「私には我慢できないものが三つある。超音波のような幼児の泣き声と、本を大切にしない奴と、ナスビだ」 「……何故そこでナスビなんだ?」 「あんな見た目も味も食感も本能的に拒否反応が起こる悪夢のような物体を私は野菜とみなすことが出来ない。あれは食物として致命的な欠陥を負っている」
2017-08-04 00:27:45「じゃあ麻婆茄子食べれないのか。あれ美味しいのに」 「いや、麻婆茄子は食べれる」 「……………………」 刻んだピーマンをハンバーグの中に混ぜたら食べれました、みたいな感じなのだろうか。……いや、あれはあれで紛れも無くナスビだろう。 ちょっと理解出来なかった。
2017-08-04 00:28:34だが彼女を理解出来ないのは今に始まったことではない。 恐らくこの先もずっとこうなのだろう。 「嫌悪感と言うのには実に人間的な感情だ。まぁ感情自体が人間独特のものなのだが」 「ぼくは嫌悪感と言う感情を嫌悪するけどね」
2017-08-04 00:28:54「ふむ……矛盾を孕んでいるが、至極もっともな言い分だ。だが人間には欠かすことの出来ない感情でもある」 冷たく、強い風が吹き抜けた。 彼女は足が寒くないのだろうか、と思った。 今日も今日とて彼女は膝上数センチのスカートを穿いている。 ちなみにスカートは捲れなかった。
2017-08-04 00:29:48「実はさっき挙げた三つ以外にも私は我慢出来ないものがある」 「だろうね」 彼女は好きなものより嫌いなものの方が圧倒的に多そうだ。 「何か分かるかな?」 「……ぼくなら、強いて挙げるとすれば『自分自身』かな」 「素晴らしい」 女の子は感嘆の声を上げた。
2017-08-04 00:30:05「その通り、私も最も嫌悪するものは『自分』だ。なかなか気が合うね、君」 「じゃあ似た者同士のぼく達は実は互いが嫌いだってことなのかな」 「そんなことはないさ。私が保証する。私は君じゃない。私は君に似ているが、『私』は『君』ではない」 女の子は不敵な笑みを浮かべる。
2017-08-04 00:30:31言い方によっては拒絶されたように聞こえる言葉だが、それは彼女がぼくを受け入れたことに他ならないことに気付くのに時間は全くいらなかった。 また、『ぼく』も『君』ではないのだ。 「好きと嫌いは紙一重とはよく言うものだね」 「別にぼくは君のことが好きじゃないけどね」
2017-08-04 00:30:59「おや、フラれてしまったようだ」 「告白したところでOKしないだろ」 「それはどうかな」 これだから女は狡い。 だが、こういった会話は嫌いではない。 ぼくは意味の無い、当たり障りの無い、他愛ない会話をするのが大好きなのだ。
2017-08-04 00:31:16