喜多野土竜先生に聞いた震災後の漫画について

東北地方太平洋沖地震が人々に与えた影響は大きい。それが今後の漫画の表現にどう影響してくるかを喜多野土竜先生に聞いてみた。 日本敗戦〜の興味深い考察。 初めてとぅぎゃりましたのでご指摘ご指導ありましたらお願いします。
21
ショーン @sh_buchi

@mogura2001 突然失礼いたします。喜多野先生のご意見をお聞きしてみたいと思い、つぶやきをお送りする次第です。先程竹熊先生が森川嘉一郎先生のつぶやきをRTなさっていましたが、喜多野先生はこの震災を機に漫画の表現(物語や人間の描き方)がどのように変化していくとお考えですか?

2011-03-21 14:22:30
ショーン @sh_buchi

@mogura2001 私は、日常の癒しになるものと、社会性のあるシリアスな漫画の二極化が進み、内面的な物を描くフィクションが減る、受け入れられなくなるのではないかと考えています。

2011-03-21 14:23:59
ショーン @sh_buchi

@mogura2001 自分の考えは浅薄なものであるのは承知しております。お時間のある時で良いので、是非先生のお考えを聞かせて頂きたいです。

2011-03-21 14:25:43
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file 例えば、日本は敗戦のトラウマを抱えて、それらが作品に反映されました。『宇宙戦艦ヤマト』は、日本が枢軸国ではなく連合国に参加し、ナチスのメタファーである敵を倒す、という捻れた内容でした。これに反発した富野由悠季監督や安彦良和氏は、機動戦士ガンダムを作ります。

2011-03-21 14:39:46
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ガンダムも、コロニーの自治=植民地化された東亜開放、というメタファーです。ミノフスキー粒子による大艦巨砲主義の崩壊と、モビルスーツによる機動力を生かした戦いというのは、真珠湾攻撃以降の空母をベースとした航空機機動戦力時代のメタファー。ザクは零戦なのです。

2011-03-21 14:43:38
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ジオン・ズム・ダイクンが唱えた、認識力が高まった人類(ニュータイプ)による共存というのは、実は八紘一宇です。ガンダムは企画段階ではガンボーイという名称でしたが、銃=アメリカのメタファー。ガンダムの配色が赤・黄・青・白なのはスーパーマンの服と同じ星条旗の色。

2011-03-21 14:48:52
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ところがヤマトの批判として意図されたガンダムも、捻れが生まれます。アムロも企画段階ではアムロ嶺だったように、日系が多いホワイトベースのクルーが、鎧武者をモチーフにしたガンダムで、枢軸国と戦うという、ヤマトと同じモチーフが入り込みます。自虐と愛国心の捻れ。

2011-03-21 14:53:43
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ガンダムでは、ジオンの理念は正しかったが、それをザビ家が歪めた…という態を取ります。では、その理念はどこに? キャスバル兄さんが受け継ぎます。彼のイメージカラーが赤なのは偶然ではなく、日の丸の赤。ガンダムが星条旗カラーなのに呼応しています。

2011-03-21 15:00:05
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file このような捩れの結果、ヤマトの反発から生まれたはずのガンダムは、核兵器を肯定できないという日本人の感情に逆らえなくなります。アメリカの『戦争を終わらすには原爆は有効だった』という論理は認めがたい。その結果、ガンダム世界ではジオン側が核兵器を使うことに。

2011-03-21 15:04:29
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ソーラーレイは、巨大ですがただのレーザー光線なのに、アムロが「憎しみの光」と過剰反応するのは、それが原爆のメタファーだからです。枢軸国が原爆を使うという捻れた発想の原点は、たぶん波動砲が影響してるのでしょう。波動砲も核兵器と同じ、絶対的切り札ですから。

2011-03-21 15:09:41
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file そうやって、ヤマトへの反発から生まれたガンダムも、敗戦のトラウマを解消はできなかったため、ゼータが生まれます。連邦軍=連合国が勝利した後の、戦後世界の秩序の枠組みに対する異議申し立て、ですね。ハッキリ言えば、アメリカが主導する戦後秩序への反発。

2011-03-21 15:13:20
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ゼータガンダムが星条旗カラーから変化したのも当然ですね。もっともゼータでも「理念は正しかったが、それを歪めてしまった悪人がいた」というプロットが繰り返されます。連合国が発展した国連は気に食わないが、国連中心主義しか選択肢はない以上、常任理事国に文句を言う。

