魔法少女まどか☆マギカと溝口健二『赤線地帯』の類似性

ある邦画好きの親父のつぶやいた、まどか☆マギカ10話までの感想です。
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はまりー @hamari

魔法少女まどか☆マギカという物語を見ながら、ずっと奇妙な既視感を感じていた。これはなんだろうとずっと思っていたんだけれども10話まで見て疑問が氷解した。これは溝口健二の『赤線地帯』(56)だ。

2011-03-23 00:44:22
はまりー @hamari

かつて邦画には、“花柳界もの”とでも称するべき一連の映画があった。それは苦界(吉原)に、あるいは水商売に身を落とした女たちの苦悩を描いた作品で、系譜としては溝口の『浪華悲歌』(36)から田中絹代の遺作『サンダカン八番娼館 望郷』(74)まで延々とつづく。

2011-03-23 00:44:57
はまりー @hamari

それは暗くて陰惨な映画の系譜で、その悲惨さは木下恵介の『日本の悲劇』(53)でひとつの頂点を迎える(その主人公の“落ちていく”経過は美樹さやかを彷彿とさせる)のだが、それはさておき、『赤線地帯』である。

2011-03-23 00:45:12
はまりー @hamari

これは溝口の遺作であり、彼が得意とした花柳界ものの一作であるのだが、稀代のリアリスト溝口健二が撮ったと思えないくらい、手触りがポップなのである。簡略化された背景はまるで抽象絵画のようで、極端に記号化された登場人物はまるでアニメだ。

2011-03-23 00:45:29
はまりー @hamari

『山椒大夫』(54)で、安寿が入水するシーンのリアリティを出すために、溝口健二は宮川一夫に木の葉っぱの裏側をすべて真っ黒に塗らせた。それとおなじ監督が撮ったとはとても思えない。

2011-03-23 00:45:45
はまりー @hamari

実際、この作中の京マチ子は、八頭身のボディを惜しげもなくひけらかすが、そこに凡百の邦画が持つ生臭さは存在せず、その魅力を表現するにふさわしいことばはまさしく「萌え~」なのだ。

2011-03-23 00:46:05
はまりー @hamari

記号化されたキャラクターは記号化された故に、自身の苦悩をより生々しく視聴者に伝える。

2011-03-23 00:46:19
はまりー @hamari

子供のために身を売り、やがて子供に捨てられて発狂する三益愛子の苦悩はそのままさやかの苦悩である。かつての幼さを横顔に残しつつ、現実に目覚め猛々しく生きていく若尾文子はほむらだ。我が身を売りながら、さばさばとしてその境遇を楽しんでさえいて、まわりに世話を焼く京マチ子はそのまま杏子だ

2011-03-23 00:47:11
はまりー @hamari

ぼくはここで「魔法少女とは娼婦の隠喩なのだよ!(キリッ」などという、たぶんセーラームーン以来百万回は繰り返されてきた言説を蒸し返す気はない。むしろ逆で、1956年に溝口という稀代の名監督はまどか☆マギカに先立つこと50年前に「最期の魔法少女もの」を描いていた、という事実を云いたい

2011-03-23 00:47:37
はまりー @hamari

『赤線地帯』で刮目すべきはその作品が世に出た年代で、1956年は国会で売春防止法案が審議されていたまさにその時代なのだ。本作発表後二ヶ月後に法案は国会で成立する。まさに『赤線地帯』は娼婦という「魔法少女」の存在が許されるぎりぎりの時代に撮られた作品だ。

2011-03-23 00:48:04
はまりー @hamari

いまそれを観るぼくらにはそれは歴史としてしか感じられないが、当時の観客にはそれは身をもって迫る切実さとしてとらえられたのではないか。およそ50年前、時代を鋭く切り口としてあったのが赤線の娼婦であり、いまの時代は魔法少女なのではないか。そこにはそれだけの違いしかないのではないか。

2011-03-23 00:48:43
はまりー @hamari

あるいはあるジャンルが充分に熟成され、爛熟期を迎えたとき、時代はそのジャンルを脱構築し破壊するような作品を生み出すようになっているのではないか。西部劇というジャンルがあれやこれやあった末に『ペイルライダー』(85)という怪作を生み出したように。

2011-03-23 00:49:06
はまりー @hamari

まどか☆マギカはそんな作品であるし、むろん『赤線地帯』もそうなのだ。

2011-03-23 00:49:14
はまりー @hamari

この感想をまどか☆マギカ10話視聴後、11話視聴前という微妙な時期にあげたのは、最終話視聴後ではこの感想に意味がなくなってしまうかもしれないからだ。残り二話で、まどか☆マギカは「凡百の魔法少女もの」に落ちてしまうかもしれない。杞憂だと思うけど。

2011-03-23 00:49:29
はまりー @hamari

『赤線地帯』のラストは強烈な印象を残す。それまでモブでしかなかった一人の処女が初めて街角に立つ。そしておどおどと街ゆく男たちに声をかけるのだ。「ちょ、ちょっと……」そこで幕。その先にぼくらは赤線廃止後も延々とつづくであろう女たちの暗い歴史をいちどに見望し、暗澹たる気持ちになる。

2011-03-23 00:49:50
はまりー @hamari

2011年現在、営業しているソープがある以上、その見望は正しいのだ。

2011-03-23 00:49:57
はまりー @hamari

ぼくはまどか☆マギカのラストが、これから先どこまでつづくかわからない魔法少女ものの未来すべてに、暗澹たる影を落とすものであってもらいたいと思う。「まど☆マギがあるから、あと20年は魔法少女ものは作れない」そう云われるものであってもらいたい。

2011-03-23 00:50:24
はまりー @hamari

そうなって初めて、まどか☆マギカは魔法少女ものの脱構築を成し遂げた、と云えるのではないだろうか。

2011-03-23 00:50:41
はまりー @hamari

そうしてぼくの目線は遥か未来へと向く。低迷した西部劇は『ペイルライダー』で幕を下ろしたあと、『許されざる者』(92)で劇的な再構築を遂げる。“お約束”をすべて外したまどか☆マギカの先には、“お約束”をすべて果たしながら斬新な、まったく新しい魔法少女が待っているかもしれないのだ。

2011-03-23 00:50:55