ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:ナスカにおける大いなるニンジャ禍によって、ニンジャスレイヤー達は離散した。コトブキはひとりアマゾン川流域をさまよっていたが、スシ栄養素が欠乏し、動作不能状態に陥る。麻薬組織「エル・キケン」の構成員は動けぬコトブキを連れ帰ろうとするが、死んだ)

2017-10-12 21:50:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(エル・キケンの者達は、大胆不敵な行動によって、謎のバイオニンジャ集団のテリトリーを侵犯してしまったのだ。ナムアミダブツ。肘から刃を生やす無慈悲なバイオニンジャのK2、K3は、コトブキにスシを与えて回復し、自己紹介をした。「サワタリ・カンパニー」と……)

2017-10-12 21:52:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル】#2

2017-10-12 21:52:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジャングルが開けた。そこは完全に隠された地であった。密集する樹木の重なり方、崖の角度、岩の高低差、斜面を流れる川の反射が生み出す目の錯覚によって、通常では発見しえぬようにカモフラージュされた空間であった。「待ってろよ」K2はK3とコトブキを振り返って言い置き、一人、進み出た。 1

2017-10-12 21:58:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

すぐに、赤いレーザーがピタリとK2の額に定まった。K2は落ち着き払って言った。「馬の!」すると不思議な反響によって、声が帰ってきた。「頭の!」K2はそれに答えた。「ツノ無し!」……赤いレーザーが消えた。「いいぜ。入れ」K2は手招きした。三人は草の中へ入っていった。 2

2017-10-12 22:02:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

三人は草の上を進んだ。入ってみれば、とても広い。根菜を育てる畑や、引き込まれた綺麗な水路、錆びたバラックの小屋がいくつもあった。特に大きいものは飛行機や戦車のガレージを思わせた。コトブキは住人の息吹を感じた。先ほどの赤は狙撃武器のレーザーサイトであろう。入場の決まりなのだ。 3

2017-10-12 22:04:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

最も大きい建物のバラックの裂け目にはパラシュート素材の布が張られている。そこに「砦沢渡」と書かれていた。「フォート・サワタリだ」と、K3。「ホントは、あそこからはハイドラの方が近いんだ。だけど、お前を置いとけるような準備もねえとよ。そりゃそうだったぜ」「それで、このサワタリに」4

2017-10-12 22:08:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、オカエリ!」バラックの二階部から、女が顔を出した。健康的な褐色の肌。目はキラキラとしていて、笑うと白い歯が印象的だった。飼育員めいた明るいブルーのPVCツナギを腰まではだけ、タンクトップを見せている。よく鍛えられた肩と腕。「あれがモニカだ」と、K2。 5

2017-10-12 22:15:53
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「モニカもオカエリだぜ」K3が手を振った。モニカは身軽に草の上に飛び降り、歩いて来た。K3は近づいた。「売ってたか?デビルゴア・ウォリアーズ!」「またそんなもの頼んでたのかよ」K2が怒った。「ガキじゃねえんだぞ」「大人だってゲームする。わからんお前がガキだ」「何?ナメるなよ!」6

2017-10-12 22:18:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「みっともない。客の前でケンカやめなさい」モニカは二人を叱りつけた。彼女はK2に「個人の賃金だからいいんだよ」と言い聞かせ、K3にゲームソフトのディスクを渡した。「ヤッタゼ!間違えてデビルゴア・バトルズを買って来られたら最悪だった。ウィピー!」K3はそのまま走り去った。 7

2017-10-12 22:22:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エート……モニカ・ヤシマです。ようこそ、フォート・サワタリへ」モニカがあらためてコトブキにアイサツした。「ドーモ、コトブキです」「それ」モニカは彼女の右脚を見咎める。シリコンが損傷し、関節部の機械が見えていた。「平気なの?」「ダメだ」K2が言った。「コイツちょっと壊れてンだ」8

2017-10-12 22:27:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おかまいなく」コトブキは言った。「そんなの絶対死ぬぜ」とK2。「ああ、通信で言った奴ってのは、それか」別の声が飛んだ。二人歩いて来た。声の主は白シャツの袖を捲り上げ、渦巻き模様の軍パンツを履いた男だ。その後ろにもう一人。アトモスフィアですぐに、その後ろの男が一番偉いとわかる。9

