ライオンハート・ザ・ブレイブハート　＃3

えみゅう提督 @emyuteitoku

分かれた戦場でそれぞれがかつてない苦境に立たされていた。しかし、ライオンハートにそれを知るすべはない。自分から断ち切ったのだ。コールドレインの作戦のもう一つの要、ボトムレスの通信阻害電波が海域を覆っていた。あえて、知らずにいるために、友の苦境に惑わぬように。1

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電波封鎖はライオンハートの意思を固めるためだけではなく、フューリアスにも影響を与えていた。「…ッ！どいつもこいつも！」現在、フューリアスは空母形態。それも索敵機を主体に発艦している。散らばった団員を確認して作戦を練り直したい、だが通信ができない。苛立ちは頂点にあった。2

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「あーもう！僕はね、楽しく生きようとしているだけなんだ！どうして演目の邪魔をする！」艦載機が爆弾を投下、ライオンハートは王剣で爆弾を切払う。「…私も楽しい事は好きだ。だが、悪を成す事はできない。エゴを嘲笑う事は断じて許せない！イヤーッ！」ライオンハートが踏み込んだ！3

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横一線、一文字切り。フューリアスはバク転で回避――その瞬間、フューリアスの姿が変化！「どんなことでも楽しく笑うのが悪ってか？！息苦しいねえ！」軽巡へと変幻する！［来るぞ童！］フッドが吠えた。ライオンハートは小さく頷き、腰を低く構える。迎撃体勢！受けるつもりか！？4

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フューリアスはライオンハートの構えを見て、小動物めいて首を傾げる。「ありゃん？王様から聞いてないのかな？その剣じゃ、ボクの主砲は防げないんじゃあないかな？」フッドは、かつて戯れにフューリアスに自身を砲撃するように命じたことがあった。フッドは砲弾を切り裂いたことがある。5

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だがその時は、破片は四方に散り、衝撃波はそのまま空に穴を空けた。王の頑強な装甲があったからこその偉業。過去と同じように王剣を振りかざせばライオンハートの体では、耐えられない。それ知った上で、ライオンハートはフューリアスに立ち向かう。「フッド、もう一度確認したい」6

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ライオンハートが王剣に視線を落とす。「お前のエクスカリバーは、決して折れんのだな？」［振るう者次第だ。我が権能【王権】は万能、あらゆる願いが叶う。されど、願い続けねばならん。欠片でも惑うならば、叶わんぞ］「安心しろ」ライオンハートは言い放つ。「私は、もう迷わない」7

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ライオンハートの手の中で王剣が輝きを増す。想いを刃に纏い、王は黄金の輝きを高く掲げた。その眩さに、フューリアスは狼狽する。「な…なんだよ。勝手な演目追加はご法度でそ？一体何をした！」「友を信じた、それだけだ」［我は委ねた、些細な事よ］――【王権】それは願望の象徴。8

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フューリアスは、全ての願いを消し飛ばさんと引き金を引く！「お願いだけで強くなれるわけないでしょーがぁ！キエロォ！！」砲弾が放たれる、破壊の塔が世界を穿つ、皆の願いが消し去られる――そんなことはさせない。「エクス――」必ず皆を、救って見せる。「――カリバァー！！！」9

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―――――10

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「フッド、一つ頼みがある」最後の戦いの前に、ライオンハートは王に訊ねていた。［嘆願か？いいだろう、発言を許す］「私と、友達になってくれないか？」［なに？］彼にとってひどく悩ましい頼みだった。相手は真の王、相容れないはずの圧制者。今になって、ライオンハートはなぜこんなことを？11

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［理由を述べよ、王が命ずる］ライオンハートは少し悔しそうに目線を逸らす。「…楽しかったからだ、お前と皆が話しているのを見て、そう思ったんだ」［楽しい？！ムァッハッハ！拝謁を娯楽とのたまうか！断る。我は王、民と共にあり国として権勢を振るう王だ。個々が交わす誓いはできん］12

