彼女をライブに誘うなら〜忠義編

レオナ @leo_msk_tdys

1. 目が覚めた。 と言うか、意識はあるが瞼が重い。 額の筋肉を頑張って上に引っ張り、やっとの事で目を開けるとそこに見えたのは、知らない天井。 カーテンの隙間からわずかに射し込む光を頼りに視線を動かせば、知らない壁に知らないドア。 #彼女をライブに誘うなら

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2. いつもの感触とは違う、私が寝ているそれは、やっぱり知らないベッド。 そのせいか、おかしな夢を見た。 天蓋付きの、レースがかかるベッドに寝ている私を王子様が迎えに来る、なんてとんでもなく乙女チックな夢。 #彼女をライブに誘うなら

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3. それはさておき、ここはどこなんだろう。少し警戒しながら、ゆっくりと体を起こす。 肩がスースーする。それに、シーツが直接肌に当たる感触。 布団の中を覗き込むと、私が身に付けているのは上下お揃いの黒いレースの下着だけ。 「…えっと、」 #彼女をライブに誘うなら

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4. …これは…うーん…やらかしたの、かな…。 昨日着ていた服を探したが見当たらず、仕方なく手近に見つけたブランケットを体に巻きつけ、ドアノブに手を伸ばした。 と、つかむ前にドアが開き、知らない男が顔を覗かせた。 #彼女をライブに誘うなら pic.twitter.com/0EiDL0kfjN

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5. 「あ、ほひは？」 寝癖のついた髪で、歯ブラシを咥えた長身の男が何やら喋り、私の頭を撫でた。 「ひょお、待っほいへはー」 そう言うと再び消える。 次に男が顔を出した時、服を手渡された。 「昨日の服、今洗っとるから、とりあえずこれ着といて」 #彼女をライブに誘うなら

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6. 「え、ちょっと…！」 パタンとドアが閉まる。 仕方なく手元の服を広げると、メンズの白いＴシャツに黒のハーフパンツ。 「…おっき、」 袖を通し終わったちょうどのタイミングで「ごはんやでー、おいでー」と、そういえば聞いたような関西弁が聞こえた。 #彼女をライブに誘うなら

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7. 「…それで、あなたは…」 目の前に並んだ純和風の朝食に、謎は深まるばかり。 これはこの人が作ったのだろうか。 じゃなくて、どうして私はここにいるのか。 「えー！覚えてへんの⁈」 ひどいなーと言いながら、彼はツヤツヤの白いごはんを頬張る。 #彼女をライブに誘うなら

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8. 「めっちゃ意気投合してなー、二次会しよって二人でタクシー乗って俺んち着いて、俺がグラス用意しとったら君もうソファで寝てもうてて」 …そうだ。 昨晩はウチの会社主催のパーティだった。 デザイナーの父が立ち上げたアパレルメーカーに、私は就職した。 #彼女をライブに誘うなら

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9. 私も服が好きで、父の仕事が好きだった。 でも娘だからと特別扱いをされるのが嫌で、一般枠で試験を受け、入社した。 それでも私には、常に“社長の娘”という肩書きが付いて回った。 みんなどこか私に気を遣っていたり、何かを期待して近づいてくる人もいた。 #彼女をライブに誘うなら

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10. 昨日のパーティもそう。 損得勘定で声をかけてくる人ばかり。 仕事とはいえ嫌気がさして、たまたま近くにいたこの人を強引に近くのバーに連れ出した。 ところが、初めて会った彼は大らかですごく自然体で、2人でいる時間、私は自分の肩書きを忘れられた。 #彼女をライブに誘うなら

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11. そんなわけで、楽しくてつい飲み過ぎてしまったのだ。 でもまさか、記憶をなくすまでとは。 「あ、安心して。シてへんから。 さすがに寝てる子襲うなんて、せえへんよ」 危うくお味噌汁を吹き出すところだった。 「今日、休みやろ？ゆっくりしてきー」 #彼女をライブに誘うなら

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12. 「どうして休みって、」 「昨日言うてたしー」 そう言って、涼しい顔で彼はお味噌汁を飲み干した。 そして立ち上がりキッチンに向かうと、たちまち芳しい匂いが立ち、程なくして食後のコーヒーが運ばれてきた。 #彼女をライブに誘うなら

