ライオンハート・ザ・ブレイブハート #1

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えみゅう提督 @emyuteitoku

場所は大西洋の一角、陽光は凡そ四五度、雲はなく、風はやや強い。小さな波の先端が白く飛沫を上げる海の上で、フューリアスとライオンハートは睨み合う。フューリアスは最強の駒を従え、ライオンハートは信頼する友達と共に立つ、双方積み重ねてきた全てを賭けて相対する。1

2017-09-12 22:17:16
えみゅう提督 @emyuteitoku

台座に腰を掛けるフューリアスはディープオーダーの陣をじくりと観察する。(さてさて…)「どうしたフューリアス、まだ休憩時間なのか」抑えきれない怒りが漏れ出る声、それはライオンハートが発していた。活きのいい先手にフューリアスはにたりと口角を上げ、空を抱えるように両手を広げた。2

2017-09-12 22:18:33
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ご観覧の皆さま演目再開の時間となりました!休憩の間皆さまの心は踊り続けていたでしょう。しかし盛り上がりはこれから!今や熱気は最高潮!ノー・ワン・エスケープ・フロム・デス!彼らは死から逃れられない!タンソウホウサーカス名物【皆殺し】再開でございます!」3

2017-09-12 22:20:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

「いよっ!待ってましたぜ団長!」マンモスがガチガチと雑な拍手を響かせ、ガネーシャも嫌々拍手に参加する。フューリアスの演技は続く。「そして今回のサプラーイズ!なんと驚きヒマワリ畑!本日ゲストとして恐怖の王!偉大なる王!マイティ・フッド様にお越し頂いております!」4

2017-09-12 22:22:24
えみゅう提督 @emyuteitoku

元より仰々しいアイサツに輪をかけ、フューリアスはさらに堂々と、膝に額が付くほどに頭を下げた。「お久しぶりでございます偉大なるフッド様!」[久しいな宮廷道化師よ!貴様は死刑だ!]「ん?!ワッツ?!!ちょちょ王様ちょっといきなりすぎでは――」王の宣告。それが合図だ。5

2017-09-12 22:24:33
えみゅう提督 @emyuteitoku

「イヤーッ!」「グヌ?!」チェルノボグがマンモスに突進!「貴様の相手は、私達だ。行くぞコールドレイン」「応!イヤーッ!」続けてコールドレインのトビ・ケリ!マンモスは後ずさる。「グムー!チビどもめ、調子に乗るなよ!」チェルノボグコンビが戦列からマンモスを引きはがす。6

2017-09-12 22:26:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

「おい!マンモス――」フューリアスがマンモスへ顔を向けた刹那、「ドッセーイ!」スクトゥムがガネーシャにブチカマシを仕掛ける!「む――ハイヤッ!」ガネーシャはブチカマシを難なくいなすが、彼女もフューリアスとの距離が離れる。弾かれたスクトゥムは素早く体制を立て直した。7

2017-09-12 22:29:41
えみゅう提督 @emyuteitoku

「おいこらガネーシャ=サン!俺が相手してやる、こっちにこいバカ!カレー!香辛料!」やけくそ気味のスクトゥムの挑発!意図は明白、ガネーシャはフューリアスに視線を送る。フューリアスは左手の小指を小さく払うように動かす。(行け…)「御意」ガネーシャはスクトゥムを追った。8

2017-09-12 22:31:01
えみゅう提督 @emyuteitoku

[どうした道化。面貌優れぬようだな]「ハッ!気分は上々、処刑と聞いて笑うほど狂ってはいないからね」フッドの問いにフューリアスは飽くまでとぼけた態度で応じる。しかし、彼女の心肝は焦燥で塗りつぶされていた。(やられた!僕の布陣が、一言で崩された!体がなくても、王様は王様だ!)9

2017-09-12 22:33:01
えみゅう提督 @emyuteitoku

フッドは演説めいて宣告する。[貴様は我が王国の民の命を砕き、王の領域を荒らした。今まで恥の語り部として生かしておいたが、今や恥そのものである。貴様は極刑だ!方法は処刑人に任せよう。案ずるな、我が最後まで見届けてやる、光栄に思うがいい!ムァッハッハッハ!]10

2017-09-12 22:34:29
えみゅう提督 @emyuteitoku

勝手に処刑人に任命されたライオンハートは、フッドを一瞥し視線をフューリアスへ戻す。道化師は変わらず不気味に口角を釣り上げている。しかし、「チッ」張り付けただけのメッキの笑顔の下から隠せない動揺がにじみ出ていた。「…まず一手目。成功だな」ライオンハートは小さく呟いた。11

2017-09-12 22:36:12
えみゅう提督 @emyuteitoku

「皆上手くやってるかな?」心配そうなアンダーテイカーに向けアルキドクセンは唸る。「むう、リンクスがおったらのう…」老獪はいなくなった友の名前を口にする。二隻は本隊の北方でコールドレインが予測した別動隊に立ち向かっていた。「まあしかし、こちらが報告する要はあるまいて」13

