【真夜中の突発掌編】座敷牢と人食い少女の話

フォロワーさんの一言にトリガーを引かれて勢いで書いてしまったもののまとめ。
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綺月 桜 @kiduki39ra

ママー!座敷牢に閉じ込められている人食い少女の話してーーー!

2017-07-24 00:47:27
綺月 桜 @kiduki39ra

直系の一人娘だから始末も出来ないし、と座敷牢に閉じ込められて、次の跡取りが出来るまで生かされて酷いことされる人食い娘ー。

2017-07-24 00:52:50
遊兎 @32k8uto

xxx村の名家であったxxx家の屋敷の奥に座敷牢の痕跡が認められた。奥女中として長くこの家に勤めた老婆から証言を得ることができた。 「お館様のお孫様が、お隠れになっていんさった」 お館様というのは、三代前の主人を指す。仮に庄五郎としよう。 庄五郎には二人の子があった。共に男子だ。

2017-07-24 00:59:39
遊兎 @32k8uto

兄を庄一、弟を庄次としよう。 噂の伝える所によると、庄次は当時の人間としては大変先進的な考え方を持ち、庄一はその逆だった。庄五郎は庄一を可愛がり、近郷から器量好しの嫁をとった。庄次は兄から疎まれ家を追われるように婿に出された。 「お孫様はおなごでした」 庄一は二女を設けた。

2017-07-24 01:06:18
遊兎 @32k8uto

庄一の最初の子は冬を越えられずに死んだという。嫁は悲しんだが、庄五郎も庄一も跡取りとなる男児を望んだため、この死は軽んじられた。 二人目も女児であった。庄五郎は奥向きに部屋を作らせ、嫁と女児をそこに押し込めた。 「お武家様なら側室といいんさるでしょう」 家内で妾を持たせたのだと。

2017-07-24 01:11:52
遊兎 @32k8uto

あるいは、この老婆も手付きになったのかもしれない。だが本筋には関係がない。 庄一は精力的に跡取りを設ける努力をしたのだという。奥向きの一室で、悲劇は起こった。器量を買われて嫁いできた女が、狂った。剃刀を喉に走らせて、発見された時には血の海に沈んでおり、傍の娘は焦点の合わない目で…

2017-07-24 01:17:37
遊兎 @32k8uto

母の喉元にすがりついて、小さな口もとを真っ赤に染めて、一心不乱に、すすっていたのだと。 「空恐ろしい…有様で」 それを発見したのは、何の因果か庄一自身だったという。 母娘を押し込めてから顧みることのなかった男が「呼ばれた気がした」とあしをふみいれ、それを目の当たりにした。

2017-07-24 01:20:56
遊兎 @32k8uto

力を込めて、娘を張り倒したという。娘の軽い身体が壁に叩きつけられるほど。 「そこの壁に、血の跡がべったりと」 真偽は定かではない。実際に検分したその部屋…座敷牢の壁にはそのような汚れはなかった。張り替えた可能性は高いが。 「お名前を呼んだそうです」 母か娘か、両方か。庄一様、と。

2017-07-24 01:25:15
遊兎 @32k8uto

その日を境に、庄一は不能となった。 それだけでなく、ひどく臆病になり、家長としての判断を何ひとつ下せなくなったという。 「お館様は…ご存命で」 病床の庄五郎は金を積み、誠心誠意を尽くして婿に出した庄次を手元に戻した。庄次は、兄と娘をその部屋に押し込めたのだという。

2017-07-24 01:29:03
遊兎 @32k8uto

庄一が諾々と従ったはずもなく、部屋を潰せ離れを造れとひどくごねた。庄次も最初からそうしたわけではなく、兄の部屋を設けようとした、そうだ。 「お孫様が、枕元に立つのだとおっしゃっていました」 庄次が戻った夜、寝床に娘が現れたのだという。後手を組んで立つ娘が恐ろしかったのだと。

2017-07-24 01:37:07
遊兎 @32k8uto

娘は、母譲りの器量で、肌は白く髪は黒く光がこぼれるような目をしていたという。 くちびるがすすった血の色を宿したような赤に濡れていたという。 「恐ろしかった…とおっしゃっていました」 庄次は先進的な考えの、頭の良い男だった。彼をして、娘を自由にさせてはいけないと思わせたのだと。

2017-07-24 01:45:13
遊兎 @32k8uto

「お隠れになる部屋を、ご当主が造られたのです」 当主とは庄次のことだ。娘の異様さに、座敷牢を造るのを即座に決めたのだと。しかし、一晩やふた晩で仕上がるものでもない。縛りもした。柱にくくりつけもしたのだという。 「ですがお孫様はするりとお抜けになってしまわれて」 夜な夜な、枕元に。

2017-07-24 01:51:00
遊兎 @32k8uto

老婆は含みたっぷりに笑って見せた。 庄一の妻は狂って死んだが、それは色狂いだったのだと、底冷えのするような陰惨な笑みとともに、そう告げた。 娘はひどく母に似ていた。顔かたちだけでなく性根まで。そうでなければ。 「夜な夜なご当主の床に滑り込むことなど、どうしてできましょう」

2017-07-24 01:58:01
遊兎 @32k8uto

座敷牢が出来上がる頃、庄次はげっそりと、やせこけていたという。庄五郎は起き上がることも困難なほど病みおとろえていたという。 庄一は娘とともに座敷牢に押し込められ、一月持たずに死んだという。狂って、剃刀を喉に走らせて。娘は庄一の足元で、つまらなさそうに寝そべっていたという。

2017-07-24 02:02:06
遊兎 @32k8uto

娘は狂っていたのかと問うてみた。 「気ぐるいだとしても、直系の娘だから」 その後の庄五郎について。 「冬を越えられんかった」 その後の庄次について。 「頭のいい人だったから、考えに考えて、考え抜いていた」 何について? 「家を残す方策」 成功したのか? 聞きかけた。愚問だった。

2017-07-24 02:09:34
遊兎 @32k8uto

庄五郎が三代前のお館様。庄次は二代前の当主様。その子が先代、その次が現在の…この家を手離す決断をした主人に当たる。 庄次は家を残した。後が続かないのは彼の責ではないだろう。時代のせいもある。 娘はどうなったのか。 …座敷牢は今も健在なのだ。

2017-07-24 02:16:36
遊兎 @32k8uto

庄次はxxx家に戻ってから一男二女を設けたとされる。だが、婚姻の記録は最初の婿入りのものしかない。亡くなった兄の娘を養女にした記録は残されている。庄次の子、娘ふたりは幼くして死んだという。 一男に婚姻の記録はなく、だが一男を設けたという。 青白い肌と妙に赤い唇の男だった。

2017-07-24 02:21:59
遊兎 @32k8uto

老婆は陰惨な笑みを、かつては紅をさしたように赤かったであろう口もとにたたえている。 「奥向きの女中として、仕えておりました」 ぎょろりとした目が虚空を見る。 屋敷が冬を待たずに取り壊される予定だと告げると、老婆は一瞬目を細め、小さく息をついた。 それが最後だった。

2017-07-24 02:25:56