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(前回のあらすじ:東と西に新たな妖怪集団が迫る中、オトロシが砲撃を再開した!粉塵と蒸気で視界を塞がれた片桐達は砦や資材置き場のある南へと移動を開始するが、その最中にも更に砲撃が来る。恵里たちが迎撃の構えを取る中、片桐は一人妖怪集団へ対処すべく、南へと回された。)
2017-09-23 00:22:05ブルームで広場に出た片桐の視界に最初に飛び込んできたのは、ブルーシートで覆われた砦の基礎と、その上で待機する祥汰と想良だった。シートは瓦礫や飛散した雪で覆い尽くされ、青い部分は殆ど見えない。見た限りでは瓦礫は砂利のように細かいものが殆どで、シートの下の基礎は無事だと思われた。 1
2017-09-23 00:29:46祥汰は幻獣デモンズデザイアの後ろでハルバードを両手に肩で息をしている。幻獣の自動迎撃だけでは間に合わなかったのだろう。祥汰は目線だけで、後ろへ行くように促す。何と言って労を労うべきかを思いつかないうちに、瞬時に彼の側まで来てしまい、ただ親指を立ててみせ、資材置き場へ向かった。 2
2017-09-23 00:36:29基礎の損壊、或いは祥汰達の消耗が激しいようなら、ここで止まることも考えていたが、基礎は無事で、祥汰はともかく想良は余裕がありそうに見えたので大丈夫だろう。すれ違う一瞬に見た限りでは彼女は不満げにさえ見えた。恐らく、祥汰の奮戦の結果、後ろの彼女の仕事が大幅に減ったのだろう。 3
2017-09-23 00:41:46ブルームを徐々に減速させつつ、数秒で資材置き場に着いた。東側では佐祐里たちが雪のバリケードの向こうにいるイノシシに攻撃を打ち込み、中央では岩の迎撃が始まり、西の雪バリケードでは礼太たちがオオカミの侵攻に備えている。それぞれ数名、合わせて十六名がいた。 4
2017-09-23 00:46:45ちょうど佐祐里が後方へ跳んだ。レコードの装填の為だろう。 「会長!」 「片桐くん!」 佐祐里は目線だけを向けて応える。片桐はブルームを徐行させると、隊員の数名が空けてくれた佐祐里の隣へと進み、ハンドルと共に握っていた右の剣を構えた。 5
2017-09-23 00:55:46「迎撃は恵里と皆に任せてきました」 「ええ。良い判断です。そのまま東へお願いします」 佐祐里はレコードを交換・装填し、自身も回復薬を飲みつつ状況を手短に説明した。ある程度は片桐も聞いていた内容だが、無線が使えなくなり、片桐達の有線通信機が壊れた為、情報と認識の共有は必要だ。 6
2017-09-23 01:03:41イノシシたちを広場側と挟み撃ちにすべく東の山小屋から出動した部隊は、新手が出現したことで今は東へと引き返している。イノシシはまだ十匹ほど残っており、このままでは自分たちのほうが挟撃されるからだ。撤退する彼らをイノシシの半数が追撃している。ただし、単に逃げているのではない。 7
2017-09-23 01:05:56「……という訳で、片桐くんにはその援護をお願いします」 作戦を聞いた片桐はニッと笑った。 「なるほど、了解!でも西は?」 「待機させている礼太くんたちを援護に回します」 西に待機しているのは、近~中距離向きの隊員達ばかりだ。桐葉達の撃ち漏らしが壁を越えてきた場合に備えている。 8
2017-09-23 01:13:54だが壁向こうで奮戦している精鋭二名のお陰で今の所出番はない。待機は半ば名目で、実際は疲れやすい礼太を休ませていたのだろう。その甲斐あって今は余力があるように見える。新手に合わせて桐葉たちと交代させるには丁度よい。 「じゃ、早速行ってきます!」 「ご武運を!」 「会長も!」 9
2017-09-23 01:16:51片桐はブルームのカウル部をほぼ九十度にまで持ち上げて一気に加速、雪の上に乗り上げると東へと走り出す。雪壁の向こうの通路の中には四匹のイノシシが未だに広場を目指していたが、行き掛けにその足元に刃を飛ばして切り裂く。急所に受けたらしい二匹が苦悶して互いにぶつかり、転倒する。 10
