ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル ＃１
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
@NJSLYR
ギョワギョワギョワ！ママカ、ママカ、ママカ！コルコルコルコル……コルコルコルコル！「ンンン……」エンゾは苦しげに寝返りを打った。否応無しに発掘人となった彼がこのキャンプで暮らすようになって、まだ二週間。夜中でもお構いなしに鳴き続ける鳥獣の騒音にどうしても慣れる事ができない。 1
2017-10-05 21:49:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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ギョワラギョワラギョワラ「アイエエエ……」エンゾは起き上がり、頭を抱えた。時計を見ると、午前0時。寝床には汚いベッドが五つ。うち三つには同業者が眠っている。二人は死体めいて静かで、一人は鳥獣に負けないイビキをかいている。グルルゴゴゴ！最低限の壁と屋根らしきものは一応ある。 2
2017-10-05 21:54:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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ギョワギョワギョ……ドンツクドンツクブブンブーン。「ヒヤアー！」不意に外でミュージックと嬌声が聴こえはじめた。エンゾは窓から顔を出し、空を見上げた。木に縛りつけた貧相なライトと、割れた月と星明かりで、夜中でも十分明るい。音の方向を見ると、嗚呼、やはりだ。パーティーが始まった。3
2017-10-05 21:58:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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離れの小屋にキャンドルの明かりが灯り、滲む影がゆらゆらと揺れていた。誰かがラジカセを持ち込んで音楽を鳴らし始めたのだろう。物凄くセクシーなオイラン達が、強面の先輩採掘人と腰を絡めて踊っている。「ヒイヤア！」「ヒヤアー！」「ウーッ」エンゾは渋々外に出た。小便がしたくなったのだ。4
2017-10-05 22:02:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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エンゾは15歳。家からは追い出され、仕方なく、町外れのヤクザの手引きするバスでこのキャンプにやってきた。朝早く起きて、陰鬱なホースを使って土に水を浴びせ、掘る。そういう仕事だ。昔はそうやって土の中から砂金を採っていたが、今は黒い金。エメツというやつだ。何に使うのかは知らない。 5
2017-10-05 22:05:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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ドンツクドンツクブブンブーン。「ボーイチャン」「カワイイ」トイレに向かおうとするエンゾに、オイラン達が声をかける。彼女らのTシャツにはカタカナで「ホット」「カルチャー」、漢字で「文化圏」と書かれている。エンゾは目をそらした。先輩採掘人が嘲り、オイランの唇を吸った。6
2017-10-05 22:09:39
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「エンゾ＝サン、コカインやるか！」「ずるいぞ、俺にくれよ！ゲラゲラ！」「ボーイチャン、楽しいよ！」「……！」エンゾは声から逃げるように走り出した。グワラグワラ！コルコルコル！（ああもう……どうしてこんなに遠いんだ）トイレの小屋は遠い。 7
2017-10-05 22:13:08
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エンゾはここでワケもわからず働いている。先輩採掘員は乱暴で、恐ろしい。だが監督は輪をかけてコワイ。太っていて身体が大きく、Tシャツのようなタトゥーを入れており、前歯はオハグロと呼ばれるエメツ金歯に置換されていて、凄まじく恐ろしい。だが給料は日払いだ。若くても最低限のカネは出る。8
2017-10-05 22:15:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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（俺も、俺もカネを貯めて）ようやく辿り着いたトイレで、息を止めて小便をしながら、エンゾは夢を思い浮かべた。（カネ貯めて、オイランに優しくしてもらおう。こんなところじゃなくて、ちゃんと町で）「ぶはッ！」用を足すと、トイレの外へ駆け出し、ニオイの来ない場所まで離れて、深呼吸した。 9
2017-10-05 22:19:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「ハア……ハア……クソッ、なんでこんな遠いんだよ、アイエッ！」エンゾは何かにつまづき、転倒した。「アイエエエ！」そして悲鳴を上げた。木の根ではなかった。人間だ。間違いない。しかもその死体は手を伸ばし、エンゾの脚を掴んだのだ！「アイエエエ！」いや、死体ではないのか！？「誰！」 10
2017-10-05 22:22:35
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来た時は居なかった！つい今、道を横切るようにして倒れたんだ、行き倒れだ！エンゾのニューロンを思考が爆発した。星明かりの下で明るいオレンジの髪がわかった。エンゾが戸惑ううち、その顔が上がった。美しい娘だった。「エッ、オイラン！」エンゾは目を見開いた。「違うんです」娘が答えた。 11
