第16話 水平線上の大禍時(後半)

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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

----------------------------------------- 水平線上の大禍時(後半) <シーケンス09> 雪待草の式典 -----------------------------------------

2017-07-24 21:04:36
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

16-9-1「…やっぱり凄い、なぁ」 綾香は目の前に聳える巨大な船を見上げ、その雄大さに圧倒された。 人類の希望を乗せて毎年の今日、ここ神戸港を発つ豪華客船『スノウドロップ号』。数年前、兄と父母と見に来た時にも同じように圧倒されたものである。でも、あの当時と最大の違いと言えば…

2017-07-24 21:06:30
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16-9-2「綾波、そろそろ配置に」 ザッ、と真後ろで艤装が海面を切る音。浜風の声掛けが綾波の意識を引き戻す。そう、ここは海の上。今の自分は艦娘であり、自分の足元は硬いアスファルトではなく、揺らめく冬の海水だ。 「うん…」 口では返事をしつつも、綾香の目は観光客へ泳いでいた。

2017-07-24 21:07:33
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16-9-3「思うところがありますか?」 「それは、そうだよね…」 出港前の船を見ようと集まった人々で、波止場は朝も早めの時間ながらお祭りの会場のように賑わっている。過去の自分達はその中に居て、そこから船を見ていたのだ。 「びっくりだよね。いつか乗ってみたいなぁと思ってたのに」

2017-07-24 21:08:22
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16-9-4 綾香は自分の手に目を落とす。12.7cm連装砲B型改Ⅱ。今日の作戦のために風見が用意してくれた新品だ。更に、肩の上では熟練見張り員の妖精さんがスノウドロップ号をきらきらした目で見上げている。 「まさか守る側になっちゃうなんて、ね」 「…流石に予想がつかないですよね」

2017-07-24 21:08:56
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16-9-5「ごめん、顔合わせだよね。行こう」 ちょっと複雑な気持ちなのは正直なところだ。だが、それならそれで今は自分の役割を果たさなくてはいけない。この船を、乗客を横須賀まで安全に送り届ける事…それが『綾波』としての自分の役割。 「私は対潜警戒要員ですので、ここで」 「うん」

2017-07-24 21:09:49
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16-9-6 途中で浜風は綾波と別れ、別のグループへと加わった。 各鎮守府から招集された艦娘達は、それぞれ与えられた役割が違う。普段対空要員とされている艦娘は対空要員のグループへ、空母は空母達で機動艦隊へ…こうして幾つもの艦隊が客船の周りを囲み、厚い防衛層を形成する。

2017-07-24 21:10:37
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16-9-7 偵察、対空、対潜、艦隊主力、空母、最終防衛。スノウドロップ号を中心にして多重輪形陣を形成。午前9時には神戸港を出港し、空母が艦載機を出せなくなる日没午後6時前には横須賀の湾内入りを目指す計画となっている。 浜風は対潜、五十鈴は対空、雲龍は空母のグループだ。

2017-07-24 21:12:55
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16-9-8「(えっと、私の配置は…)」 綾波は客船の右舷に集合した一団を見つけ、その輪に加わった。 「あら、貴方で最後かしら!」 「お待たせしてすみません。綾波と申します」 彼女が配置されたのは『最終防衛ライン』。船の側近区域で防御行動を行う、文字通り最後の壁である。

2017-07-24 21:13:05
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16-9-9「宿毛湾泊地所属の第六駆逐隊、暁よ。宜しくね!」 「同じく、雷よ!」「電なのです」「響だよ」 綾波よりも更に小さな4人の駆逐艦達が順に彼女に名乗る。 「そして、私が今回の引率役よ」 暁達の後ろから、武装を満載した軽巡洋艦が綾波に向けて笑いかけてきた。

2017-07-24 21:13:55
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16-9-10「大湊警備府所属、夕張よ。このチームの旗艦を務めることになってるから…短い間だけど宜しくね、綾波ちゃん」 「ちょっと夕張さん!『引率』は子どもっぽいからやめてって、さっきお願いしたでしょ!」 夕張の発した『引率』というワードに暁が敏感に反応し、頬を膨らせる。

2017-07-24 21:14:52
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16-9-11「ごめんごめん、大湊で小さい子達の面倒も見てるからつい、ね」 食って掛かる暁の姿は綾波の目から見ても実際少々子どもっぽい。しかし、今日この場所に招集されているという事は… 「ね、雷ちゃん。貴方達は自分の鎮守府で推薦とか、試験とか…そういうの、受けてここに来たの?」

