エリミネイト!アナイアレイター! #7
欠損した左半身をカラテの鉄で補い、鉄条網じみた装束で覆い、フード付きのマントでその恐るべき身体を包み隠した金色の目のニンジャを目撃した者はごく少ない。だが目撃者は地球上のあちこちに存在していた。ニンジャの名はアナイアレイターと言う。 1
2017-09-25 21:38:00この奇妙な魔術師めいたニンジャは大陸から大陸、山から山、都市から都市へ渡り歩き、その足跡を残していった。月破砕年以降、彼のように世界のあちこちを放浪するニンジャが幾らか現れるようになった。磁気嵐の消失により、ニンジャ大国である日本から多くのニンジャが解き放たれた為であろう。 2
2017-09-25 21:40:29アナイアレイターは特異なジツを用いるニンジャであった。その襤褸布めいたマントが翻ると、鉄条網が飛び出して、襲い来た敵を絡め取り、引き裂き、破壊する。彼と戦うものは様々であった。強盗野盗の類い、ヤクザ組織、あるいは暗黒メガコーポの企業戦士。やがてその名は畏怖をもって口にされる。 3
2017-09-25 21:45:28アナイアレイターは凶暴なヨーカイであるとも、邪悪な破壊者であるとも、狂った魔人であるとも言われた。しかし気にかかるのは、寒村や貧民街、避難所の類いにおいて、その名がしばしば、祈りの言葉めいて口にされた事だ。よりによって、アナイアレイター(鏖殺者)などという名のニンジャが。4
2017-09-25 21:48:34彼の過去を知る者はおらず、彼の思想や目的に触れた者もいない。だが……ともあれ、この謎めいたニンジャ放浪者は、この年、国家消滅後の日本へ再び現れ……ネオサイタマを北西に離れた地点、サキモノシティを訪れた。そこで住人の失踪事件を耳にした彼は、しばしその地に滞在し、嗅ぎ回り始めた。 5
2017-09-25 21:53:13デクタ・サキモノ・エメツ・テクノロジー・アンド・リサーチ社が管理するサキモノシティは、同社の人体実験場を兼ねていた。それは、UNIXへの特殊なLAN直結によって希少資源であるエメツを抽出するというものだった。アナイアレイターは実験場を見つけ出し、踏み込み、破壊を試みた。 6
2017-09-25 21:55:53これに対し、デクタ社の駐留企業戦士がすぐさま排除行動を開始した。アナイアレイターは市民会館に偽装された地下実験施設で激しいカラテをふるい、フマー・ニンジャのソウルに由来する恐るべきジツを解放し、ニンジャを含むデクタ社の戦力を返り討ちにした。まさにその名に恥じぬ殺戮であった。 7
2017-09-25 22:00:11彼は一面に放たれた己の鏖殺鉄条網とトルーパーの死体を見渡した。地下実験施設。……否、彼は連なる黒いトリイと、草一つ生えぬ超自然の荒野を見ていた。頭上には黄金の立方体が自転していた。連なるトリイをゆっくりとくぐり、現れたものがあった。その顔は闇そのもので、影すらも見えはしない。 8
2017-09-25 22:02:27尋常の存在ではない。何者だ、とアナイアレイターが口にするより先に、答えがニューロンに刻まれた。サツガイ。一歩進み出るごとに、スリケンが放たれ、まだ息のあった企業戦士たちを殺していった。アナイアレイターは呻き声をあげ、後ずさった。「BWAHAHAHAHA!」サツガイは狂笑した。 9
2017-09-25 22:06:31アナイアレイターに、サツガイは何かを為そうとした。そのとき彼のニューロンに去来したのは、直接に体験したことのない記憶だった。フジサンの麓、飛び交う矢と、スリケンと、炎と、氷と、鬨の声。東と西にわかれた陣営。恐るべきイクサだった。彼はそこにいた。彼の憑依ソウルが。 10
2017-09-25 22:08:59それはバトル・オブ・ムーホン。遥かな昔、ニンジャ始祖カツ・ワンソーに反旗を翻したハトリ・ニンジャ、そして彼に従うニンジャ六騎士の巨大なるイクサであった。六騎士。すなわち、ハガネ、ソガ、ゴダ、ドラゴン、フマー、ヤマトの六人のアーチニンジャだ。フマー・ニンジャこそが彼である。 11