2017-09-12 22:38:58
えみゅう提督 @emyuteitoku

二隻のイクサはすでに始まっていた。予測通り別動隊は姿を現し、アルキドクセンが仕掛けたトラップにかかっていた。「アイエエ!」「グワーッ!誰ダ足踏ンダ奴ハ!」「動ケヌ!」「足ヲ踏ムナ!」「帰リタインダガ…」「足ヲドカセ!」団員達は海面をつるつると転げまわり混乱の渦中にあった。14

2017-09-12 22:40:52
えみゅう提督 @emyuteitoku

「ふぇっふぇっふぇ!見事に滑るもんだのう!」仕掛けは単純明快、艤装に備わる浮力を低下させるコート材で海面に被膜を作ったのだ。海中行動のための薬剤を罠に利用する老獪アルキドクセンならではの戦法、アメンボ・センザイ・トラップ!これ以上にない時間稼ぎである。15

2017-09-12 22:42:04
えみゅう提督 @emyuteitoku

無傷のまま水に動きを取られる未知の感覚にサーカス団はスケートリンクに放り込まれた獣めいて舞踏する。「さて、次の被膜を張るとするか」アルキドクセンは新たなコート剤を手にする。「ほれ、またひとっ走り頼むぞ。…どうした?」アンダーテイカーは返答せず一点を見つめていた。16

2017-09-12 22:44:51
えみゅう提督 @emyuteitoku

「なんだよあれ…」彼女の視線の先、サーカスの舞踏場の奥に小柄な深海棲艦がいた。「急ぐよアルキドクセン」アンダーテイカーは背中合わせになるように、アルキドクセンの体を、紐を使い背負いあげる。「背中任せたよ!」「う、うむ。老いぼれの目では見えん、何かいるのか?」17

2017-09-12 22:46:53
えみゅう提督 @emyuteitoku

たすき掛けで背負われたアルキドクセンは状況を掴めないまま、ぼんやりと映る何かに目を凝らす。「駆逐か?」「違う!戦艦!クラスREの高速戦艦!」「レ級だと?!」慌ただしく出航準備する二隻の姿は、レ級にも見えていた。逃がすつもりはない。レ級がエンジンを点火した。18

2017-09-12 22:49:51
えみゅう提督 @emyuteitoku

GRRGIGGLEEEEE!!!凡そ艦の機関とは思えない騒音!殺意の轟音を耳に、アルキドクセンは状況が切迫していることを知る。「なんじゃあれ!」「知るもんか!反則だ、あんな発想。あってたまるか!」アンダーテイカーが目にしたもの、それは剝き出しで垂れ下がるレ級の臓腑だった。19

2017-09-12 22:51:43
えみゅう提督 @emyuteitoku

内臓ごと引き抜いた尻尾を口に咥えた、見るも悍ましい機構。「正気じゃない!あんな――外気で直接機関を冷却するなんて!」排熱を完全に無視できる機構、徹底的に防御を捨てきった前傾姿勢。「見ただけでわかる、あいつ速い!私よりも!」アンダーテイカーの絶叫と共に、レ級が叫んだ!20

2017-09-12 22:53:34
えみゅう提督 @emyuteitoku

「HEEEEWHEEEEBEEEEEEEE!!!」金板を切り刻むようなシャウト。そのレ級はタンソウホウサーカス三隻目の幹部、逃げる二隻に猛進する!その行く手には踏み込めば浮力を失うアルキドクセンのトラップがある。海を走る者ならば例外なく捕らえる罠だが――21

2017-09-12 22:54:11
えみゅう提督 @emyuteitoku

「HEEEEE!」彼女の尻尾はレ級に準じない異形、連なる小型甲板を刃にしたチェーンソーは海面を団員ごと刻みトラップを切り抜ける。「アバーッ!」「ソ、ソンナ!味方ヲ見殺シ――アバーッ!サヨナラ!」エレファント達は次々に爆発四散し、その衝撃がコート剤を吹き飛ばす!22

2017-09-12 22:56:20
えみゅう提督 @emyuteitoku

「WHEEEE!!」海面を裂くだけでは不十分、団員の血液をまき散らし、爆発の衝撃で完全に罠を破壊する。冷静にして狡猾、レ級はアルキドクセンの罠を文字通りに八つ裂きにしてしまった。「なんと…豪快な…!」「関心してる場合じゃないでしょ!距離、今どれくらい?!」23

2017-09-12 22:57:07
えみゅう提督 @emyuteitoku

「BEEEEEE!!!」GIGGLEEEEEEEEE!!!「目の前――」チェーンソーが唸りを上げ振り下ろされた。「グワーッ!」「じいちゃん!」「ええい!心配するでない!お前は走れ!…血は流れとらん」二隻は背中合わせに密着している。確かにアンダーテイカーの背は濡れていない。24

2017-09-12 22:58:30
えみゅう提督 @emyuteitoku

「わかった、このまま全速で行くよ」「気にせんでいい、真っ直ぐ行け…」嘘だった。アルキドクセンの体はチェーンソーの直撃を受け、袈裟切りに赤く染まっていた。血を止めているのは、修復材ではなく、ただの艤装修繕用の接着剤。(やれフューリアスめ、いい使い手を選びおって…)25

2017-09-12 22:59:45