「ザ・ハート・オブ・サマー」

ニンジャスレイヤーの二次創作です。
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J0SHUA @kj0shua2112

◇これより、当アカウントにて、ニンジャスレイヤー二次創作小説の投稿を開始いたします。実況・感想等は #josh_txt をご使用いただければ幸いです。◇

2017-10-01 20:11:19
J0SHUA @kj0shua2112

【ザ・ハート・オブ・サマー】illustration by R-9(@epxstudio_nj ) #忍穫 #ウキヨエ pic.twitter.com/MQpX3Z6iH0

2017-10-01 20:23:02
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「ラッセーラ!ラッセーラ!」「ヨッソイ!ヨッソイラー!」ネオサイタマ。アマクダリ・セクトによる統治がゆるやかに進む中、薄墨めいて街を塗りつぶし始めた絶望と諦念に抗うように、ネブタパレード・フェスティバルは最終日を迎えていよいよ最高潮を迎えようとしていた。 1

2017-10-01 20:16:10
J0SHUA @kj0shua2112

顔を出し始めた夕日に追い立てられるように摩天楼を吹き抜けるビル風が、昼過ぎまで降っていた重金属酸性雨由来の微粒子とケミカルな湿り気を運ぶ。人々で賑わう大通り、そこに並ぶ屋台の一つから、「リンゴチャン」と書かれたノレンをくぐって出てきたのは、大柄な男と、小柄な浴衣姿の若い女だ。2

2017-10-01 20:20:27
J0SHUA @kj0shua2112

「ネオサイタマのオマツリもキョートのに負けないくらい賑わってるもんだな。今日は珍しく晴れてるから」浴衣の女……エーリアスが言った。その眉は永久脱毛されており、代わりにあしらわれたイバラめかしたタトゥーは、オーセンティックな浴衣とややアンバランスなカワイイを醸し出している。 3

2017-10-01 20:27:00
J0SHUA @kj0shua2112

トレンチコートにハンチング帽を被った男、フジキドの腕には、エーリアスの物である「地獄お」と書かれたマフラーがかけられている。先程エーリアスがフランクフルトを食べた際に「汚れるといけねえから」と預けられ、結局そのままとなっているものだ。 4

2017-10-01 20:32:00
J0SHUA @kj0shua2112

「あンたもその格好暑くねえのか?探偵も良いけど、たまにはこういう息抜きも必要だと思うから連れ出したんだぜ」「この服装は十分に機能的だ」フジキドはエーリアスに言い返した。「オヌシこそ、浴衣まで備えるとは随分な気合の入れようだ」 5

2017-10-01 20:36:25
J0SHUA @kj0shua2112

「だって最後かも知れねえンだろ。せっかくだしさ」エーリアスは鼻を鳴らして答えた。道の両側にはいつも以上にネオン屋台が所狭しと軒を連ね、様々なフードやアルコール、電子ハナビ(専用の回路をショートさせるイミテーションである)やオミクジなどを売っている。 6

2017-10-01 20:40:38
J0SHUA @kj0shua2112

それらのどれもが長年庶民に親しまれたものばかりであり、ネブタと共にこの非日常を彩るのに欠かせないものだ。しかしこのオマツリも、自粛と緊縮の元に行われる規制に次ぐ規制のため規模の縮小が続いており、来年からは開催そのものが危ぶまれている。 7

2017-10-01 20:43:54
J0SHUA @kj0shua2112

それでも人々はこの数少ない娯楽を最後まで楽しむべく、いつも以上のケモビールとバリキによって己を没入させているのだ。「元々、オマツリのアトモスフィアっていうのかな。そういうのが好きなんだよ。鍼灸院やってた頃は、オマツリの日は店を早めに閉めて、浴衣着て行ったりしてたなァ」 8

2017-10-01 20:48:12
J0SHUA @kj0shua2112

エーリアスは浴衣の袖をひらひらと動かした。落ち着いた紺色の生地に、小さな鍵めいた模様が控えめにあしらわれている。「やっぱりさ。変な話、服でもアクセサリーでもなんでも、こういうものを身に着けたりしてたほうが自分ってのを意識し続けやすい気がするんだ」 9

