エリュトゥラー・ギガント #1

マジンガーZじゃないだろうなという声がありましたが、タロスも元ネタの時点でかなりマジンガーに近いので実質マジンガーZ 2:https://togetter.com/li/1161374
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2017-10-14 21:01:23
劉度 @arther456

【エリュトゥラー・ギガント】

2017-10-14 21:03:07
劉度 @arther456

紅海。本当なら青いはずの海は、深海棲艦の勢力圏を表す赤色に染まっている。この海を取り返そうとした人類の海軍は、皆ことごとく返り討ちにあった。そんな紅い魔の海を、今、2隻の船が密かに航行していた。横須賀の指揮艦・蔵王、そしてイタリアの強襲揚陸艦、セント・エフレムである。1

2017-10-14 21:03:18
劉度 @arther456

「0430、定時報告、お願い」《先行部隊、不知火です。敵影はありません》《五十鈴よ。潜水艦も見当たらないわ》「よし。みんな、戻ってきて。最期の休憩だ」哨戒部隊が蔵王に戻る。驚くべきことに、蔵王とセント・エフレムは、紅海を3日間、一度も戦闘を行わないまま北上し続けていた。2

2017-10-14 21:06:05
劉度 @arther456

蔵王たちが見つからなかった理由は様々だ。夜だけ進軍し、敵の目から隠れ続けたこともある。オマーンが協力してくれたお陰で、紅海の詳細な海図が手に入ったこともある。だが、一番の理由は、スエズにいる深海棲艦の数そのものが少ないことであった。3

2017-10-14 21:09:07
劉度 @arther456

「スエズの連中め、まんまと釣り出されるとはな」装甲空母姫が、呆れたように呟いた。彼女は西方海域から亡命してきた深海棲艦だ。今回はオブザーバーとして提督たちに同行している。「本命がいるんですし、そんな厳しいこと言わなくても」「駄目だ。常に裏を考えるのが、司令官の仕事だろう」4

2017-10-14 21:12:12
劉度 @arther456

紅海の深海棲艦は、そのほとんどが大西洋に向かっていた。蔵王とは別の、日本海軍の大船団が、アフリカ西海岸を北上してヨーロッパへ向かっているからだ。深海棲艦たちが、日本の大艦隊を欧州へ進ませまいと戦っている隙に、提督たちはスエズ運河へと忍び寄ることが出来た。5

2017-10-14 21:16:02
劉度 @arther456

「そうじゃのう。裏を掻かれて補給基地を叩かれるとは、司令官失格じゃなー?」利根がひょっこり顔を出す。装甲空母姫はバツが悪そうに視線を逸らす。「……次はやらせん」「おっ、亡命取り消しか?」「やめなさい、全くもう……」2人をなだめる提督であった。6

2017-10-14 21:18:02
劉度 @arther456

しばらくして、哨戒部隊が帰投した。甲板上で整備や補給を受けている。一人も欠けていないことを確かめながら、提督は先のことを考える。ここまでは戦わずに来れたが、この先はスエズ運河だ。当然、姫級の深海棲艦が待ち構えているだろう。今までのように避けては通れない。7

2017-10-14 21:21:07
劉度 @arther456

提督は払暁攻撃を考えている。夜明け前に攻撃隊を発艦、敵の空母を優先して叩く。そして、夜明けと共に運河を強襲、防衛部隊を一気に壊滅させ、増援がくる前に運河を抜ける。提督は頭の中で何度もシミュレーションを繰り返していたが、作戦が上手くいく自信がどうしても持てなかった。8

2017-10-14 21:24:04
劉度 @arther456

そこに、金剛が紅茶を持ってきた。「お疲れ様ネー、提督」「ん、ありがと、金剛」度々仮眠をとっているが、体が疲れていることは自覚していた。砂糖たっぷりの甘い飲み物はありがたい。「提督、セント・エフレムから入電です」紅茶を飲んで一息つくと、同行するイタリア艦からの入電があった。9

2017-10-14 21:27:03
劉度 @arther456

「繋いで」モニターに映ったのは、眼鏡を掛けた女性。ローマだ。人間そっくりの姿だが、彼女はイタリアからやってきた深海棲艦である。《提督、次の出撃についてなんだけど》今回の航海の目的は、彼女たちの国、南イタリア深海共和国に特使を送り届けることであった。10

