天龍ちゃんの話

龍の刺青すき
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たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

大本営特務通知 来たる11月1日 横須賀第五司令部に三隻、移籍予定 移籍艦は以下の通りである ・横須賀第十五司令部:伊401 ・舞鶴特務艦:天龍 ・同上:龍田 受け入れの準備されたし 大本営総督

2017-10-31 08:27:46
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「この時期に受け入れか?」 思わず口走ってしまった。 「なんでも受け入れ窓口だった第十五司令部が満杯で、こっちに移籍することになったのです」 秘書艦の電は答えた。 長期休暇中に慰安旅行に行ったことはあまり気にしていないようだった。

2017-10-31 08:31:26
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旅行先で響にあったことを話したら電は結構羨ましがっていたな。 「着任直後の対応、任せていいか」 「了解なのです」 そうこうしているうちに、着任時刻である午前9時が迫っていた。 伊401はおそらくあの子だろう。しかし舞鶴の天龍、龍田はどのような人物か見当がつかなかった。

2017-10-31 08:34:48
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「巡洋艦天龍、舞鶴より着任」 「同じく龍田、着任しました〜」 「横須賀第十五司令部より着任って…あーっ!?」 「やっぱり君だったか、しおい、それともお嬢さんといったほうがいいかな?」 「おにいさん提督だったの!?」 見事なまでに驚いている。なんだか面白い反応だ。

2017-10-31 08:37:49
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しおいはいいとして、舞鶴の二人、特に天龍に違和感を感じた。 俺を見る右眼は淀み、腰に下げる刀は支給の刀ではない、そして左頬に走る稲妻の様な黒き龍の刺青。 まさに荒れ狂う龍を彷彿とさせる。 龍田も同様に目は淀んでおり、天龍とは逆に右目に眼帯をしていた。

2017-10-31 08:43:13
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「提督、着任の手続きはもういいか。俺はこういうのに慣れてないんだ。」 俺が聞いていた天龍のイメージとはかけ離れた。自信家でありながら、実力派、そして人あたりにも定評がある。しかし彼女は違う。 死地をいくつもくぐり抜け、まるで生きる屍の様な目をしていた。

2017-10-31 08:46:21
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「あ、ああ、手続きは終わりだ。電。案内を頼む。」 早々に手続きを切り上げ、案内を電に任せた。 「提督〜?ちょっといいかしら〜?」 案内を始めようとする電を他所に龍田は俺に言った。 「少し私たちのことを話しておこうと思って〜、私の案内は後でいいから、いいかしら〜?」

2017-10-31 08:49:35
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

確かに彼女たちのことを知らねば地雷を踏みかねない。電に龍田は俺が案内すると伝え、先にしおいと天龍を連れていく様に伝えた。 「あそこで君が切り出してくれなければ機会を逃していたかも知れんな。」 「あら〜お上手だこと〜」 龍田自体は気の抜けた様な口調で、話に聞いていた通りだった。

2017-10-31 08:52:16
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「大本営特務通知では君たちは舞鶴の特務隊にいたというような記述があったが…」 「上も妙な書き方をするものね〜…」 龍田の話では、舞鶴にいた頃は先見特務艦というポジションで任務に当たっていたとのことだ。 大規模作戦発令前の戦力削り、的輸送路の閉鎖はすべて二人で行っていたそうだ。

2017-10-31 09:00:25
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「簡単にいれば、大本営直属の軍艦、といったところかしら〜」 「随分と荒い扱いを受けている様に見受けられたが…」 「扱いはかなり荒かったわね〜、でもこっちに移されたのは理由があるのよ〜…」

2017-10-31 09:03:08
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「貴方は戦争孤児救済法案をどこまでご存知かしら〜?」 戦争孤児救済法案、深海戦艦の出現から艦娘の製造、実戦配備迄の間に親を失った12〜18歳迄の少年少女を対象に特別給付金を孤児院に提供するという法案だ。 「まあ人並みには知っているつもりだが…」 龍田の顔色が変わった。

2017-10-31 09:06:49
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「あの法案は無条件で給付金を提供すると明記されているわ、しかし実情は違う。あの法案は戦争孤児を艦娘にするための人身売買なのよ。孤児院から少女を提供する代わりに給付金で黙らせるためのね…」 俺の知らない、非人道的な行為が行われていた。 「だが公では志願兵が艦娘になるはずでは…」

2017-10-31 09:10:23
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「たしかに海軍に所属する女性士官から多くの志願が来たとされているわ、でも、容姿で、明らかに子供の、それも駆逐艦の子達が、なぜ軍にいると思う?」 「…」 俺は、言葉が出なかった。知ったところで俺にできることはほとんどない。その現実と、目の前で語られる現実に、押しつぶされそうだった。

