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中島晶也 @AkiyaNakajima
ステファン・グラビンスキ『火の書』(国書刊行会)、じっくり拝読しました。お気に入り3作は、「赤いマグダ」「四大精霊の復讐」「有毒ガス」。この3つ、重なる部分と異なる部分があって、補完し合っているように読めるのが興味深い。#火の書 kokusho.co.jp/np/isbn/978433…
中島晶也 @AkiyaNakajima
まず「赤いマグダ」。消防士とジプシー女性との間に生まれた娘が睡眠中に硬直状態となって、魂が体外離脱し火事を起こす。「なぜ」という説明はない。とにかく、娘は火の精になった。その無茶を、嬉々として火を放つ魔性の物の艶姿と父娘対決の凄絶さが、否応なく読者に受け入れさせてしまう。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
泉鏡花やW・H・ホジスンなどがこういう無茶を成立させてしまうことがあるけれど、相当な描写力がなければできない芸当である。本書の収録作では「白いメガネザル」も同じ系統で、これはもうホジスンが書いたといっても通用しそうな直球勝負のモンスター小説だった。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
「赤いマグダ」はまた、多くを語らないために怪談らしい怪談になっているともいえる。ジプシーである母の血が怪異を呼んだのか? 父が消防士であることと関係があるのか? マグダ本人はどう受け止めていたのか?──もやもやした問いが頭の中を渦巻き、いつまでも怪しい余韻を残す。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
うってかわって「四大精霊の復讐」は、グラビンスキが得意とした、怪異を疑似科学的に解釈してみせる作である。英雄的な名声を誇る消防士が、連発する火災事故のデータを収集分析し続け、その背後に潜む四大精霊の奸計を見出すと、敢然と彼らに立ち向かっていく。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
しかし、消防士は精霊に接近しすぎたためか、次第に常軌を逸していく。そして就寝中に硬直状態に陥ると、精霊たちからボディジャック攻撃を受ける。身体は気の触れた放火魔に、魂は体外でさまよう生き霊に仕立てられてしまうのだ。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
「四大精霊の復讐」は、「赤いマグダ」とは対極的に奇想を語り尽くすおもしろさを狙った怪奇小説なので、恐怖度では「赤いマグダ」に一歩譲る。一方で、ここまでの簡略な紹介でも感じ取っていただけたと思うが、「赤いマグダ」の謎を解くヒントが散りばめられているようにも読めるのである。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
これら二作では、睡眠中の硬直・麻痺が、魔との接触や魂の体外離脱といった怪異の契機となっている。それをスラブの淫夢魔伝承と絡めたのが「有毒ガス」で、農村の居酒屋に一泊した測量技師が、相手に応じ自在に性を変えるらしい夢魔に襲われ、金縛り状態でおぞましくも甘美な愛撫を受ける。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
ところが、どうにか夢魔を退治てみると男女二体の遺骸が見つかり、新たな謎を残したまま終わってしまう。「四大精霊の復讐」のように、夢魔が二人をボディジャックしていたのか? 二人の淫らな精神が一つに融合して、夢魔となったのか? それとも──。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
「有毒ガス」は、「赤いマグダ」「四大精霊の復讐」よりも明示と暗示のバランスに優れていて、奇想のおもしろさと落ち着かない怖さの両方が堪能できる。グラビンスキ自身も、本書に併録されているエッセイやインタビューで、自信作の一つとして「有毒ガス」を挙げている。#火の書
中島晶也 @AkiyaNakajima
このエッセイやインタビューがまた、グラビンスキの半生や芸術観、ポーランド内外の幻想小説に対する評価などを語っていて、まるでキングの『死の舞踏』を思わせるおもしろさだった。詳しくはまた別の機会にでも。 #火の書
芝田文乃 SHIBATA Ayano◎ポーランド語翻訳 @ayanos_pl
『火の書』刊行記念プレゼントキャンペーン《積ん読しないで読もうぜ!》 収録作の中からお気に入りを3つ選び、ハッシュタグ #火の書 をつけてツイートしてください。感想や本書の写真も添えるとなお良。抽選で10名様に特製ポストカードセットを差し上げます。〆切は10月10日(火) pic.twitter.com/VkqE11a4Kg
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芝田文乃 SHIBATA Ayano◎ポーランド語翻訳 @ayanos_pl
グラビンスキは自分の作品がホフマンに似ていると批評家たちに言われたのが気に入らなくて、必要以上にホフマンを嫌っているように見えます。
中島晶也 @AkiyaNakajima
@ayanos_pl そこは私も気になっているんです。もう一つ、グランビンスキは自分のことを「非ロマン主義的幻想小説のパイオニア」と規定していますよね。そうすると、ホフマンだけではなくロマン主義全体を自分の文学とは別物としているのかな、とも思いまして。
芝田文乃 SHIBATA Ayano◎ポーランド語翻訳 @ayanos_pl
@AkiyaNakajima 私の印象ですが、グラビンスキは(疑似)科学・神秘主義・オカルトで裏打ちされた己の作品を、従来のロマン主義小説とは一線を画したものと自負していたようです。「彼岸」を本当に知っているのは自分だけ、他の人々は「彼岸」の存在を信じてもいない、だから駄目なんだ、という立場です。
中島晶也 @AkiyaNakajima
@ayanos_pl ええ、そこが鍵だと思います。そうしたオカルト文学は、英語圏では『フランケンシュタイン』や『聖レオン』といったゴシック小説にも萌芽が見られますが、本格化するのはブルワー・リットン以降ですから、ロマン主義後のことなんです。それをポーランドで担ったのは自分だ、という意識かもしれません。
芝田文乃 SHIBATA Ayano◎ポーランド語翻訳 @ayanos_pl
@AkiyaNakajima 神秘主義・夢・個人のネガティヴな感情などを扱っているので十分ロマン主義的ではありますが、世紀末のデカダンスや象徴主義への傾倒、新しい哲学や心理学からの影響も大きいと思います。

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