渋谷すばる【幼なじみから…】

「初デート」というテーマで企画に参加した時のお話
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えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【1】 昨日までの雨が嘘のように晴れ渡った休日の昼下がり。 だけど、私は、何をするわけでもなく、膝を抱えて座ったまま、ぼんやりと窓の外を眺め、流れる雲を見ていた。 ピンポーン‼︎ 突然、玄関のチャイムが響き渡る。 誰だろう…今日は、来客の予定も荷物が届く予定もないのに…

2014-06-29 21:12:30
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【2】 最近、仕事が忙しくて、人に会うのも億劫になっている私は、そのまま居留守を使うことにした。 なのに… ピンポーン!ピンポーン! ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん‼︎ 玄関のチャイムは鳴り止まない。 しかも、今度は、ドアを強く叩く音までが加わる。 一体、誰よ、全く…

2014-06-29 21:12:42
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【3】 とりあえず相手を確認しようと、モニターを確認すると、そこに立っていたのは、幼馴染のすばるだった。 幼馴染と言っても、母親同士が親友で、その影響で、会う機会が多かっただけで、お互いに実家を出て一人暮らしをしているのは知ってたけど、私の部屋に来るなんて、一度も無かったのに…

2014-06-29 21:12:52
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【4】 インターホンを取り、 「すばる…どうしたの?」 と、話しかけると、 「とにかく、ここを開けて中に入れろ」 と、命令口調で返してくる。 これ以上、放置してても近所迷惑なので、言われた通りに鍵を開けると、すぐさまドアを開けて、すき間から体を滑り込ませてきた。

2014-06-29 21:13:02
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【5】 だけど、入って来るまでは強引だった彼が、先ほどまでの騒ぎが嘘のように黙り込み、玄関に立つ私をじっと見つめる。 彼の大きな黒い瞳に見つめられると、何もかもを見透かされそうで、逃げるように視線を外す。 「とにかく上がれば…コーヒーでいいよね」 「おん…」

2014-06-29 21:13:11
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【6】 彼が靴を脱ぎ、部屋に上がる。 置いてある小さなテーブルの前に、ドカッとあぐらをかくと、ゆっくり周りを見回した。 私は、キッチンに立ち、コーヒーを入れる。 そして、必死に自分の心を落ち着けようと試みる。 だって… 彼にとっては幼馴染でも、私にとっては片思いの相手だから…

2014-06-29 21:13:20
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【7】 昔から、目立つ存在だった。 幼い頃は、女の子と見間違いそうなくらい可愛い顔立ちで、それが少しずつ大人の顔立ちに変わっていっても、彼の容姿が整っているのは、疑いようもない事実。 だけど、実はそれだけではなくて、言葉こそ少ないけれど、見ているところはちゃんと見ていてくれる。

2014-06-29 21:13:31
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【8】 本当に誰かの助けが必要な時には、彼は自分を顧みず、迷わず手を差し伸べてくれる。 そんな、彼に、いつの間にか恋していた。 でも、この想いは、深く秘められたまま、ずっと幼馴染として接してきたのだった… コーヒーを持って、彼の元に行くと、彼も再び私を見上げる。

2014-06-29 21:13:38
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【9】 何かを探るように。 何かを言いたそうに。 その視線に気づかない振りして、私は話し出す。 「本当に、どうしたの? ここに来るのは初めてじゃない?」 「おん…」 「何かあったの? あ、彼女の事で相談かな。私でよければ相談に乗るよ、話して、話して〜」 「ちゃうわ…アホ」

2014-06-29 21:13:47
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【10】 「何だ…違うのか。じゃあ、何よ。まさか、デートのお誘いとか?」 その瞬間、彼の大きな目が更に大きくなり、小さく息を吸い込んだ。 予想外の反応に、私も黙り込む。 流れる気まずい雰囲気… 「ごめん、冗談」 「そうや!」 謝ろうとした私の言葉とすばるの返事が重なる。

2014-06-29 21:13:56
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【11】 「え?」 「だから、デートに誘いに来たんやって」 恥ずかしいのか、怒ったような口調で言う。 「でも…すばる、彼女が…」 居たよね、確か… 「とうの昔に別れとるわ、そんなもん」 「え? だって、私たち、幼馴染…」 「お前にとってはそうでも、俺はそう思っとらん」

2014-06-29 21:14:06
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【12】 「本気?」 「こんな事、冗談で言えるか。とにかく、デートすんのか、せんのか返事せい」 「…き…ます」 「ん?」 「行きます!」 「わっ!そない、大声で怒鳴らんでも聞こえるわ。ほんなら、さっさと支度せい」 それから、急いで準備を始めた。 夢ならこのまま覚めないで…