2017-10-12 22:35:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイツがディスカバリーだ」K2が指さした。「で、あのオッさんがな、社長だ。ウチの大将だ」「サワタリ・カンパニーのCEO兼主任技術者の、フォレスト・サワタリよ」モニカが言った。「社長で、大将で、CEOで、主任技術者ですね!」コトブキが感心した。 10

2017-10-12 22:38:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ。サワタリ・カンパニーCEO、フォレスト・サワタリです」モスグリーンの開襟シャツを着、髪を後ろに撫で付けた精悍な髭面の男が、威厳あるアイサツを行った。ディスカバリーもオジギをした。「わたし、コトブキです」「まず幾つかテストをさせてもらう。スパイの類で無い事をな」 11

2017-10-12 22:44:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「コイツ違うと思うけどなァ」K2が異論を唱えたが、「本人が気づかずトロイに利用されるケースもある」サワタリ社長とディスカバリーは取りつく島もなかった。「LANで繋いでチェックしてください」コトブキは素直に言った。「そのつもりだよ」と、ディスカバリー。ガレージに連れて行く。 12

2017-10-12 22:48:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんだよ。あんなスゲェオイランドロイドいねえぞ。持って帰って来たのに褒めてもくれねえ」K2が彼らの背中を睨み、モニカに愚痴を言った。モニカは肩をすくめた。「褒美目当てで動いてるうちは、まだまだ」「ケッ!」彼らの声に反応し、川をザブンと波立たせて、ピンクのイルカが顔を出した。13

2017-10-12 22:53:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「キューン」ピンクのイルカは長い口を突き出し、水面を立ち泳ぎした。このイルカの名はマインドキル。社員である。イルカはヘッドギアをしており、そこから空中にホロ文字が投射された。「謙虚」。「なにかケンカ売られてる気がするぜ」K2がイラついた。モニカはバケツの魚を投げてやった。 14

2017-10-12 22:57:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ちょっとその仕切り値では卸せないですね」隣室からは営業社員のペドロがIRC通信をせわしなく行なっている声が聞こえてくる。ディスカバリーはコトブキに直結されたUNIXモニタの「診断プログラム値:危ないものはない」の表示を見届けた。サワタリ社長は腕組みして彼女を値踏みしている。16

2017-10-12 23:05:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「トロイの類は無しだな。抜いていいぜ」「はい」コトブキはケーブルを外した。「貴様……通常のオイランドロイドではないな」サワタリ社長が鋭い視線を投げた。「自我があります」と、コトブキ。サワタリとディスカバリーは顔を見合わせた。「ウキヨか……!」「どこで何をしていた。所属は」17

2017-10-12 23:11:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わたし、ネオサイタマから、ナスカに来ていたんです」「ナスカだと?」「地図から消えた場所だ」「それです、その大災害が、わたし達を引き裂いたんです!」コトブキは遠い目をした。「わたしにカラテがあれば」そのひどく悲しげな顔に、社長とディスカバリーはもう一度お互いの顔を見合わせた。18

2017-10-12 23:17:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それは……なんか、すまんな。大事な人だったのか」ディスカバリーが腫れ物に触るように奥ゆかしく言い、サワタリ社長は咳払いした。「いいのです」コトブキは嗚咽を押し殺した。「それでも、それでもわたし、前に進まないと……!何かしていないと、おかしくなってしまいそうで」「ううむ」 19

2017-10-12 23:22:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「確かに、人間と変わらんか」サワタリは呟いた。「それで?アマゾンを北上していたのか」「はい。とにかくネオサイタマに帰らなければ。そうしないと、わたしは何も……。あの、マナウスまで行けば、ウキハシ・ポータルがありますね?」コトブキは大都市の名を口にした。「ポータルで帰ります」20

2017-10-12 23:27:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ポータルだと?所属企業も無い奴が」ディスカバリーが呆れた。「しかもウキヨと来てる。無理だ。他のやり方を考えるがいい」「大丈夫です!行けばなんとかなります。だって、いつも……わたし……」コトブキの顔が歪み、手で顔を覆い、震え出した。サワタリが咎める目でディスカバリーを見た。21

2017-10-12 23:31:13