競争的研究資金の偏重は国を滅ぼす

ある画期的な研究成果が、ノーベル賞級の発明が、外国特許を維持する費用が賄えず、破棄する事態となっている。現場に立ち会った人間として、この問題を掘り下げ、改善の糸口としていただきたく、筆を執った。
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shinshinohara @ShinShinohara

私も研究に携わったある画期的な技術について、外国特許を軒並み手放すことになりそうな事態が発生している。この発明をした研究者は将来ノーベル賞を受賞する可能性も高いと考えている。研究機関の幹部もその重要性を認識している。なのに外国特許を手放さねばならぬ事態に陥っているのだ。

2017-11-03 06:31:46
shinshinohara @ShinShinohara

その事情とはこうだ。その研究機関の内部ルールでは、「出願して2年以内に相当の実施許諾料を支払う企業が見つからなければその外国特許を破棄する」となっている。特許を維持する資金が不足しており、維持に多額の金がかかる海外特許を減らさざるを得ない急迫した懐事情のためだ。

2017-11-03 06:35:18
shinshinohara @ShinShinohara

しかしその発明はさすがにノーベル賞級の技術だけあって、多数の企業が共同研究を申し込んできた。特に意欲の高い企業複数を選び、コンソーシアム方式で開発を進める予定だった。実施許諾も問題なく得られる予定であった。しかしここから齟齬が生じる。

2017-11-03 06:37:16
shinshinohara @ShinShinohara

研究機関幹部が「これほどの大発明なら大企業に開発してもらった方がよい」と営業を開始、反応を示した大企業を連れてきて「以後はここと交渉するように」と言い渡され、それまでに交渉を続けてきた中堅企業との交渉を中断せざるを得なくなった。これで実施許諾料をそれらの企業から得られなくなった。

2017-11-03 06:40:03
shinshinohara @ShinShinohara

ところがその大企業は「声をかけられたから一度お話は伺いましょう」という後ろ向きの姿勢だった。案の定、「今回はなかったことに」という話になった。既存技術と混同して、その革新性が見抜けなかったのだ。まあ、そんなすごい技術が生まれるような研究機関と信じてもらえなかったのだろう。

2017-11-03 06:43:22
shinshinohara @ShinShinohara

これにて、強い興味を持っていた複数の企業も離れ、実施許諾契約を成立させるための時間を空費した。研究機関幹部が大企業を連れてきたのも画期的な技術だと思えばこそだったのだが、結果的に2年以内に応分の実施許諾料をとれなければ外国特許を手放す、というルールが容赦なく適用されることに。

2017-11-03 06:48:03
shinshinohara @ShinShinohara

発明者はすっかりうなだれていた。日本のためになると信じて開発し、外国特許も出願したのに、しかも指示に従って大企業に交渉を絞ったから2年以内の実施許諾ができなくなったという、発明者には何の責任もない状況だったのに、外国特許をすべてルール通り破棄する事態に陥ってしまった。

2017-11-03 06:50:22
shinshinohara @ShinShinohara

そもそもの問題は「金がない」ことが原因だ。国は公的研究機関の交付金を絞り、高額の維持費がかかる外国特許を、とても維持し続けることができなくなったのだ。そこで無茶を承知で、比較的費用発生の少ない「出願から2年以内に」金を払ってくれる企業が見つかれば、という厳しいルールにしたのだ。

2017-11-03 06:53:05
shinshinohara @ShinShinohara

研究機関幹部もよかれと思って大企業の話を持ってきたのであって、悪気はない。しかし結果的に、「2年以内に実施許諾料を取れなければ破棄」という厳しすぎるルールを克服することができない状況に陥ってしまった。ノーベル賞級の技術だが、国内特許だけが維持されるという珍妙な事態となりそうだ。

2017-11-03 06:55:47
shinshinohara @ShinShinohara

ノーベル賞級の技術でも外国特許を維持できないという事態になったのは、既述のように「金がない」のが原因なのだが、それにはもう少し説明が必要だ。実は金がないわけではない。しかし特許の維持費用に回すことが許されない仕組みがあるためだ。その原因は、競争的資金にある。

2017-11-03 06:59:06
shinshinohara @ShinShinohara

togetter.com/li/1095784 でも指摘したことだが、実は研究費全体は減るどころか増えている。ならば特許の維持費くらい賄えそうだがそうはいかないのは、「交付金が減らされて競争的資金ばかりになっている」ことが原因なのだ。

2017-11-03 07:00:50
shinshinohara @ShinShinohara

交付金は比較的、研究機関が好きに配分を決められるお金なので、これが潤沢なら外国特許の維持費用も簡単に賄える。しかし交付金が減らされ、競争的資金が増えるとそうはいかない。競争的資金は、「研究にしか使えない」と、目的を限定したお金だからだ。無論、特許の維持費に回すことはできない。