2014-06-29 21:14:16
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【13】 久しぶりに彼の車に乗る。 彼が、免許を取ったばかりの頃は、こうして何度も彼の助手席に乗り、ドライブに出かけた。 いつか彼女ができた時のための練習台と言って。 その頃には、もう彼に恋していたから、幼馴染から先に進めないのが辛くて、自然と距離を置くようになって…

2014-06-29 21:14:23
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【14】 彼を忘れようと、何人かの人と付き合ってもみた。 だけど、結局、彼以上に焦がれる人はいなくて、うまくいかなかった。 だけど、今日は、すばるの彼女として、助手席に座っている。 誰かの代わりじゃなく… 車は、静かに走り出す。 たくさんの想いと、たくさんの思い出を乗せて…

2014-06-29 21:14:30
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【15】 カーステレオからは、ミディアムテンポの曲が流れている。 車の中に漂うのは、その音楽と二人の息遣いだけ。 特に会話もないけれど、全然息苦しくなくて、心は幸せに満ちて、リラックスしている。 窓の外を流れていく景色を眺めながら、この時間がずっと続いて欲しいと願っていた。

2014-06-29 21:14:38
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【16】 出発が遅かったこともあり、目的地に着いた頃には、日が暮れだしていた。 すばるが連れていってくれたのは、海だった。 人の姿はほとんどなく、小さい海岸だったけど、貸し切りみたいで心が踊る。 「少し、歩かへんか」 と、私の手を取る。 二人で手を繋いで、ゆっくりと歩き出す。

2014-06-29 21:14:44
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【17】 水平線に沈もうとしている夕日に照らされて、どちらともなく、思い出話を語り出す。 そう、今までは幼馴染として、たくさんの事を経験し、共有してきた。 そして、これからは、恋人同士としての思い出を重ねていくのだ… そんな事を考えていたら、涙が溢れてきた。

2014-06-29 21:14:51
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【18】 すばるが振り返って、私を見たけれど、何も言わず、何も聞かなかった。 やがて、二人並んで腰掛けられるスペースを見つけると、私をそこに座らせた後に、隣に腰掛けて肩を抱き寄せた。 私の涙が止まるまで、ただ黙ってそばにいてくれた。 どれくらいそうしていたのだろう…

2014-06-29 21:14:58
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【19】 やっと涙の止まった私の顔を覗き込み、 「ひっどい顔やな、自分。ぐしゃぐしゃやないか」 と言って笑った。 「それ、めちゃくちゃ失礼。女の子に言うセリフじゃないよね…」 「ホンマの事言って、何が悪い」 「もう…」 ふくれっ面でそっぽを向いた私の顔を、すばるの手が引き寄せる。

2014-06-29 21:15:06
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【20】 その手に導かれるまま、彼の方を向いた私の唇に、彼のキスが落ちる。 それは、触れるだけの軽いものだった。 だけど、今までで一番心も体も震えたキスだった… 「そろそろ、帰ろうか。明日、早いんやろ?」 スッと立ち上がり、その細い腕からは想像できない力で、私を引き上げた。

2014-06-29 21:15:11
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【21】 正直…帰りたくは無かった。 視線で、そう彼に訴えると、 「初めてのデートは、早めに帰らな。次がなくなったら、かなわんからな」 そう言って、また笑う。 お互い、もうそれなりの年齢で、今さら初デートも何もないと思うんだけど… だけど、それもいいかな、と思う自分もいる。

2014-06-29 21:15:17
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【22】 帰りの車の中で、思い切って聞いてみる。 「ねぇ…どうして、いきなりデートを誘いに来たの?」 「それはやな…」 と言ったきり、しばらく黙り込む。 「オカンが…」 「え?」 「俺とお前のオカンが、電話で話しとってん。そしたら…結婚するって聞こえたから…」

2014-06-29 21:15:23
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【23】 「私…結婚する予定ないけど…。それに、結婚する相手がいたら、デートに行かないよね、フツウ」 「おん、それは、俺の勘違いやってんけど、それで俺、気付いてん。今、行動起こさんやったら、もしかしたら取り返しのつかない事になるかもしれん、て。そう思ったら…」

2014-06-29 21:15:29
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【24】 「…思ったら?」 「居ても立ってもおられんで、オカンに場所聞いてもらって、飛んできてん。お前がおらんとか、今彼氏がおるとか、そんなこと、全然考えられんやった。とにかく、必死で」 「いつから…いつから私は、幼馴染じゃなくなったの?」 「さあ…分からん」 「私はね…」

2014-06-29 21:15:34
えいと@ぱられるわあるど @BRPOBYG_eighter

【25】 「ん?」 「すばるがずっと好きだった。私も、いつから変わったのか分からないけど、この想いは伝えちゃいけないと思ってた。私は、諦めなきゃいけないんだって、思ってたんだ」 「……」 「すばる…未来をくれてありがとう。私、今、本当に幸せ…」 止まったはずの涙が、再び流れ出す。

2014-06-29 21:15:40