日向倶楽部世界旅行編第10話「ヒューガリアンの日」

豪華客船「ヒューガリアン」、動く鎮守府とも言えるこの船のとある一日の物語、箸休め回。
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三隈グループ @Mikuma_company

【前回までの日向倶楽部】 扶桑です。 バヌアツへ向かう途中、救難信号を受けた私達は海賊に襲われている艦娘「鈴谷」さんを発見、救助しました。 事情を聞くと悪い人達に逆恨みをされている様子、安全の為に三隈さんが十万ドルで彼女を雇いました。 …今、1ドルはいくらなのでしょう?

2017-08-15 21:30:04
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 鈴谷を救助した為にヒューガリアンは当初の航路を外れ、次なる目的地バヌアツへの到着が遅れていた。 そんなヒューガリアンに生まれた「余暇」の過ごし方は、同じ屋根の下で暮らす者達でも多種多様であった。 〜〜

2017-08-15 21:31:09
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日向倶楽部 〜世界旅行編〜 第10話「ヒューガリアンの日」

2017-08-15 21:31:24
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 航空戦艦娘「日向」、日向倶楽部の隊長を務める彼女は今、船内の自室でのんびりとテレビを見ていた。 「今年も無理そうだな…」 液晶テレビの中では球児が白球を追いかけている、彼等の中には自分より十歳近く下の者もいるだろう、そんな事を考えると自然とため息が漏れる。

2017-08-15 21:32:06
三隈グループ @Mikuma_company

試合終了のサイレンと共にテレビを切り、布団に転がりながらスマートフォンを弄る。そうやって何も考えずダラけていると、自然と頭の中に先日の出来事が浮かんでくる。 ー貴女もそれ、使えるんだ? 謎の艦娘「伊勢」の言葉が耳の中に木霊し、日向は苦々しい顔で天井を見る。

2017-08-15 21:33:12
三隈グループ @Mikuma_company

(瑞雲の鼓動…いつか出会うとは思っていたが、こうもすぐとはな…) 瑞雲の鼓動や晴嵐の波紋、これらは不思議な力であるが、神や悪魔に与えられる奇術の様なものではない。 それはもっと普遍的で、艦娘どころか全ての人間が起こせるかもしれない力なのだ。

2017-08-15 21:34:03
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だからこそ、だからこそこの時を日向は危惧していた、これを使って悪事を働く輩が居ない訳がないからだ、火や刃物ですら家を燃やしたり人を刺したりする奴がいるのだから、当然の懸念である。 更に悪い事に先日会った伊勢は海賊の一員、真っ当な使い方をするとは到底思えなかった。

2017-08-15 21:35:03
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(ジャングルで見た化け物の事もある、観光…いや旅を続ける為にも、少し気を引き締める必要があるかもな…) ニューギニア島では毒によって命の危機に遭った、観光地だろうと無防備な状態は避ける必要が出ている。 日向はのそのそと立ち上がると、船の格納庫へと向かって行った。 〜〜

2017-08-15 21:36:03
三隈グループ @Mikuma_company

〜〜 航空巡洋艦娘「鈴谷」は、一人でヒューガリアンの中を探索していた。 十万ドルという大金を貰った以上しばしここの世話になるのは明らか、よって早めに船内の構造や人間関係を覚えておく必要があった。 これは、彼女がワタリ艦娘をやる上で常に心がけている事でもある。

2017-08-15 21:37:03
三隈グループ @Mikuma_company

(外見もそうだが、中身もメチャクチャにデカい船だ…。こんな巨大な船で一体何しようって訳…?) 無数の扉が並ぶ廊下を歩く、豪華客船を流用しているだけあってヒューガリアンは規格外の広さを誇っている、鈴谷にはただの旅行者がこれだけの船を所有する理由が分からなかった。

2017-08-15 21:38:03
三隈グループ @Mikuma_company

そんな違和を感じつつ彼女が歩いていると、廊下の向こうから背の高い女性が歩いて来た (あの人は…) 鈴谷がそうする前に、その女性は気さくに声をかけて来た 「やあ、鈴谷じゃないか。」 「やあ隊長さん、こんにち。」 隊長さん、女性の正体は日向である。

2017-08-15 21:39:03
三隈グループ @Mikuma_company

「ここには慣れたか?」 「うーん、今慣れる為に探索中ってとこだねぇ。」 三隈から渡された地図を見せる、誰がどの部屋なのかまで細かく描かれた地図だ。 「そうか、分からない事があったら気軽に聞いてくれ。」 「悪いねえ、親切な船に拾われて本当にラッキーだよ。」

2017-08-15 21:40:03
三隈グループ @Mikuma_company

少しの立ち話をした後、日向はその場から立ち去った。 (あの人が日向…ここの隊長で剣の達人、航空戦艦娘。この前あたしを襲ったヤローと似た不思議な力を使う…こんなところかね。) こうやって雇い主やその周りについて整理するのもいつも通り、円滑なワタリ生活には欠かせないものだ。