2017-11-03 07:03:16
shinshinohara @ShinShinohara

競争的資金は、最大3割を間接経費(研究設備を維持するための事務費や電気代など)として回せるようにはなっている。しかしその大半は研究以外の目的に使用してはいけない。この考え方自体は間違っていないが、研究成果である特許の維持費のことが全く考慮されていない制度設計なのだ。

2017-11-03 07:06:09
shinshinohara @ShinShinohara

競争的資金の3割相当では、事務員の人件費や設備の維持費を賄うにも不十分。交付金はどんどん減らされているから、特許の維持費に回すお金が全くない状況になっているのだ。研究成果として得られた外国特許を維持するお金がないというパロディー状態になっている。

2017-11-03 07:08:56
shinshinohara @ShinShinohara

競争的資金は、「こんな画期的な研究をするからお金を下さい!」と手を上げて要望して初めてもらえるもの。採択率は、その研究機関だと3割程度というから、なかなか厳しい。かつ、もらえたお金の3割しか研究以外の目的で使えないから、特許の維持費はどこからも出せないというわけ。

2017-11-03 07:11:42
shinshinohara @ShinShinohara

もうひとつ原因を指摘すると、独法化が原因の一つ。国立大学、国立研究機関の時代は、「特許庁と同じ国営」であったため、特許料を支払う必要がなかったのだ。外国特許も維持費を免除されていた。だから好きなだけ外国特許を出願できた。

2017-11-03 07:13:43
shinshinohara @ShinShinohara

ところが大学や国立研究機関の独法化が進み、民間企業と同様、特許の維持費用をすべて賄わなければならなくなった。「公的」ではあるが民間扱いされた大学や公的研究機関は、事務員の数を減らすなどして特許の維持費用を工面しようと苦心してきたが、ついに限界が来たのだ。

2017-11-03 07:16:21
shinshinohara @ShinShinohara

現在、大学などの公的研究機関は、次々に外国特許を手放している。維持費用を捻出できないからだ。維持できるのは、比較的費用がかからない国内特許のみ。しかし少子高齢化で市場が縮小しつつある国内特許だけを維持しても仕方ない。

2017-11-03 07:18:52
shinshinohara @ShinShinohara

しかも、外国特許を手放して国内特許だけ維持するということは、日本の企業は特許料を支払わねばならないのに、外国企業は好きにその技術を実用化できるということなのだ。本末転倒の事態が起きている。日本の競争力を増そうとして始められた競争的研究資金の制度が、日本の研究力を削いでいるのだ。

2017-11-03 07:21:02
shinshinohara @ShinShinohara

私は、競争的資金と交付金の配分比率を緊急に見直すことが必要だと考える。交付金を増やせば、競争的資金で研究した成果を、特許として維持することも可能。競争的資金の有効性は否定しないので維持されるべきだが、競争的資金への偏重は、結果的に日本の研究開発力を削いでいる実態に気づくべきだ。

2017-11-03 07:24:05
shinshinohara @ShinShinohara

togetter.com/li/1095784 でも指摘したように、交付金と競争的資金の合計は、実は増えている。しかし競争的資金への偏重が行きすぎて、研究成果である外国特許の維持ができなくなるというのでは本末転倒だ。研究成果である特許を維持しうる制度設計を緊急に求めたい。

2017-11-03 07:27:01
shinshinohara @ShinShinohara

しかし、冒頭で述べたノーベル賞級の発明は、残念ながら外国特許をことごとく手放すことになるだろう。歴史に制裁されるのが嫌だから、私はその特許をなんとか維持できるように必死に粘った。研究機関幹部も必死になって動いてくれた。しかしルール改正をするだけの資金の目処が立たないのだ。

2017-11-03 07:29:11
shinshinohara @ShinShinohara

外国特許を手放せば、その画期的な製品を海外に輸出して日本が儲けられるようにしたくても、無理だ。外国企業は特許がないのをいいことに、好きなように模倣品を製造できるからだ。そして日本企業は、日本にあるからという理由で特許料を支払う。日本企業の競争力まで奪う事態。

2017-11-03 07:31:42
shinshinohara @ShinShinohara

競争的資金を増やすことで競争を促し、画期的な成果を出させようとしたら、成果である特許も維持できず、日本企業の競争力も損なうという皮肉な結果。これは制度設計に大きな問題があるからだ。ぜひとも早急に見直しを始めて頂きたい。

2017-11-03 07:33:39
shinshinohara @ShinShinohara

ノーベル賞級のこの技術は、外国特許をすべて破棄することに恐らくなる。もはやそれは仕方ない。だがせめて、この経験を活かして、制度設計の見直しにつながるのであれば、少し救いがある。将来、ノーベル賞授賞式にその発明者が出たとき、私は観客席で気持ちよく拍手を送りたい。そう思っている。

2017-11-03 07:36:18