小島寛之氏の測度論的確率論批判は妥当か?
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前置き
「小島寛之氏の測度論的確率論への批判」に対する批判についてのメモをツイートしていくことにします.かれこれ1年以上前からまとまった批判を書こうとしているのですがなかなか進んでいかないので、とりあえず個別のケースについてのメモ書きをためていくことにしました.
2017-10-11 18:45:44まず小島寛之氏の何を批判の対象としているのかを明確化しておきます. それは,「測度論的確率論について批判的なことを言っているが根拠が不明瞭」という点です.
2017-10-11 19:00:56どういう風に不明瞭かというのは中々表現に困るので,それは具体例を通じてみていくことにします.ソースは小島寛之氏の書籍とブログからです.
2017-10-11 19:05:40まずは,僕が小島氏の見識に疑問を持つきっかけとなったブログの記事「2007-12-11 もういいかげん、確率論の新しい時代に入ろう」を見ていきます. この記事はもう10年近くの前の記事ですが,今でもはてブで「確率論」と検索するとわりと上位に出てきます.
2017-10-11 19:08:41↑ 2015年出版のこの本にも似たような記述があります.
本題
この記事ではまず測度論的確率論の枠組みを概観し,その後,測度のσ加法性について「単なる確率創世記の考え方であって、不確実性について認識の深まった現在も、これを踏襲し続けることはないんじゃないかな、と感じている」と述べます.
2017-10-11 19:36:53そして小島氏は「ベイジアン的な確率論」と「量子力学的確率論」ではσ加法性は崩れていると述べます.そして前者の確率を「心理的確率」,後者を「物的確率」と名付けそれぞれの説明へと進みます.ここで1つパラグラフを飛ばしていますが,このパラグラフは結構問題があるので後で検討します.
2017-10-11 22:38:51小島氏による批判1ー心理的確率
小島氏は心理的確率の例として次のものを挙げます. Aのツボは99個の青い球と1個の赤い球が詰まっていて,Bのツボは99個の赤い球と1個の青い球が詰まっている.このとき,ツボから1個球を取り出してみたら赤い球であった.目の前のツボはAのツボかBのツボか.
2017-10-11 22:48:38小島氏はこのとき個人がベイズの公式を使うなりして出した「Aのツボである確率」「Bのツボである確率」が心理的確率だと主張します. そしてこの心理的確率は個人の推論であるからベイジアン的確率理論は「論理的な推論」であり,加法性はある必要はなく,否定されていると言います.
2017-10-11 23:02:47小島氏の言うベイジアン的確率理論における「加法性」が何を指すのかは分かりませんが,もし条件付確率の加法性のことを言っているのであれば,これもほぼ誤りと言えます.条件付確率は確率変数であり,測度では無いため完全に厳密な意味では加法性のような性質は成り立ちません.
2017-10-11 23:17:05↑ 「これも」は「これは」の間違いです.
しかし,通常の条件下においては正則条件付確率という概念を用いて,条件付確率はrandom measureという確率測度を集めたものとみなすことができ,当然加法性も成り立ちます.この意味で条件付確率は加法性を満たします.
2017-10-11 23:21:50まとめるとベイズ統計は通常測度論を用いて定式化されるし,加法性も成り立つということです. ただこの辺りの指摘は小島氏の記述が曖昧なため的を外している可能性もあります.
2017-10-11 23:22:43小島氏による批判2ー物的確率
次に小島氏の物的確率の概念を見ていきます.これは非常にナイーブで「物的な不確実性はすべて量子力学的不確実性に起因する」と主張しています.つまり「物的確率」とはほぼ「量子力学的不確実性」のことだと言っています.
2017-10-11 23:30:55「量子力学的不確実性」というのはそれ一言で何を指すか伝わるような言葉ではないと思うのですが,特にこれ以上説明はありません. そして小島氏は量子力学では加法性は成り立たない.つまり,物的確率でも加法性は成り立たないと主張します.
2017-10-11 23:33:34確かに量子力学的現象は必ずしも測度論的確率論を用いた定式化ができるわけではありません.測度論の枠組みでは定義できず,量子確率論などの作用素環を用いた枠組みでは上手く定義でき,しかも実験的に確かめられている現象があります(ベル不等式の破れ).
2017-10-11 23:57:26しかし小島氏の説明は「量子力学における確率は複素振幅のノルム(説明ご容赦)で表記されるものであり、そこにも加法性が存在しない」とあるのみです これは恐らく波動関数の絶対値の2乗を粒子の分布を表す確率密度関数とみるという事を言っているのだと思いますが,これぐらいなら測度論で扱えます
2017-10-12 00:10:34↑ すみません.「これぐらいなら測度論で扱えます」と書きましたが,これは恐らく間違いです.
物的確率の批判としては次のツイートの「量子確率論でも加法性は考えることが多い」というのをメインの内容と解釈してください.
つまりこれは小島氏の言う「物的確率」が加法性を満たさないことの説明にはなっていません. あと先ほどの量子確率論の説明に追加ですが,量子確率論において測度の代替となる正値汎関数には連続性(≒加法性)を課すことが多いと思います.
2017-10-12 00:15:02