を行っております。ご存知の通りこれはケツァルカトルと称する反社会ニンジャを首謀者とするニンジャカルト活動の一環。寛大なオムラであっても断じて容認できない行いだ」19
2017-07-19 23:52:16「既に現地社員による治安活動は膠着状態に陥り、担当ハタモトはケジメ。ダイカン二名はセプクしています。ご存じの通りこのメガスゴサはオムラの叡智の結晶。誇りと強さと象徴の力を全地球に見せる事で株価が上がります。諸君が失敗すれば株価は……失敗などありえない。成功しか存在しない!」 20
2017-07-19 23:56:16「オムラ……」離れたテーブルで固唾をのんで映像を見ていたアシガル社員が感極まって涙した。要塞長はモニタ内で拳を握った。「メガスゴサの武力は実際スゴイ!それは諸君のマンパワーだ。諸君がパーツなのだ!今回、現地へ投入される武装社員には特別パワー食が振る舞われる!」 21
2017-07-19 23:58:42