関堂先生の著作者人格権論考

仏頭すげ替え事件をまくらに、著作者人格権について関堂先生が論じています。
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関堂 幸輔 @sekikos

さて,休日だけれど久々に真面目(?)な話題行きますかね―僕はいつでも真面目だけど(嘘)。仏像首すげかえ事件に関して,著作者人格権のお話。

2010-03-28 14:15:00
関堂 幸輔 @sekikos

まず前提。著作者人格権は,著作者(著作物の創作者)であるがゆえの人格的権利。人格権はその人固有で,主体である人が亡くなれば人格権も消滅。

2010-03-28 14:17:00
関堂 幸輔 @sekikos

わが国の著作権法は,著作者人格権として,公表権(18条),氏名表示権(19条)および同一性保持権(20条)を規定する。

2010-03-28 14:18:25
関堂 幸輔 @sekikos

著作者が死亡した場合,本来は著作者人格権も消滅する(財産権としての著作権は死後も存続するが)。しかしそれでは,著作者の死亡後,例えば著作物をメチャクチャに改変しても同一性保持権がないのだから構わないということになってしまう。

2010-03-28 14:20:15
関堂 幸輔 @sekikos

(注: 財産権としての翻案権が働くのはここではさて措いて。)

2010-03-28 14:20:56
関堂 幸輔 @sekikos

そうした不合理を避けるべく,著作権法は,著作者が存しなくなった後でもその人格的利益を保護する規定を置いた(60条)。すなわち,著作物の提供・提示者は,その著作物の著作者が存しなくなった後でも,著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない,と。

2010-03-28 14:23:38
関堂 幸輔 @sekikos

しかし60条だけではその違反者に対して実効性がない。したがって,著作権法116条は,著作者の一定の遺族に,違反者に対する違反行為の差止めと名誉回復の請求権を認めている。

2010-03-28 14:26:09
関堂 幸輔 @sekikos

まずここまで前提。そしてもう一つ確認しておきたいことが次。

2010-03-28 14:27:16
関堂 幸輔 @sekikos

一連の著作者人格権も,利用との関係で一定の制限を受ける。18~20の各条では,それぞれ適用除外が定められている。例えば,やむを得ない改変(20条2項各号)は認められる。

2010-03-28 14:29:11
関堂 幸輔 @sekikos

もう一つ,著作者死後の人格的利益保護(60条)についても,ただし書きがあり,当該行為の性質および程度,社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合には,同条が適用されない。

2010-03-28 14:31:45
関堂 幸輔 @sekikos

さてここからが本題。著作者の死後その遺族が著作者人格権(人格的利益)を根拠に差止請求権を行使することを制限しうるか。できるとしたらどのような論拠か。

2010-03-28 14:33:19
関堂 幸輔 @sekikos

もう少し平たく言うと,著作者存命中ならご本人が差し止めるのも理解できるが,死後遺族が言うのは如何というケースがあるか。あるとしてそれをどう制限するか。

2010-03-28 14:35:02
関堂 幸輔 @sekikos

僕が仏像の事件に関連して思い出したのは,三島由紀夫の私信のケース(これは @shiraist さんもおっしゃるように同じく捉えるべきではないと僕も思う)。それともう一つ,故・川内康範氏の “おふくろさん” 騒動。

2010-03-28 14:38:35
関堂 幸輔 @sekikos

“おふくろさん” は,川内氏自身だからこそあのような異議を唱えたと言えるのではないか。おかしな言い方だが,冒頭に別の詩をつけたのが彼の死後にわかったのだったら,あの騒動はなかったかもしれない。

2010-03-28 14:44:15
関堂 幸輔 @sekikos

逆に,“おふくろさん” の無断改変について川内氏が生前何も言わず(気づいていなかった場合も含む),その死後その遺族が問題だと主張した場合どうなるか。道義的には如何と感じられるが,法律上これは何かを根拠に制限できるか。

2010-03-28 14:46:27
関堂 幸輔 @sekikos

著作権法の116条や60条,それに18~20の各条からは,「遺族だから制限される」という内容は直接には読み取れない。

2010-03-28 14:51:57
関堂 幸輔 @sekikos

18~20の各条の適用除外規定は,氏名不表示や改変が「やむを得ないと認められる」場合だから,これが著作者存命中とその死後とで(著作者の死亡という事由だけで)変わるとは考えにくい。

2010-03-28 14:54:09
関堂 幸輔 @sekikos

60条のただし書きがそれらしく見えなくもない。すなわち,「行為の性質及び程度,社会的事情の変動その他によりその行為が…」の部分,特に著作者本人が亡くなっている事実は,「事情が変わった」と言いうる可能性がある。

2010-03-28 14:55:43
関堂 幸輔 @sekikos

ところが,だ。60条ただし書き後半には,「…その行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合」に適用されないとある。僕は個人的に,この条文自体矛盾をはらんでいると思う。

2010-03-28 14:58:00
関堂 幸輔 @sekikos

「社会的事情の変動」など,すでに死んだ著作者にわかるはずもない。おそらく彼/彼女の生前も予測していないだろう。しかしその「死人に口なし」の人の「意を害しない」と認められるかどうかで判断させる。まあ法律ではよくあるが,これはもう事実認定の問題。

2010-03-28 14:59:59
関堂 幸輔 @sekikos

著作者が生前に明確に意思表示していた場合はともかく,その「意を害しない」かどかは事実認定による。そこで意を害しないと認められれば,遺族の請求は斥けられることとなる可能性がある。

2010-03-28 15:03:52
関堂 幸輔 @sekikos

ただ訴訟法的に,「(すでに亡くなっている)著作者の意を害しない」かどうかについて主張・立証は難しいだろう。おそらくは,遺族が差止等請求した場合は「意を害する」だろうとされて,被告側が反証する形になる?(この辺は訴訟法が専門ではないので自信なし)

2010-03-28 15:07:02
関堂 幸輔 @sekikos

いずれにしても,著作者の死後の人格的利益に基づく差止等請求は,利用者や一般の人から見ると「どうかな」と思えるフシがある。とりわけ著作者自身が生前何も言っていない場合。

2010-03-28 15:11:25
関堂 幸輔 @sekikos

ただそれは,著作者自身が単に気づいていないだけかもしれないし,三島の私信のケースのように,そのように使われることを想定していなかったであろう場合もある。

2010-03-28 15:12:19
関堂 幸輔 @sekikos

で…差し当たり,個別の事情によっては,遺族の差止等請求があまりにもご無体なものであれば,それを「権利濫用」として処理するのが妥当なのかな,と。

2010-03-28 15:14:36