2017-09-25 22:12:46そして今目の前に現れたこの者は?フマー・ニンジャのソウルは猛り狂い、肉体を焼き溶かすが如きカラテで、彼の血管を満たした。ニンジャ始祖カツ・ワンソー。最大の敵……恐るべき敵……絶対の恐怖……目の前の「サツガイ」には、微かな、だが決して無視できないエッセンスが含まれていた。 12
2017-09-25 22:15:19アナイアレイターは……フマー・ニンジャは、咆哮とともに爆発した。彼のカラテは内より破裂し、狂い跳ね、あらゆる場所から地上に這い出し、サキモノシティを蹂躙した。サツガイは己の意図の通らぬ事に気づき、ますます笑った。「BWAHAHAHA!MWAHAHAHAHAHA!オカシイ!」13
2017-09-25 22:18:13サツガイの笑い……何もかもを貶め、嘲る、虚無的な笑い。「破裂」の結果、サキモノシティはアナイアレイターのジツに覆われ、外界から隔絶され、暴走したソウルは無数のミニオンを無計画に作り出し、動くものがあれば襲い掛かった。住人は避難生活を強いられた。 14
2017-09-25 22:21:44今やその記憶は数千年の昔にも思えた。それこそフジサンの麓のイクサと変わらぬ非現実的な過去の体験として、ニューロンに微かに残されているだけだった。「サツガイ」の名も、じきに失われるだろう。そして気づけば、アナイアレイターは、十年前につるんでいた連中に囲まれ、困惑している。 15
2017-09-25 22:24:31「コイツのジツが解けた。ッてことは企業も動くんだろ」「恐らくシティの付近にデクタ社の部隊が駐留している。殲滅部隊が。実験の内容が公になれば株価へのダメージは深刻だ。消しにかかる」「……」「フーッ……」彼は息を吐いた。怒りが再び湧いて来る。すべき事がある。「付き合え。テメェら」16
2017-09-25 22:27:41サキモノシティ中央広場!既に街中を蹂躙し、ドーム状に空を隠していた鉄条網は塵芥と化して吹き払われている。無秩序に動き回っていた鉄条網パワードスーツも動力源を失い、動かぬ無用のオブジェと化していた。空の下、DZは土埃舞う中、ひとり歩き進み、立ち止まった。 18
2017-09-25 22:35:59「ここでいいのか」やがてもう一人。現れたスーサイドは、土にツバを吐き捨て、DZに歩み寄った。「……」サイバーサングラスをかけた彼のしかめ面はいかなる感情もあらわさない。そのとき、カッと音がして、サーチライトが空から投げかけられた。 19
2017-09-25 22:40:04「クソが」吹きつける風をスーサイドは不快がる。DZは呟いた。「スルスミ。輸送用エアクラフト。アダナス系の機体」「ハ。詳しいじゃねえか」「……降りてくるぞ」彼の言葉通り、ジップラインが垂らされ、複数の人員が機体から降下して来た。 20
2017-09-25 22:42:27「アダナスってのは何だ」「……デクタとは提携関係。機体を調達してる……シッ」DZは会話を切り上げた。最初に降り立ったのは七三分けの男。デクタ社のサラリマン、ハンバキ。続けて一人、二人、三人、四人、と降りた。一人は単眼フルメンポをつけている。そいつがニンジャで、他はモータルだ。21
2017-09-25 22:47:17ニンジャのみならず、ハンバキをはじめとするサラリマンも、エマージェント装甲服に身を包み、実際ものものしい。「ドーモ。お世話になっております」ハンバキは愛想笑いを浮かべ、オジギした。「いやはや、目覚ましいご活躍です。綺麗にこう、取り払われましたな!これで株価も回復します」 22
2017-09-25 22:49:42「カネを払えよ」スーサイドは凄んだ。守るようにニンジャが進み出てアイサツした。「ドーモ。ルックアウトです」「スーサイド」「ダイ・ゼンです。DZで結構」「報酬はもちろんお支払いします。既に稟議に回しました」ハンバキは頷いた。スーサイドは上のスルスミを見る。「うるせえ機体だぜ」23
2017-09-25 22:54:00「なにしろ中の状態がわかりませんでしたからな」と、ハンバキ。「いかがですか。通信環境も不自由でしたから、レポートをいただかねば」「ああ。アナイアレイターは見ての通りブッ殺して、こうやってこう、アレだ。きれいさっぱり片付いたろうが」スーサイドは言った。「この後はどうなる」 24
2017-09-25 22:55:50