2017-09-23 01:19:59雪壁は幾つかの岩の命中と、イノシシ達の突撃により既に崩壊寸前だった。佐祐里たちが今の片桐のように壁の上から攻勢を掛けられなかったのも弾幕で牽制するのが精一杯だったせいでもある。だが、これでこの場は心配ないだろう。六十メートル程先のイノシシの集団を目指し、ブルームを走らせる。 11
2017-09-23 01:24:46雪壁のおかげか通路周辺は粉塵が薄く、離れた場所もある程度見通せる。岩や破片を躱しつつ、数秒で交戦中の隊員たちの横へと辿り着く。 「無事か!」 ホバリングを止め雪壁の上に車体を沈み込ませると、片桐は立ち上がって声を掛けた。 「ハル坊!」 「春夏くん!?」 12
2017-09-24 01:02:19隊員たちは突然の片桐の登場に驚く。大きな怪我は無いようだが、明らかに消耗が激しい。彼らは敵集団を十メートル前後の距離を保ちながら引きつけ、東への誘導を試みていた。火力が強過ぎれば広場に引き返しかねないし、弱ければ自分たちが危ない。相当に神経を使う戦いだった。 13
2017-09-24 01:19:43撃たずに逃げればすぐに追いつかれる。そして全滅させるのも難しい。火力を集中すれば数匹は倒せるが、その隙に残りに襲われる。均等に火力を振り分け牽制し続けるよりなかった。西の二人が敵を全滅しつつあるのと比べて戦果が乏しいようだが、これは単純にイノシシのほうが頑丈なせいでもある。 14
2017-09-24 01:31:14「作戦は聞いた!先に行ってくれ!」 片桐はブルームで東向きに通路に滑り込むと、武器の斧が壊れ消耗も激しい年配の隊員に代わりに乗るように促す。そして隊員たちを庇うように双剣を構え、前に出る。 「おい待て!」 「大丈夫、任せてくれよ。いい加減、新装備もまともに使いてぇしさ」 15
2017-09-24 01:45:02突如現れた新手を警戒して、イノシシたちは様子を窺っている。彼らから目を離さずに 剣の刃を、刃同士が接した状態で伸ばしていき、鎖のようにする。この状態で軽く振り回して、注意を引きつける。 「行け!」 敢えて後ろを向いて叫ぶ。これを隙と見てかイノシシの一匹が飛び掛ってきた。 16
2017-09-24 01:50:03片桐は後ろへ跳んだ。浮かせた刃の側面を蹴って横へ跳ぶ。これを二度繰り返して瞬時に敵の側面を取った。地面に頭を向けた状態で右の剣を強く握りしめる。 「おらぁっ!」 護拳でもって左頬を殴り飛ばす。閃光。強い反動に拳が痺れるが、即座に刃と雪壁を蹴って数メートル後退する。 17
2017-09-24 01:58:47雪壁に倒れ込んだイノシシ。左頬を見ると骨や肉が露出し、痙攣しながら消滅の煙を脳の辺りから発している。スタンインパクト…片桐の武器に追加された新機能だ。彼の電撃能力は、B級以上の敵には一時的に痺れさせる程度の威力しか無いが、それを収束して護拳から一瞬に解き放つ技である。 18
2017-09-24 02:02:52強力ではあるが、まだ欠点が二つある。博士の名誉のために言っておくと、どちらも武器ではなく片桐の慣れの問題である。もっとも改造から一週間も経っていない状況では練習不足を指摘するのも酷だろうが。その欠点の一つ目は、威力の調整だ。まだ細かい加減が利かない。 19
2017-09-24 02:09:28(思ったよりやり過ぎちまった…) ふらつかせ、怒らせる程度のつもりだったが、倒してしまった。敵の顔色を窺うが、幸い仲間を倒されたことで闘志と怒りをを燃やしているようだ。片桐に畏れ慄いて引き返されては困るので、これで良いし狙い通りだ。だが舐められているようで良い気分でもない。 20
2017-09-24 02:12:46もう一つの欠点は、殴った際の反動だ。手へのダメージは然程でもないのだが、殴った側の剣で制御していた刃が一瞬だけ制御を失うのだ。今は右手で殴り、足場の刃は左で制御していた。片桐の並列思考は無数の刃の左右を取り違えることはないが、咄嗟に敵を殴りたい時には注意が必要だ。 21
2017-09-24 02:19:00