第一話 ルーンの魔術師
村のみんなに見送られ旅立った私は、そのまま西へ道なりに進み森の中に入った。この森を超えた先にここら辺で一番大きな街があると父さんが言っていた。そこには多くの人や店があり、冒険の足がかりにするにはちょうどいいとのことだ。
2017-09-30 20:48:09この道は元々それなりに人が行き交っていたらしいが、現在は魔物がよく発見されるようになっているため人の姿はない。幸いにも魔物の姿もここまではない。とはいえ、こんな薄暗い道にいつまでもいたくはない。
2017-09-30 20:49:04と思った時、道の脇の草むらからガサゴソと音が聞こえてきた。 私はすぐに音がしたところから距離を取る。背の高い草が不自然に揺れる。背負った鞘から剣をゆっくりと抜き、体の前に構えた。 「……来るなら来てください!」 その言葉が通じたのかはわからないが、黒い影がいくつか飛び出してくる。
2017-09-30 20:49:47「ギャッギャ」 「……ゴブリン!」 ゴブリン。それくらいなら私でも聞いたことはある。 ——緑色の小人のような魔物。顔に小さな ——魔物の中でも弱い部類ではあるものの集団で行動をしていることが多いため厄介。 しかし、目の前にいる魔物は1体。仲間はいないようだ。
2017-09-30 20:50:04ふぅと息を吐きだし、剣を握る手に力を込める。 ——大丈夫、これなら勝てる。 私は地面を蹴り出し、ゴブリンの方へと走りながら思いっきり剣先を振り上げた。 「避けないでくださーい!」 そう叫びながら、ゴブリンに向けて振り下ろした。
2017-09-30 20:53:15何かを斬り裂くような音が聞こえた。 「……え、当たった?」 一刀両断。ゴブリンは見事に真っ二つになっていた。 「うわっ……」 目の前にひろがるグロテスクな光景に思わず目をそらし口を覆った。 ——だけど、これにも慣れなくちゃいけないんだよね。
2017-09-30 20:58:00そう思って、ゆっくりと視線を戻——。 「うわっ無理」 自分でやっておいて酷い言い方だとは思うけど、無理なものは無理。仕方ない、仕方ない。 だけど、こうやって少しづつ慣らしていけば、なんとかなるのではないだろうか……。今のうちに練習しておこう。
2017-09-30 21:02:20「……うん、直視しても大丈夫にはなりました。うん、大丈夫。私は魔物を真っ二つにしても平静さを保てます。大丈夫、大丈夫です。よし!」 小さく頷いて。 また、歩き出そうと振り返った時だった。 「ギャッギャッ」 「へ?」 いつの間にか、私の周りにはたくさんのゴブリンがいた。
2017-09-30 21:06:03「……もしかして、私がこの子を殺したの分かってます?」 「「「ギャッ!」」」 「……仲間を殺されて怒ってます?」 「「「ギャッ!」」」 「謝ったら許してくれます?」 「「「ギャッ!」」」 「…………」 何を言ってるのかは全くわからないが、多分許してくれそうにはない。
2017-09-30 21:09:27私は再び戦闘態勢に入る。 「……勝てるのかなぁ?」 敵の数は20はゆうに超えてるだろう。 ユウちゃんの冒険は最初の街にたどり着く前に終わってしまったなんて笑えない。送り出してくれた村のみんなに申し訳ない。 それ以上に。 「こんなところで死にたくないですから!」 そう叫んで——
2017-09-30 21:12:15目の前にいたゴブリンの軍団の元に突然炎が巻き上がり、跡形もなく消え去った。 突然の出来事に私は目を白黒させるしかなかった。 「……へ?」 「おいおい、惚けた顔晒してる場合じゃないだろ」 いつの間にか私の目の前に立っていた男が、小馬鹿にするような口調で言った。
2017-09-30 21:25:55「何なんですか、あなた?」 目を細めながらたずねる。 「助けてもらってその態度はどうなのよ」 「え、あなたが助けてくれたんですか?」 「俺以外じゃないとしたらさっきの炎は何よ」 「私がピンチの瞬間にミラクルパワーに覚醒したのかと」 「……ポジティブだな、あんた」
2017-09-30 21:28:29大きな杖を肩に担いだ男は呆れ顔で私を見ていた。 どうやら怪しい人ではないらしい。 「……助けてもらったのは本当のようですね。ありがとうございます。魔術師の方ですか?」 「そういうことになるな。ただの通りすがりの無名の魔術師さんだ」 「こんな道を通りすがる魔術師さんがいるんですね」
2017-09-30 21:33:16大きな杖を肩に担いだ男は呆れ顔で私を見ていた。 どうやら怪しい人ではないらしい。 「……助けてもらったのは本当のようですね。ありがとうございます。魔術師の方ですか?」 「そういうことになるな。ただの通りすがりの無名の魔術師さんだ」 「こんな道を通りすがる魔術師さんがいるんですね」
2017-09-30 21:33:16「むしろ、あんたこそ一人でこんな道を通ってどうしたんだよ。魔物が出没することすら知らない無知じゃないだろ?」 「はい。私はただの勇者です」 「……勇者?」 一瞬その男の表情に陰りが見えた気がしたが、すぐに苦笑を浮かべた。 「冗談にしても笑えねえな」
2017-09-30 21:37:34「むしろ、あんたこそ一人でこんな道を通ってどうしたんだよ。魔物が出没することすら知らない無知じゃないだろ?」 「はい。私はただの勇者です」 「……勇者?」 一瞬その男の表情に陰りが見えた気がしたが、すぐに苦笑を浮かべた。 「冗談にしても笑えねえな」
2017-09-30 21:37:34「冗談じゃないですよ。私は今から魔王を倒しに——」 「それを本気で言ってるならより救えないな。……遊びじゃないんだぞ」 「わかってますよ!」 「本当か?勇者なんて辛いだけだぞ。お前だって伝説の勇者の結末を知らないわけじゃないだろ?」 「……魔王を封じてハッピーエンドですか?」
2017-09-30 21:42:03「冗談じゃないですよ。私は今から魔王を倒しに——」 「それを本気で言ってるならより救えないな。……遊びじゃないんだぞ」 「わかってますよ!」 「本当か?勇者なんて辛いだけだぞ。お前だって伝説の勇者の結末を知らないわけじゃないだろ?」 「……魔王を封じてハッピーエンドですか?」
2017-09-30 21:42:03「ああ、そうだな。だけどその代わり大切なモノを何もかも失っている。最後には自分の命さえもな。……そんな旅になるかもしれないんだぞ。それでもいいのか」 「……大切なものを無くしたくはないです」 「だろ?だから諦め——」 「でも勇者になることは諦めませんよ」
2017-09-30 21:45:50「ああ、そうだな。だけどその代わり大切なモノを何もかも失っている。最後には自分の命さえもな。……そんな旅になるかもしれないんだぞ。それでもいいのか」 「……大切なものを無くしたくはないです」 「だろ?だから諦め——」 「でも勇者になることは諦めませんよ」
2017-09-30 21:45:50「…………」 魔術師のお兄さんは大きなため息をついた。 「……なんでそこまでして勇者になりたいんだ」 「だって……魔王がいたら皆が苦しむじゃないですか。幸せになれないじゃないですか!そんなの見てられないですから!」 私はぎゅっと拳を握りしめた。
2017-09-30 21:50:32