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13. 「じゃあさ、俺と付き合わへん？」 「…え⁈」 何それ？なんでそうなるの⁈ 何が、“じゃあ”？ 「昨日話して、君のことは大体わかった。 俺、金には困ってないし、会社とか財産とかも別に興味ないし。 だから、君の条件に叶っとるやろ？」 #彼女をライブに誘うなら

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14. なんか、変な人。 …でも、確かに住んでるここは、ちょっといい部屋みたいだし、昨日も変に口説いてはこなかったし、今も彼の目は嘘をついているようには見えない。 「それに俺、たぶんもう君が好きや」 「………………え⁈」 #彼女をライブに誘うなら

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15. 「反応遅っ！」 あっはっはっは、と豪快に笑うその顔は屈託がなくて、なんだか安心できた。 この人なら好きになれるかも そんな予感がした。 #彼女をライブに誘うなら

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16. 彼とお付き合いをするにあたって、ルールを決められた。 彼は名前も含め、素性を明かさない。 私は詮索してはいけない。 彼は私の素性を知っているのに、なんだか不公平だけど、私にも先入観なく彼自身を好きになってほしいという、彼の希望だった。 #彼女をライブに誘うなら

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17. それと、彼を“たーくん”と呼ぶことを義務付けられた。 「た…たー、くん」 「あかーん、ちゃんと言うて」 「だって…恥ずかしい…」 「そんなんじゃ返事したらんもん。 ほら、もっかい」 時々こうやって子供みたいな事を言って、私を困らせる。 #彼女をライブに誘うなら

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18. 彼に会う時は、必ず彼の部屋。 彼の仕事は時間が不規則で、夜に会えれば夕食を一緒に食べたり、私が休みの日は彼の帰りを待って一日過ごす時もあり、半同棲のような生活をしていた。 でも不思議なことに、彼は私に何もしない。 その…恋人同士のアレコレ。 #彼女をライブに誘うなら

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19. スキンシップは多い。 キッチンに立っていると“今日なにー？”と後ろから抱きついてきたり、二人並んでDVDを観ていると手を繋がれたり、私の膝の上に寝転んできたり。 それなのに一度も彼の唇が触れた事はない。 それ以上なんて、もちろん。 #彼女をライブに誘うなら

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20. 女の子には慣れてそうなのに、どうしてだろう。 って、してほしい訳じゃないけど！ それでも彼がいる生活が楽しくて、うんざりしていた人間関係も気にならなくなり、仕事にも以前より前向きになった。 そして、私は既に自覚していた。 彼が好きだと。 #彼女をライブに誘うなら

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21. 幸せだと思っていた毎日も、彼を好きだと気づいてから、だんだんと不安も感じるようになった。 どうして何も教えてくれないの？ 本当は、からかわれてるだけなの？ ねえ私、“彼女”なの…？ 出会ってひと月が経つ夜、そんな私の想いは溢れてしまった。 #彼女をライブに誘うなら

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22. 「ただいまー」 いつもと変わらない声と共に、柔らかくあたたかい空気が部屋を包む。 でもそれも、今の私には少し切なかった。 「あれ、どうかしたん？」 何かあるのが簡単にバレてしまう私は、ダメな女だ。 …違う。 ズルい女だ。 #彼女をライブに誘うなら

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23. 何かあったと匂わせて彼の気をひく、ズルい女なのだ。 そんなところを彼に見せたくない。 でもそんな気持ちとは裏腹に、うっかり涙が零れてしまった。 「え、ちょ、どしたん⁈」 慌てる彼が私の髪を撫でる。 その優しい手に、涙が止まらなくなった。 #彼女をライブに誘うなら

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24. 「…どうしたん？なあ、泣かんといて…」 そう言うくせに泣きそうなその声が頭の上から聞こえたのは、あたたかい胸と逞しい腕に包まれたからだった。 「…たーくん、…好き」 それが、初めて彼に伝えた“好き”だった。 #彼女をライブに誘うなら

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25. 「…不安だったの。たーくんが何も教えてくれないのは、私を好きじゃないからなのかな、って。 …勝手だね。私、自分で“自分が何者かなんて関係ない”なんて言っておいて」 色眼鏡で見られたくないのは、私だって同じだったのに。 #彼女をライブに誘うなら