2017-10-05 22:25:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「コトブキといいます」「エンゾ」ジャングルの細道を並んで歩きながら、二人はお互いの名を名乗った。「エンゾ＝サンですね。よろしくお願いします。ここはどこですか？」「エッ？採掘人のキャンプだよ。名前なんて……多分ないと思うけど」「わたし、アマゾン川を船で移動していました」 12
2017-10-05 22:30:24
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「船……」「盗賊の襲撃を受けて、船は沈んでしまいました。順調にいけば今頃、都市で情報収集を続けられたのですが」「全然わからない」エンゾはコトブキの装いを見た。「コトブキ」と書かれたTシャツと、探検ユニフォームめいたカーキ色のズボン。Tシャツには汚れたサングラスを挟んでいる。13
2017-10-05 22:35:51
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「朝になればバスが来るけど……」エンゾは呟いた。「では、それに乗せてもらいます」「うまくいくのかな」「大丈夫です」コトブキはズボンのポケットを叩いて探った。「路銀はあります」「ううん……」「それより、エンゾ＝サン」コトブキが立ち止まった。「スシはありませんか」「スシ？」 14
2017-10-05 22:39:23
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「腹が減って死にそうです」コトブキは俯いた。「おカネは払いますから」「スシ……そんな事急に言われてもなあ……」キャンプになにかしら食べる物はあるだろう。だが、スシとなると。「スシじゃないとダメなの？」「スシが無い場合は、ほかの食べ物でどうにか……多分」「変なこと言うんだね」15
2017-10-05 22:42:08
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ここでエンゾは思い至る。コトブキはカワイイのだ。驚いて、思わず後ずさった。そして不安になった。クスリをキメた他の発掘人連中は、彼女の事も「ホット」や「カルチャー」の仲間と見做して、連れて行ってしまうのではないだろうか。いや、仲間じゃないと知っても、同じかも。 16
2017-10-05 22:46:03
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@NJSLYR
「その……キャンプはあまり良い場所じゃないんだよ。他の連中は皆、危ない奴らだし、君、酷い目に遭うかも……」「でも、腹が減って死にそうなんです。おカネもあります」コトブキは言った。「自我があるので、狼藉をしてきた相手にはカラテしますし、心配いりませんよ」「自我？」 17
2017-10-05 22:51:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「荒くれ者が沢山いる場所に、どうしてエンゾ＝サンのような奥ゆかしい方が？」「奥ゆかしい？どうしてもなにも、家にも帰れないし。これが仕事だからだよ」エンゾは説明した。「エメツを掘るんだ。監督に怒鳴られながらね。それでカネを貰うんだ。それで生きていける」「暮らしなのですね……」18
2017-10-05 22:57:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「ほら、あの明かり」木陰からエンゾは指差した。「まったくうるさいな……」ここまで嬌声が聞こえてくる。ドンツクドンツク……嬌声……（アイエエエ！）悲鳴？エンゾは訝しんだ。そして、KABOOOM！小屋から火の手が上がった！「何だ！？」KABOOOOM！「アイエエエ！」19
2017-10-05 23:01:01
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今やはっきりと聞こえた。発掘員は悲鳴を上げている！悲鳴に混じって、ヘラヘラという笑い声や叫び声が聞こえた。BRATATATA……そして銃声が！「ザッケンナコラー！アバーッ！」応戦したと思しき発掘員の断末魔の悲鳴が！炎に影が浮かび上がる！「アイエエエエ！」エンゾは頭を抱えた。20
2017-10-05 23:02:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「コトブキ＝サン！」振り返ると、コトブキは棒立ちで無反応だ。「エッ？」エンゾは訝しんだ。腕を揺さぶる。「アブナイ。身を屈めて！」「スシ」コトブキは抑揚のない声を出した。「スシ、ヲ、クダサイ」キュウーン……奇妙な音が聞こえ、開いた瞳孔に「欠」「乏」の漢字が表示された。21
2017-10-05 23:05:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「エッ……アイ…アイエエエ！？」エンゾはパニックに陥った。BRATATATA！BRATATATA！「オイ見ろよ！」空に銃を撃ちながら、襲撃者が近づいてきた。「何だこの……女じゃねえか！ホットだぜ！」「！！」驚きに飛び退った勢いで、エンゾは足を踏み外し、後ろの斜面に倒れ込んだ。22
2017-10-05 23:11:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer
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「スゴイホット！来いって！」BRAKKA！BRAKKA！「ウルッセーゾ！それより、オイ！コンテナがあるぜ！こりゃ貯め込んでやがる！」「いいから来いよ！オイランドロイドだッつうの！」「オイランドロイド！？こんな所に！？」「マジだって！スゴイホット！」「マジかよ！」「スシ……」23
2017-10-05 23:13:05