「未成年者福祉友愛協会」

帽子男先生プレゼンツ Twitter小説
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帽子男 @alkali_acid

どうもショタが何も幸せになれないのに他人のために対価だけ払うお話ばかり書いていた気がする

2017-09-18 22:35:11
帽子男 @alkali_acid

どんなお話がいいだろう。ショタが朝起きると、庭は白い雪でおおわれていて、玄関には大きなリボンのかかった箱がひとつ。 カードがさささっていて「**さんへ。未成年者福祉友愛協会」と書いてある。

2017-09-18 22:37:40
帽子男 @alkali_acid

包み紙を開けると、そこには美しい女の生首が

2017-09-18 22:37:58
帽子男 @alkali_acid

悲鳴を上げて飛びすさる少年だが、生首は口に別のカードを咥えている。壁の隅からそれをじっと見つめると 「この一分の一万能女中器は、両親または片親がいない子供達のために未成年者福祉友愛協会が無料で贈呈するものです」

2017-09-18 22:40:07
帽子男 @alkali_acid

「箱に入っている書類に名前を書き、同じく封筒に入れて郵便で送って下さい。なお、女中器が不要な場合は、一緒に送り返すこと」

2017-09-18 22:42:28
帽子男 @alkali_acid

少年は茫然としてから、生首、のように見えるものを箱に詰め直し、背嚢に入れてかつぐと、自転車に乗って郵便局へ走っていく。雪のせいで少しすべる。電話機を借りて受信払いで、伯父に連絡する。 「ザザ…なまくび?…それより…帰港が遅れ…」 電波状態がよくない。

2017-09-18 22:45:21
帽子男 @alkali_acid

少年はとりあえず、郵便局のおじさんに書類の分からないところを尋ねながら返送の手続きをとる。不気味な生首も一緒に送り返す

2017-09-18 22:45:56
帽子男 @alkali_acid

と思いきや、翌日には玄関に二つの包みが置いてある。片方は宛先不明で戻って来た生首。もう片方はやや細長く、中には腕が入っている。美しい女の腕。

2017-09-18 22:47:06
帽子男 @alkali_acid

少年はふたつをまとめて警察署にもっていく。いじわるな窓口の警官はじろっとにらみつけ 「どこから盗んで来た」 と尋ねる。事情を説明するがあまりとりあってくれない。 「書いてあるとおりに送り返せ」 「でも…そうしたんだけど」 「こんなことでわずらわせるな。密輸人の小せがれが」

2017-09-18 22:49:20
帽子男 @alkali_acid

少年はむっとなって腕と生首の包みを抱えたまま帰る。 「次に盗んだ人形なんぞ持ってきたら、ケツをひっぱたいてやる」 これみよがしな捨て台詞に、かっとなって逃げるように駆けだす。

2017-09-18 22:51:09
帽子男 @alkali_acid

道端のゴミ箱に腹立ちまぎれに腕と生首を放り込む。そのまま立ち去ろうとすると、咳払い 「むちゃはいけないよ。ここはお前さんの住んでる通りじゃないだろう」 ふりかえると顔見知りの老掃除夫がほうきを手に立っている。

2017-09-18 22:52:23
帽子男 @alkali_acid

「それにかわいそうじゃないか…こんなにきれいな女の人を、ゴミ箱に入れるなんて」 老掃除夫は腕と生首を取り出しながらつぶやく。 「でも…」 「大切にとっておおき」

2017-09-18 22:53:48
帽子男 @alkali_acid

その翌日もまた翌日も、次々に包みが届く。足だったり、胴だったり。とうとうほとんど全身がそろう。ただ胸の真ん中のところにだけ欠けた部分がある。

2017-09-18 22:54:59
帽子男 @alkali_acid

少年はその穴を覗き込む。 「心臓かな?」 ながめていてもよく分からないので、フライパンで豆を温めて食事にする。デザートは市場でもらった傷物の林檎をかじる。まだはしりで、すっぱい。

2017-09-18 22:57:00
帽子男 @alkali_acid

翌日は一枚のカードだけが届く。 「船便の遅れのため、万能文化女中器の納品が延期となります」 少年は拍子ぬけして頬杖をつく。そうして何も言わない女の死体、のように見えるものを一瞥する。部屋の隅に古いシーツをかけて置いてある。

2017-09-18 23:00:08
帽子男 @alkali_acid

ひさしぶりに電話をかけるために郵便局へ行く。だがうまく通じない。電波状態がよくない。がっかりして帰ろうとすると局員のおじさんが肩をつかんでいう。 「君だね」 「なんですか」 「ここで渡す方が早い。さあ」

2017-09-18 23:02:44
帽子男 @alkali_acid

やけに冷たい感じの封筒がひとつ。なんとなく嫌な気持ちになりながら、封を切って開けると、伯父の名前とともにあれこれと難しい言葉が連ねてある。 「これ…」 「船が沈んだんだ」 「船が?」 「そう書いてあるよ」

2017-09-18 23:05:26
帽子男 @alkali_acid

少年はぶるっと震えると、もういちど書類を読み直す。 「そんな」 「おかげでこっちに来るはずの荷物がだいぶなくなってしまった…あ、それどころじゃないな。お気の毒だ」

2017-09-18 23:07:19
帽子男 @alkali_acid

少年は家で一睡もせずに夜を明かすが、払暁の前にうとうとする。玄関で物音がして外に出ると、またカードが届いている。 重ねて文化女中器の部品が遅れていることを詫びる内容。

2017-09-18 23:08:54
帽子男 @alkali_acid

指でカードをばらばらに引き裂いて、まきちらすと、古いシーツがかかった女の死体、のように見えるものをひきずりだして、道端のゴミ箱にひきずっていく。

2017-09-18 23:09:45
帽子男 @alkali_acid

「どうしたんだね。ずいぶん大きいゴミだ」 老掃除夫が尋ねる。 「捨てるんです」 「どうして」 「がらくただから」 「ほとんどできあがってる」 少年はだまって胸の穴を見せる

2017-09-18 23:10:47
帽子男 @alkali_acid

「あとひとつ足りないんだね」 「もう届かない。船が沈んだから」 「そうか…じゃあ、かわりに何か入れてみたらいい。その女の人に似合いそうなものを」 「何かって」 「君の家には色んなものがいっぱいあるだろう。伯父さんが持って帰って来る。わしももらった。前に。きれいな貝殻とか」

2017-09-18 23:13:02
帽子男 @alkali_acid

少年は、女の死体、のように見えるものの、きれいな顔をじっとにらんでから、シーツに包み直して家までひきずっていく。

2017-09-18 23:13:37
帽子男 @alkali_acid

そうして伯父の持って帰って来たがらくたの山をひっくりかえす。いくら掃除しても整理しても追いつかず、結局あきらめて物置のようになった私室から。

2017-09-18 23:14:39