2011-03-21 15:17:37
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file 事ほど左様に、敗戦のトラウマは大きなものです。それはアメリカも同じで、ベトナム戦争は本土が無差別爆撃で蹂躙されたわけでもない、形の上では勝ちはしなかったが負けてもいないのに、深い敗北感を残します。さらにこれに、ウォーターゲート事件が追い討ちをかけます。

2011-03-21 15:21:03
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file こうしてアメリカではベトナム戦争物と呼ばれるジャンルが生まれます。『地獄の黙示録』カラーから『ランボー』に『プラトーン』などなど。しかし、最大のベトナム戦争物映画と言えば、実は『スターウォーズ』でしょう。あれはSF娯楽大作ではないかと思われるでしょうが。

2011-03-21 15:24:47
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file 『ランボー怒りの脱出』のノベライズ版は、第一作の原作者であるデイビッド・マレルが執筆しています。その中で、仲間をヘリに載せて脱出するランボーがベトナムの捕虜兵に、おまえらアメリカに帰ったらスターウォーズを観ろビックリするぜと語るシーンがあります。

2011-03-21 15:27:44
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file そこでランボーは忽然と気づきます。スターウォーズは、負けたベトナム戦争のやり直しだったと。悪の帝国に正義の民主主義勢力が勝ち、戦場で失った腕も完璧に復元されたら、自分達ベトナム帰還兵はどんなに救われた事だろう、と。実はヤマトやガンダムと同じ構造です。

2011-03-21 15:30:31
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ガンダムが鎧武者のイメージでありながら、西洋風の盾とM16をモチーフとしたビームライフルを持つように、ルークは東洋のイメージを濃厚にまとっていますね。ルーカス監督が黒澤明のファンというだけでなく、己が敗れた相手の文化を取り込むというのは、よくある現象です。

2011-03-21 15:34:44
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file 9.11テロは、そういう意味ではもうひとつのエポックでもありました。直接的にあのテロを描いた作品も多々ありますが、あの事件によってアメリカ人もようやく、ゴジラという作品が持つ意味を理解できたのではないでしょうか。夜に上陸するゴジラは夜間空襲のメタファー。

2011-03-21 15:38:11
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file 『クローバーフィールド』という作品が、エメリッヒ版ゴジラとは全く異なる表現を見せたのも、9.11テロの影響でしょう。そして、9.11テロ物と言える作品の決定版が、実は『スーパーマン・リターンズ』です。一見関係内容に思えるジャンルに、本質が宿るのでしょう。

2011-03-21 15:43:15
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file ガンダムと同じ星条旗カラーに身を包むスーパーマンは、アメリカの象徴。スーパーマンの原作者はユダヤ系で、スーパーマン自体のモチーフが川に流されたモーセを下敷きにしています。クリストファー・リーブ版では時間を逆行させたように、神のメタファーでもあります。

2011-03-21 15:46:55
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file 『リターンズ』では、スーパーマンが9.11テロを救ってくれなかったのは、クリプトン星に帰っていたから…という理由がついています(劇場版ウルトラマンでも、なぜ阪神淡路大震災でウルトラマンが助けてくれなかったかという理由の説明という形で試みられていますね)。

2011-03-21 15:57:35
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file リターンズでは、レックス・ルーサーがクリプトナイトを使って新しい国土を作ろうとするのを、スーパーマンが阻止するという内容ですが、これはアメリカの拡大主義への批判でしょうか。預言者は故郷で容れられないように、クリプトナイトで力を失ったスーパーマンは敗れます。

2011-03-21 16:01:00
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file その敗れかたが、脇腹をクリプトナイトで刺されて致命傷を負うという、キリストの磔刑がモチーフ。実際、宇宙から墜落するスーパーマンは両手を広げて十字架にかけられたよう。死の淵を彷徨い復活するというのも、キリストの死と復活というモチーフに沿っています。

2011-03-21 16:05:38
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file さて、長々と書いてきましたが、ここからが本論。日本は敗戦によって自虐の渦に飲み込まれましたが、同時に対抗運動も起きるわけで。戦前の日本を否定しようとすると、ヤマトやガンダムのような捩れが起きる。ベトナム戦争の敗戦を受け止めたはずのアメリカでも、状況は同じ。

2011-03-21 16:22:36
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

@shown_file 先日のライムスター宇多丸ウィークエンドシャッフルで佐々木中氏が危惧していましたが、大規模災害が起きると内部的な団結が高まるが、その反動もセットで起きる、と。半藤一利氏が言うように、日本人の心を一尺掘ると、尊王攘夷が噴き出す訳で。日本人凄いはそこに同伴する。

2011-03-21 16:29:34