2017-10-01 20:52:06
J0SHUA @kj0shua2112

「モージョーみたいなもんだな」「そういうものか」「大変なンだぜ」エーリアスはリンゴ飴をかじった。「あ。でもこの浴衣のこと、後でブレイズ=サンに会った時には内緒にしてくれよ。一応俺のバイト代から買ったけど、やっぱり怒られるかな。でもオマツリだしな……」 10

2017-10-01 20:56:05
J0SHUA @kj0shua2112

彼女は何事かを言い訳めいて一人でつぶやき続ける。病んだ太陽は徐々に沈み、辺りを紅に染めていく。エーリアスもまた夕日を受け、一瞬その髪が燃えるような赤色めいて光った。「エーリアス=サン?」「うん?」「……いや、見間違いだ」「そうか」そのまま二人は歩き続けた。 11

2017-10-01 20:59:06
J0SHUA @kj0shua2112

今は黄昏時。あるいは逢魔が時。己と他の境界も、この世とあの世の境界も曖昧となる時間帯。オヒガンとの距離が普段よりも少しばかり近づくオーボンの時期なれば、なおさらである。どことなくシンピテキを帯び始めたアトモスフィアの中で、フジキドは、亡き妻子と来たオマツリを想起していた。 12

2017-10-01 21:03:47
J0SHUA @kj0shua2112

ピィー、ヒョロロロ。トントコトントントトントントトン……マチヤッコが奏でるイナセな祭囃子をBGMに、「ラテスカービベ」「豚骨」「キンギョ」「オスモウ」などの色とりどりのノボリが踊る。モチヤッコやラッコのオメーンをつけた子供らがエーリアス達の横を笑いながら走り抜けた。 13

2017-10-01 21:08:15
J0SHUA @kj0shua2112

エーリアスは笑顔で子どもたちの背中を見送る。「そろそろ花火が始まる時間だ。ニンジャスレイヤー=サンはビールとヤキソバなんかを買い足しておいてくれよ。俺はぼちぼち見やすい場所を探してくるぜ」「オヌシ一人で平気か」「ダイッジョブダッテ!はぐれても俺なら見つけられるからさ」 14

2017-10-01 21:12:41
J0SHUA @kj0shua2112

エーリアスはサムズアップすると人でごった返すメインストリートから外れ、穴場めいた高台を探し始めた。祭りの喧騒は大通りから離れるほどに驚くほど急速に減衰し、遠くから風に乗って届く祭囃子と、エーリアスの下駄の足音が静かなワビサビを作り出していた。ピィー……ヒョロロロ…… 15

2017-10-01 21:16:54
J0SHUA @kj0shua2112

しかし、そこに異物めいたものをエーリアスは聞き取った。子供の泣き声である。彼女が声のする方へ歩いて行くと、果たしてそこにはとぼとぼと歩き続ける少年の姿があった。「グスッ……グスッ……」少年がかけているサイバーサングラスには「エラー:タスケテ」の文字。 16

2017-10-01 21:21:31
J0SHUA @kj0shua2112

「なあ、大丈夫?君、一人で歩いて……」少年はしゃくり上げながら答えた。「お、お母さんとはぐれちゃって、アケビと一緒に探したんだけど、アケビもいなくなっちゃって」しばらく一人きりで歩き続けていたのか、誰かに会えた安心からサイバーサングラスの下から再び涙が幾筋か流れ始めた。 17

2017-10-01 21:25:57
J0SHUA @kj0shua2112

((迷子か……弱ったなあ))エーリアスは少し逡巡し、少年の目の前に屈んで優しくサイバーサングラスを外してやると、「分かった。俺も一緒にお母さんと……アケビ=チャンかな?2人を探してやるよ」と伝えた。少年の顔が明るくなった。「アリガト、お姉ちゃん!」 18

2017-10-01 21:32:24
J0SHUA @kj0shua2112

少年はサイバーサングラスを外すと涙を拭い、精一杯の笑顔をエーリアスに向けた。「お、お姉ちゃん、か……いや、実際そうなんだけど、そうじゃないんだよ。いや忘れてくれ。何でもねえよ」エーリアスはやや赤面しながら応えた。「ほら、行くぜ」彼女は訝しげな少年の手を引き歩き始めた。 19

2017-10-01 21:35:02
J0SHUA @kj0shua2112

【ザ・ハート・オブ・サマー】#1 終わり。 #2 へ続く。

2017-10-01 21:40:58