2017-10-14 21:30:13
劉度 @arther456

「うん、予定通り、夜明けに仕掛けるよ」《やっぱり、私たちも出撃した方が……》「いやいや、それはいけないって」ローマの言葉を、提督は慌てて遮る。「そこまで追い詰められてないから」《でも》「大丈夫だって。こっちは精鋭を揃えてるし、武蔵と大和もいるんだ。カイジュウだって倒せるよ」11

2017-10-14 21:33:06
劉度 @arther456

本当の所を言うと、戦力は欲しい。しかし、人間と深海棲艦が戦うのと、深海棲艦同士が戦うのは、意味がまるで違うと、提督は考えていた。同族同士で戦うのは一線を超えるものだ。「だから、安心してついてきて。その代わり、地中海に入ったら案内はしてもらうからね?」《……わかったわよ》12

2017-10-14 21:36:08
劉度 @arther456

「よーし」提督は大きく伸びをして、気合いを入れ直した。1時間後、スエズ運河を攻撃する。かつてない激戦になるだろう。覚悟はしている。だが、一人も脱落させずにこの海を抜けたい。そのためには、準備あるのみだ。手元のパネルを操作し、提督は情報の最終確認を始めた。13

2017-10-14 21:39:04
劉度 @arther456

侵入者の存在にはとっくに気付いていた。3日前から、度々不審な船影を見た報告を受けていたから、彼女は警戒線をスエズ運河寄りに集中していた。見つけ次第、今までこの海に突っ込んできた無謀な輩と同じように、沈めてやるつもりだった。だが。15

2017-10-14 21:42:04
劉度 @arther456

「全軍に告ぐ!急いでスエズ運河前に集結しなさい!」運河を防衛する姫に、航空魚雷が襲いかかる。急ターンで回避、避けきれないものは装甲で受ける。「敵は……最終防衛ラインに出現!繰り返すわ、敵は最終防衛ラインに出現!」彼女の前には、2隻の指揮艦と艦娘たちが迫っていた。16

2017-10-14 21:45:02
劉度 @arther456

寝耳に水の空襲。部下の大半は対応できず、次々と沈んでいった。姫も少なくない負傷を負っている。細長い紅海に敷かれた8つの警戒線を、あの船団は全く気付かれずにくぐり抜た。どんな魔法を使ったのかと驚いた姫だったが、敵の船の様子を見れば、あまりにも単純なカラクリだった。17

2017-10-14 21:48:01
劉度 @arther456

人間たちの船は、廃船に見せかける塗装を施されていた。こうして動いているのを見なければ、スクラップにしか見えないだろう。紅海にはあのような、船団の残骸が山ほどある。何も知らない哨戒艇なら、あれをただの残骸と見間違えてもおかしくはない。18

2017-10-14 21:51:03
劉度 @arther456

「くっ!?」姫に中口径の砲弾が当たった。敵の偵察機が弾着を観測している。遠からず、戦艦砲が降ってくるだろう。そうなっては、彼女はひとたまりもない。「……仕方ないわね。運河を傷つけたくはなかったんだけど……!」運河を守る姫は、切り札を切ることを決めた。19

2017-10-14 21:54:07
劉度 @arther456

「敵空母の撃沈を確認!」《敵の旗艦を捉えた!攻撃を開始する!》《敵の増援が動きました!こちらに到着するまで、およそ2時間!》「よしっ、それなら間に合う!敵旗艦に攻撃を集中!」矢継ぎ早に飛び交う情報を整理しながら、提督は拳を握り締めた。状況はこちらが優勢だった。21

2017-10-14 21:57:03
劉度 @arther456

夜明けとともに敵本陣に襲いかかった隼鷹たちの航空隊は、重要目標である軽母ヌ級を捕捉し、これを撃沈せしめた。そのお陰で制空権を、そして戦いの主導権を握ることができた。十分な航空支援があれば、いかに姫級の深海棲艦といえども、物の数ではない。22

2017-10-14 22:00:21