2017-07-24 21:16:06
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16-9-12「うん、私達の司令官は以前の大規模作戦でも活躍したし、私達もその時は最前線に居たし。電は提督の秘書官もしてるのよ!」 屈託のない笑顔を向ける雷の後ろで、電は恥ずかしそうに縮こまる。 やっぱり、そうだ。司令官に聞いた通り、今この場に居る艦娘達はエリート中のエリート。

2017-07-24 21:17:10
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16-9-13「毎年憧れだったから、今日は張り切って護衛しなきゃね!」 そう言って雷は嬉しそうに傍らの客船を見上げる。 鎮守府所属の艦娘にとって、この役目に抜擢されることは一つの栄誉…雷の輝く目がそれを物語っている。それなら、今ここに居る私は。 「綾波さんはどこの所属なんだい?」

2017-07-24 21:18:15
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16-9-14 …となれば当然、この質問も生まれてくるだろう。響が興味深げな目で綾波の事を見ていた。 「私は」 綾波は答える前に一度執務室でのやり取りを思い出すために目を閉じた。 「私は『特務艦隊』の構成員です。鎮守府の所属ではないんです」 「えーっ!それって、それって!」

2017-07-24 21:18:54
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16-9-15 第六駆逐隊の四人があっという間に綾波の事を囲んできた。夕張は夕張で興味のある顔で此方を見ているのが分かる。 「それって、鎮守府のえらーい人の指示で秘密の任務を受けるやつ!?」 「深海棲艦の基地に潜入とかもしてるって噂で聞いたわ!」 「あわわ…凄い人だったのです」

2017-07-24 21:19:34
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16-9-16「でも、ごめんなさい。お仕事の内容までは、ヒミツなんです」 風見は綾波達に事前に対応の仕方を教えていた。特務艦隊である事を隠す必要は無い。だが、艦隊名と任務内容については口外しないように。それが彼の出した指示だ。 「えー…でもそれは、そうよね。仕方ないわ」

2017-07-24 21:20:26
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16-9-17「でも、お土産話がこれでまた一つ増えたのです」 「これは自慢になる」 駆逐隊の子らは取り敢えず納得してくれたらしい。 「それじゃ綾波ちゃん今日は宜しくね!特務艦の力、見せてもらうから!」 「でも、それって船が攻められないと見られないのです…」 「はっ!そっか!」

2017-07-24 21:21:12
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16-9-18 話が終わると、4人は興奮した様子のまま今度は客船の話をし出した。 「ああいう子達と一緒になるのは初めて?」 「あはは…はい、まぁ…」 夕張の質問に、綾波は曖昧に返事をする。確かに一緒になった事は無いが。 「それでもあの子達は、他の鎮守府に名前の届くツワモノよ」

2017-07-24 21:22:13
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16-9-19「見た目と積み重ねてきた物は必ずしも比例しないわ。そういった意味で言えば…私が気になるのは、貴方のほう」 夕張は少し声の音量を落とし、真剣な眼差しで綾波を見つめた。 「ね、これから短い間とはいえ、私は貴方を引っ張る存在になるの。だから、差し支えなければ教えて頂戴」

2017-07-24 21:23:03
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16-9-20「…答えられる範囲であれば」 「それじゃ1つだけ…『貴方はまともな場所で、まともな任務を受けてる?』」 夕張の鋭い問いに、綾波の心臓がドクンと跳ねる。顔には出さないように努めたが、夕張は明らかに綾波の内心を見定めようとしていた。 「…それは、どういう意味でしょうか」

2017-07-24 21:23:58
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16-9-21「そのままの意味よ」 夕張の目の奥にある感情は、疑いというよりは不安に近いものだ。 「あの子達のように…『特務艦隊』を現代のスパイだとか忍者のような特別な存在と捉えることも出来る。でも、私達一般の艦娘が『特務艦』について聞く噂は良い物ばかりじゃないの」

2017-07-24 21:24:50
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16-9-22 夕張は海面に目を落とす。 「出来損ないの艦娘達が提督にいいように扱われるだとか、欠陥を抱えた艦娘達が普通ならとても精神のもたない任に就いているとか…そういう悪い話もあるの。そういうの、聞いたクチだから…」 見ず知らずの軽巡洋艦は本気で綾波の事を心配してくれていた。

2017-07-24 21:25:59
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16-9-23 確かに…確かに、これまでの任務を思うと危険な任務に就かされていたのは間違いない。だが… 綾波は島での生活や、仲間の顔、司令官の顔を思い浮かべる。 「ご心配有難うございます、夕張さん。でも、私は違いますよ」 そして、心からの笑顔でそう返答したのだった。

2017-07-24 21:27:10
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