軽い気持ちで「自殺ゲーム」を始めてしまった男の、ちょっと奇妙な物語。

オード＠暇 @ord_realdgame

サムネ用 pic.twitter.com/bipidHq9Ux

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≪自殺ゲーム≫ 今日もYoutubeで動画を上げる。 暇つぶしにYoutuberとして活動を始めて1年。 俺のチャンネルはそこそこ軌道に乗ってきていた。 割が良いのでバイトは辞め、今では大学もサボって動画を撮る日々。 「俺、本業でやってけるんじゃ？」 そんな風に思っていた。

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だが、ここ最近はチャンネル登録者数が伸び悩んでいた。 「何か、視聴者がドーン！と増えるような面白い企画、ないかな…」 『自殺ゲーム』の噂を耳にしたのはそんな時だった。 「知ってるか？自殺ゲームってのが流行ってるんだってよ」 「ふーん。自殺ゲーム？何だか物騒な名前だな」

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『自殺ゲーム』は通称で、正式には『紅いイルカ』というらしい。 東欧が発祥のゲームで、これが原因で自殺者が出て問題になっているそうだ。 内容はこうだ。 1日1つ、指定されたミッションをこなし、証拠として画像をSNSに上げる。 それを50日連続で達成できたらクリア、というわけだ。

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もちろん、俺はそれに食いついた。 「なるほど。きっと最終的には死の危険性があるような過激な内容のミッションになるわけだ。面白そうじゃん！ 証拠は動画を撮ってアップすればいいわけだし、俺のチャンネルのネタにもなって一石二鳥だ。なーに、死ななきゃいいんだろ。余裕余裕」

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早速、指令をくれるというアプリをスマホにインストールする。 「なになに…【このゲームは命の危険を伴います。もしあなたが仮に命を落とすようなことがあっても、管理者は一切関知しません】…？」 わざわざ注意書きまでご丁寧にどうも。 死ぬ気はサラサラないけどな。

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---- 「はい皆さんこんにちは！明日から新しい企画を始めます！ 巷で噂の『自殺ゲーム』って、ご存知ですか？ あれをやってみたいと思います！ 死んじゃう人もいるって噂なんですが、本当でしょうか！？ 検証も兼ねて、早速行ってみましょう！ 明日、第1回目のミッションは！？」 ----

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指令は前日の18:00に下される。 準備が必要な場合のため、備えるだけの若干の時間があるというわけだ。 最初のは簡単だった。 【午前4:30までに起床する】 夜更かしせず、アラームさえセットしておけば大丈夫だろう。 念のため、早めに床に着くことにした。

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---- 「はい皆さんこんにちは！いや、おはようございます！ 現在時刻4:15！簡単でした！ まあこんな調子でボチボチやっていきますんで、応援よろしくおねがいします！ 明日のミッションが発表されたら後程アップしますね！」 ----

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2日目のミッションも全く問題なかった。 【2本以上、映画を観る】 レンタルショップで適当な映画を借りて観ることにした。 途中で寝そうになりながらも、何とか達成。 もっと興奮するようなものにすれば良かったな。 特に嫌いなわけではないが、2本も観るとお腹一杯。

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---- 「はい皆さんこんにちは！ 2日目も余裕のクリアでした！ 明日も見て下さいねー！ チャンネル登録もよろしく～！」 ---- ホントにこんなんで死ぬ奴なんかいるのかね？ ちょっと信じられないな。

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10日目、20日目、とミッションをこなすうち、視聴者が徐々に増え、俺はゲームにのめり込んでいった。 自分でネタを考えなくても、指令をゲーム感覚でこなすだけでいい。 コメントもどんどん増え、興奮に拍車をかける。 中には俺の身を案じるものもあったが、すぐに気にならなくなっていった…。

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【最寄のコンビニでガムテープを買う】 【100m以上の坂を全力で駆け上る】 【駅前公園のトイレにある段ボールを多摩川へ投げ捨てる】 【1日、水以外を口にしない】 【バーガーショップでスマイルを注文する】 【大声で歌いながら○○商店街を通り抜ける】 etc.etc.…

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徐々にミッションは難しく具体的なものになっていき、視聴者もそれに比例して増えていく。 【花火を口にくわえて火をつける】 「がんばってください！」 「今日も見てるよ～」 「応援してます！」 「死ぬなよ」 「ガチでやってんの？」

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動画には視聴者からのコメントが溢れる。 【電車が通る直前に踏切を渡る】 「あぶねー！！今のはヤバかった」 「ホントに死んじゃうよ～」 「さすがです！めっちゃ興奮しました！」 「マジで通報ギリギリ」 「心臓バクバクだった！」

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期待はそのままプレッシャーとなってのしかかってくる。 しかし、それ以上に、陶酔が体を満たしていた。 49日目。 【10階以上のビルの屋上へ行き、手すりの外に立ち、下を覗きこむ】 途方もない高さに足が竦む。クリア。 これであと1日。 最終日を生き延びれば、俺の勝ちだ。

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---- 「はい皆さんこんにちは！ いやー昨日は危なかった。 もう吸い込まれそうで怖かったですよ。 もうホント飛び降りようかなんて思えて。 …ウソですよ！ ついに最終日、明日でこの企画も終わりですが、皆さん、ここまで本当にありがとう！ 最後まで応援よろしく！ ----

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アプリからの指令もこれで見納めだな。ん？ 【明日が最終日となります。今まで全てのミッションをこなしてきたあなたへの最後の指令です。これをこなすことができたら、クリアーとなります。お疲れ様でした。それでは、最後の指令をお伝えします】 もう何が来ても驚かないぞ。何でもこい！

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最終ミッション 【レインボーブリッジから海へ飛び込む】

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……… 待て。 これは自殺そのものじゃないか。 今までのは、命の危険はあっても、死ぬ気がなければ死なないようなものだったのに。 最後の最後で本気で死ぬ指令だなんて。 そんなのアリかよ。 「そりゃないだろ…」 思わず本音が口をついた。

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---- 「皆さん、こんにちは… 最終ミッションなんですが、『橋から海へ飛び込め』…って… これ、無理じゃないですか…？ 本当に死んじゃいますよ… ここまできて悔しいですが、ギブアップ、しようかな…と…」 ----

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視聴者の反応は　思っていたのと　まるで違った。 「は？やらないの？」 「ここまできてそれはないでしょ」 「臆病者」 「俺は人が死ぬところが見たいんだよ」 「これをやって生き残ってこその伝説」 「何？何？自殺の実況中継？超面白そう」

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俺はここまできてようやく事態の深刻さに気付いた。 皆、俺が生き残ることを願って応援していたのではなかった。 面白そう、ただそれだけだったのだ。 今まで自殺した人も、こうして背中を無理やり押されて、危険な行為に身を投じたんだろうか？ 恐怖に全身が粟立ち、俺は現実を疑った。

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好奇心という名の、害意のない悪意がコメントを埋め尽くしていく。 「やれよ」 「俺だったらやるね」 「やらなかったらお前ん家行くからな」 「やらないという選択肢はない（二重否定）」 「やってよ！」 「これはやるしかない！」 「やれ！」 「やれ！」 「「「「「「やれ」」」」」」