2017-08-15 21:41:03
三隈グループ @Mikuma_company

再び誰もいない廊下を進む (しっかしここの船はあの6人以外誰も乗ってないのかねぇ…誰もいない船ん中歩いてると不安になってくるよ。) 微塵も人気がない船内をシャンデリアが煌々と照らす様は鈴谷にとってかえって不気味であった、暗い方がまだ納得もできるというものだ。

2017-08-15 21:42:13
三隈グループ @Mikuma_company

しばらく歩いていると、向こうから人の声がする扉が現れた。 (この声は確か最上…それと初霜か、ここが二人の部屋って訳ね。) 楽しそうに話す声が聞こえる、どのみちこれから話す機会もあるだろうし、割り込むのも悪いので彼女はそこを素通りした。 そうしたが、当然二人についても整理する。

2017-08-15 21:43:03
三隈グループ @Mikuma_company

(最上…鈴谷と同じ最上型の航空巡洋艦娘、なんか知らないけど甲板で殴る。初霜は駆逐艦娘、背丈は小学校高学年〜中学生くらいだったけど、艦娘としてはかなり成熟してたな…) 海賊との戦いで彼等や日向の実力は推し量れた、自分の身を守るには十分すぎるほどの能力…というのが鈴谷の評価である。

2017-08-15 21:44:03
三隈グループ @Mikuma_company

階段を上ったりしつつ更に進む、誰が補充するのか不思議な自販機、使われていない空き部屋軍団、ワタリ艦娘として各地を放浪していた彼女でもそう見る事のない不思議な空間の連続であった。 (本当に広い…無限に続く感じ、慣れるのには少し時間がかかるかもしれないねぇ…)

2017-08-15 21:45:03
三隈グループ @Mikuma_company

自分がどの程度乗る事になるかは分からなかったが、全ての部屋に入る前にこの船を降りる事は確かだろう、「広大」という乗り物には不似合いな言葉がよく似合う。 しかもまだここは生活スペースのみ、機関室や格納庫、娯楽スペースの存在も考えると最早一つのダンジョンであった。

2017-08-15 21:46:03
三隈グループ @Mikuma_company

やがて一通り船内を歩き回ってブリッジに顔を出そうと戻る途中、鈴谷は三隈に出くわした。 彼女はこちらの顔を見ると、幸運とばかりに歩み寄って来る。 「鈴谷さん、丸ちゃん見ませんでした?」 「丸…え?」 「ああ、ごめんなさい。あきつ丸さんの事ですわ。」

2017-08-15 21:47:07
三隈グループ @Mikuma_company

三隈曰く、あきつ丸に用があるのだが何処にも居ないのだという。 「すぐだからと携帯は置き去りだし、何処にいるか分かりませんの。私手が離せないから…お願い出来るかしら?」 「う、うん…まあ雇われてるんだし構わないよ。」 鈴谷の返事を聞くと、三隈は礼を言ってその場を立ち去った。

2017-08-15 21:48:03
三隈グループ @Mikuma_company

(乗って一日の船で人探しか…随分腕を買われてるみたいだねぇ…) 義手でぽりぽりと頭を掻き、彼女はあきつ丸を探し始めた。 (ていうか、船内アナウンスとかじゃあダメなのか?) 疑問もほやほやと浮かんだが、仕事は仕事、割り切って船内を探し始める。

2017-08-15 21:49:07
三隈グループ @Mikuma_company

(三隈もあたしと同じ最上型、会長の娘がトラック泊地に居るのは知ってたけど、それが世界旅行でしかもあたしを雇うなんて妙な縁もあるねぇ…) 危なくないのか、それで良いのかなどを考えつつあきつ丸探しに励む。 (ゼロの手がかりが掴めりゃあ儲けもんなんだがなぁ…同じミクマだし無理か…)

2017-08-15 21:50:10
三隈グループ @Mikuma_company

そんな事を考えつつ船内を探していると、顔の白い女がキョロキョロしながら船内を歩いていた、その覚えやすい特徴からあきつ丸である事はすぐに分かった。 「おーい、あきつ丸ちゃんだよね。」 「…む、貴女でありますか。」 手を振りながら声をかけると、あきつ丸は口をへの字にして応えた。

2017-08-15 21:51:03
三隈グループ @Mikuma_company

鈴谷は三隈に頼まれた事を話した 「三隈殿が?」 「そ、お嬢様心配してたからさ。」 一緒に戻ろうと促す、しかしあきつ丸はその誘いに乗り気ではなかった 「…いえ、自分一人で戻れるであります、ご心配なく。」 それどころか完全に断る気であった。

2017-08-15 21:52:03