2017-10-31 09:16:32
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「私たちは孤児よ、両親は目の前で殺され、国には騙され戦いに身を投じる。基本的に舞鶴の精鋭はそういった戦争孤児を幼い頃から洗脳教育して、国のために最前線に身を投じる子達ばかり、私たち姉妹も同じよ。」 「では、その話と、君たちになんの関係がある。ここに来た理由と、淀んだ君たちの目は」

2017-10-31 09:18:18
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「天龍ちゃんは、特務隊の主力だったわ。海を駆ける姿、深海戦艦を屠る姿、全てを斬りふせる姿はまさに天を駆ける龍の様だったわ。でも、私たちは洗脳が解け、天龍ちゃんに至ってはPTSDに陥るほどのストレスを感じてしまったわ。それを知った大本営は私たちを先頭から遠ざけるためにここへ。」

2017-10-31 09:22:03
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「話を聞く限りだと、君たちは戦闘をさせずに治療に専念させて欲しいということか。」 「端的に言えば、そういうことね。特に天龍ちゃんは…特務装備を与えられるほど、体に消えない刻印を刻まれるほど、大本営から重宝されていた戦力だから、任務はとても過酷なものだったのでしょうね。」

2017-10-31 09:32:32
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「事情は分かった。俺からも出来る限りのことはしよう。だが大本営のことだ。事情を知らない程で動いたとして、出撃に偏りが出では怪しまれるだろう。基本的には遠征任務と、駆逐艦の世話をしてもらうことになるかもしれんがそれでもいいか。」

2017-10-31 09:35:15
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「えぇ、話のわかる提督でよかったわ〜。」 龍田の口調が戻った。どうやら心配ごとが消えた様だ。先程までの刺す様な視線が嘘の様だ。 「では、俺が管轄する鎮守府の案内に向かうとしよう。電には食堂で落ち合うことになってるんでな。」

2017-10-31 09:42:11
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簡単に鎮守府の間取り、宿舎の部屋割りの説明を行った後、俺と龍田は電たちと合流した。 天龍の様子を見る限り、今のところ症状は出ていない様だがなるべく気にかけておくべきだろう。 昼食を五人で取った後、新規着任した三人は自由行動とした。

2017-10-31 09:45:56
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「あの天龍さん、色々と抱えているものが多いようです。」 電は案内をしている間に色々と聞いていた様だ。俺は電に、代理命令を出す際の注意を伝えておいた。 PTSDというものがいまいちよくわかっていないがカウンセラーの手配をしておいたほうがいいだろう。

2017-10-31 09:50:53
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「おにいさん♪」 聞き覚えのある、明るく元気な声が聞こえる。 振り向くと太陽の様な笑顔で見つめる少女がいた。 「しおいか、荷物は片付いたのか?」 「うん、向こうで色々片付けたからね!」 例の並木道で出会ってから、この調子で接している。

2017-10-31 10:00:06
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この子も天龍たちと同じ生い立ちで、軍属になってしまったのかと、そう思う様になってしまった。 「どしたの?おにいさん。」 そんな悩みをよそに彼女は俺に接してくる。 「ここではおにいさんって呼ぶなよな…」 なんだかんだで付き合うことになってしまったが、まあなんとかなるだろう。

2017-10-31 10:02:46
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「おっ、てーとくじゃん」 軽いノリで声を掛けてくる、横須賀第五司令部一のお調子者がやって来た。 「鈴谷か、ちょうどよかった。」 「今日着任した伊401です。」 「あー、そういえば今日着任だっけ?」 「そしてこの人が私の彼氏です♪」 またややこしくすることを言ってのけるなこの子は

2017-10-31 10:07:40
たこいちろう@天然記念物 @_TKKC_

「…てーとく、後でじっっっくり話聞かせてもらおうか〜〜〜???」 ああ、鈴谷が珍しく怒ってる。これはまずい状況だ。 「えっ?なんか変なこと言った?私?」 あたふたしているしおいに目を付けた鈴谷は抱える様にしおいを回収していった。 「しおいちゃ〜〜〜ん?鈴谷と親睦を深めようか〜〜」

2017-10-31 10:10:38
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「えっ?えっ?どゆこと?おにいさーん!」 まるで嵐が過ぎ去ったかの様に二人のお調子者が去っていった。あの二人なら大丈夫だろう。 「提督、ちょっといいか」 背後からナイフの様な鋭い声が聞こえた。 振り向くと天龍がじっと見つめている。

2017-10-31 10:12:39
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