コーシーによる関数概念の定義について調べてみた回

ルベーグ積分の発展について調べる過程で、現代的な「値の対応・写像」としての関数概念がA.L.コーシーの著作に示されているのかどうか調べてみました。本当はコーシーの「無限小」理解とε-δ論法の使い方こそ歴史的な興味の対象なんでしょうが、それについてはまとめてツイートで言及されている中根美知代さんの著書などを読んてみてください。時間軸は微調整してあります。
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最の低なひと @tenapyon

今さらルベーグ『積分・長さおよび面積』の吉田・松原訳を読んでいる。訳者による「はしがき」には、(式などによらない)対応としての函数概念はコーシーに始まると書いている。ルベーグは1905年の論文でそのような函数概念をディリクレ流だと言っている。ここは確認の必要がある。

2017-09-04 19:55:14
最の低なひと @tenapyon

この吉田耕作・松原稔の「はしがき」でもそうだが、ルベーグ積分のテキストでは、新しい積分理論の特長を強調するあまり、リーマン以前の積分理論との断絶が強調される傾向にある。そのあたり、もう少しバランスのとれた見方が必要だと思う。

2017-09-04 20:00:05
最の低なひと @tenapyon

この本(A Radical Approach to Lebesgue's Theory of Integration, D.M.Bressoud, Cambridge UP, 2008)は、ルベーグ積分の歴史的背景に踏み込んで書かれたテキストらしい。まだ読んでないが、期待してる。 pic.twitter.com/4oWjPwkYff

2017-09-04 20:08:04
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最の低なひと @tenapyon

なにせ表紙の肖像がルベーグ・リーマン・カントール・ボレルの4人だからな。

2017-09-04 20:10:15
最の低なひと @tenapyon

先日ツイートしたこの件。吉田耕作の解説では「コーシーが自ら与えた函数の定義の意義をはっきり認識していたかどうかは疑わしい」といい、このような現代的な函数概念に基づく研究はむしろディリクレに始まる、と明記している。 twitter.com/tenapyon/statu…

2017-09-05 17:32:16
最の低なひと @tenapyon

吉田が引用するコーシーの函数の定義は1820年の『解析学講義』にあり《変数の間に、それの一つの値が与えられると、もう一つの変数の値が高い確定するといった関係があるときに、さきの変数を独立変数といい、あとの変数を函数という》となっているらしい。

2017-09-05 17:34:54
最の低なひと @tenapyon

(さっきのコーシーの言葉の引用に間違い:値が高い確定する → 値が確定する)

2017-09-05 17:58:39
最の低なひと @tenapyon

これなら、かなりはっきりと函数の現代的定義と読める。

2017-09-05 17:38:53
最の低なひと @tenapyon

ところがここにひとつ話をややこしくする材料がある。Thomas Hawkins本で私的されていることだが、1822年にフーリエが公刊した『熱の解析的理論』で、任意の函数の三角級数展開可能性に関連してフーリエが次のように述べているという:

2017-09-05 17:44:26
最の低なひと @tenapyon

《任意の函数とは、共通の法則に従おうが従うまいが、x のすべての値に呼応して与えられるひと連なりの値のことだ》 《函数 f(x) がひと連なりの値を表示する、それはまったく任意である。それらの値はいかなる仕方で連なっていてもよく、あたかもひとつの量であるかのごとくに与えられる》

2017-09-05 17:47:09
最の低なひと @tenapyon

フーリエのこの説明は、うっかりすると、彼がディリクレ流の現代的な函数概念を語っているかのように読めてしまう。しかし Hawkins の指摘するところによると、フーリエの函数概念はまったく18世紀的で、引用文中の「共通の法則」というのは「ひとつの解析的な式」と読まねばならない。

2017-09-05 17:50:14
かが☆みん @kagamin_hr

@tenapyon この文面のみを読むと現代的定義そのものに見えてしまいます。

2017-09-05 17:55:28
最の低なひと @tenapyon

@kagamin_hr わたくしも最初そう読めて、Hawkins の指摘にびっくりしたんですよ。

2017-09-05 18:08:58
最の低なひと @tenapyon

18世紀には、函数といえば式で与えられるものだった。たとえばオイラーは、定義区間の全域でひとつの解析的な式で書ける函数を「連続函数」とよび、途中で異なる式に乗り換えねばならぬ函数を「不連続函数」と呼んでいたという。

2017-09-05 18:00:34
最の低なひと @tenapyon

フーリエの場合は、この18世紀的な意味における「不連続函数」まで含めちゃうよ、ということを「まったく任意の函数」という言葉で意味していたようだ。 コーシーはその2年前に「…という関係があるとき」という表現で、ディリクレ的な任意の対応を意味していたのだろうか。

2017-09-05 18:03:21
最の低なひと @tenapyon

コーシーはフーリエよりもひと世代若く、鋭敏な知性の持ち主であったから、まあ不可能な話ではないが…

2017-09-05 18:04:39
最の低なひと @tenapyon

とはいえ、ディリクレ流の函数概念の発展の、その源流において、フーリエの業績が提起した問題が重大なものであったことは否定できない。三角級数で表示できる函数の範囲が、びっくりするほど広く、いままで見たこともないような函数が続々と出てきたからだ。

2017-09-05 18:12:18
最の低なひと @tenapyon

ところで、吉田はルベーグの解説で現代的函数概念の始まりのことを「振動する絃の形の一般的表示を問題としたフーリェの三角級数に関連したディリクレの研究に始まる」と言ってる。それはディリクレでいいのだけど、さて、フーリエは絃の振動の研究をしたのかどうか。熱伝導方程式の研究は有名だけど。

2017-09-05 18:18:18
最の低なひと @tenapyon

弦の振動の方程式については、たしか、18世紀にオイラーとダランベールだったかが独立に研究してて、オイラーは三角級数で解けるといい、ダランベールは f(ωt+mx)+g(-ωt+nx) の形 (f と g は「任意の函数」) で解けるといって、

2017-09-05 18:23:19
最の低なひと @tenapyon

当時の数学界で「なにそれって任意の函数が三角級数の和で書けるってこと? そんなのオカシイじゃん。オイラーくんなんか間違ってんじゃない?」とかなんとか議論されたことはあったらしい。いわばフーリエ解析前史だね。

2017-09-05 18:25:02
最の低なひと @tenapyon

あ、すみません、キャスティングが間違ってました

2017-09-05 18:28:27
最の低なひと @tenapyon

弦の振動の方程式を三角級数で解いたのがダニエル・ベルヌーイで、「一般の函数が三角級数で書けるわけない」とツッコミを入れたのがオイラーとダランベールだそうです。(ref: 岡本久・長岡亮介『関数とは何か -- 近代数学史からのアプローチ』§6.2)

2017-09-05 18:32:02
最の低なひと @tenapyon

ともあれ ①フーリエの業績を発端として「任意の函数」の問題が発生 ②ディリクレが函数の現代的な概念を提示する ③リーマンが「一般の函数の定積分」の定義を提唱する ④しかしフーリエ級数の一般論にはリーマンの積分では力不足 ⑤やがてルベーグの積分論が登場する ってのが大まかな流れね。

2017-09-05 18:38:54
最の低なひと @tenapyon

ただし、ルベーグが自分の積分論をどのような問題意識から構想したのかは、それとはまた別問題。

2017-09-05 18:41:10
最の低なひと @tenapyon

このあたりの話は面白いんだけど、これじゃあいつまでたっても「集合論発展史のなかの測度問題」という本題に入れない。

2017-09-05 18:45:40
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