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フッドの返答にライオンハートは肩を落とす。「そうか…残念だ」［――故に、だ。国家間の外交というなれば受けてやらんこともない］「外交？」「国家同盟の盟約の申し出ならば、王として査収せねばなるまい」「同盟…同盟か。ああ、それでもかまわない、また一人、友達が増えた！」13

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「ありがとうフッド、おかげで…私の心は極まった！」14

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―――――15

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「ソんなぁっ！そんなバカな！」フューリアスは悲鳴をあげた。誰一人退ける事は叶わない道化師の主砲、破壊の塔の不敗神話は終わりを告げた。ライオンハートは立っている。それも、無傷でだ。フューリアスが放った砲弾も、衝撃も、猛烈なる敵意も、一閃にて全て斬り裂いたのだ！16

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「アリエナイ！！」恥辱に狂うフューリアスが再び主砲を放つ。もはや恐れるものではない。ライオンハートは無心で王剣を振るう。彼は願った、もう誰も死なせない、誰一人見捨てない、ノーワン・レフト・ビハインド。それが虐げられし者達の王のたった一つの願い。願い続けた、だから実現する。17

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「あり得るさ、私が信じ続ける限り、皆が応えてくれる」ライオンハートは砲弾を切り伏せる。「私は…私達は一人ではない。皆で、笑い合って、静かに生きたかった」彼の脳裏に白い影が揺らぐ。大きな体で、いつも皆を励ましていた、優しい戦艦、もうこの世にいない、誰よりも愛おしい者の姿。18

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「ナバル…」何度も口にした名前、その名を向ける相手はもうこの世にいない。たとえ理想を成したとしても、その世界に、一番隣にいて欲しかった者の姿はない。激情が彼を突き動かす。この感情が邪でも構わない、それでも、それでも！こいつには言ってやりたいことがある！！19

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「地獄へ墜ちろッ！！フューリアス！」「ヒッ！？」ライオンハートは輝きに満たされた王剣を振り下ろす。道化は、あっけなく切り伏せられた。「キィイイアアア！！！」切り裂かれた胸から蒼い血を吹き出しながらフューリアスが悲鳴を上げる。「嘘だ…こんな！ボクが！オールドワンがっ…！」20

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道化は演技も忘れ、もがきのたうち回る。「そんな…！ボクは…！」フューリアスの眉間に王剣が突き付けられる。「終わりだ。フューリアス」「失敗だ…！失敗した！ボクは…ボクは――“ボク”はいったんお休みして、ここから先は僕が頑張らないとね！」フューリアスが跳ね起きた。「なッ！」21

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ライオンハートは咄嗟に剣を突き出す。「イヤーッ！」「おっと、危ない！惜しいね」しかし、届かない、後一撃だったはずなのに、道化は舞いの如く剣をかわし、藪を縫う蛇めいて距離を離す。フューリアスの体は肩から腰まで切り開かれていた、俊敏に動けるわけがない。なのに――傷がない。22

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「“ボク”を追い詰めるなんて驚いた。ここからは団長である“僕”がお相手するよ」フューリアスの袖が広がり風にはためく。空母に変幻した道化を前に、ライオンハートは奥歯を強く噛み締めた。「そうか、これが…」「ふふふん、その言い方だと、王様からちゃんと聞いたようだね」23

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「そうだよ、そうとも！僕も“一人じゃない”んだよ」深手を負った軽巡は変幻し、無傷の、万全の空母となる。［見事だ童、よくぞ軽巡フューリアスを倒した。褒めて遣わす］フッドが厳かに口を開く。［変幻は、一つの艦に二つの能力を宿すものにあらず。…我も真髄を見るのは初めてだがな］24

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「どう王様？興に入ったかな？」フューリアスは邪悪な笑みを作る。「二つの力を扱うなんて誰でもできる、それだけなんて弱すぎだ。古の権能がそんな半端なものなわけがない。一つの魂に二つの命、存在の重複、結果が気に入らなければいくらでもやり直せる、それが僕の権能【変幻】さ！」25