犬シリーズ〜すれ違い編〜【ダメ犬の場合】

ぺちか @pechika_udon

#犬シリーズ 〜すれ違い編〜 【ダメ犬の場合】 1 『ちか！今日はバイト何時まで？』 いつものようにちかのバイト先に押しかけて、この後の予定を聞く。 「あのな、いつも言うてるけど大倉くんに付き合う気はないの」

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2 最初の頃に比べれば、いくらかくだけた話し方をするようになった(無理やりそうさせた、とも言う)ちかはでっかい溜息を吐いた。 『ええやん。なぁ、バイト終わったらメシ行こうや』 「行きません」 『なんでぇ？』 #犬シリーズ

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3 「...こんなおばちゃん相手にせぇへんでも、大倉くんの周りには若くて可愛ええ子いっぱいおるやろ」 俺より年上なことを気にして、ちかはいつもそう言う。 『いつも言うてるやろ？俺はちかがええの』 「...もう仕事戻りなよ」 ちかはちょっと辛そうに笑った。 #犬シリーズ

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4 『大倉、またあの子んとこ行っとったん？』 結局今日もちかとご飯に行く約束はできずに、俺は楽屋に戻った。 ちかの言葉にちょっとイラついてた俺は、何の気なしにそう言うたまるちゃんを睨みつけた。 『やったら、何？』 『別に？ただ珍しいなぁて思うて』 『珍しい？』 #犬シリーズ

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5 『うん。いつもの大倉やったらそこまで女の子に執着せんやん？やから』 言われてみればそうかも。 いつもの俺やったら、ちかのようなタイプはあんまり相手にせんし、ここまで一人の女を追いかけることなんかない。 『ほんまに好きなんやね』 まるちゃんはにっこり笑ってそう言った。 #犬シリーズ

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6 翌日、俺はまたちかの店に顔を出した。 夕方のこの時間はそんなに客もおらんし、ゆっくりできるやろ。 『ちか！』 「いらっしゃい。今日は食べて行くん？」 『おん。肉増しな』 「はいはい」 そう返事をして、ちかはキッチンへ入っていった。 #犬シリーズ

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7 俺はいつものようにラーメンができあがるまで、ちかの様子を見る。 手際よくラーメンを作るちかは真剣な表情で。 ...好きやなぁ。やっぱり。 まるちゃんの言うたことを思い出しながら、そんなふうに思う。 俺の中でちかは特別な存在なんやろな、うん。 #犬シリーズ

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8 「肉増しお待たせしました」 『おん。...て、あれ？』 ちかが持ってきてくれたラーメンの上には味玉が一個。 『サービス、してくれんの？』 「...使い切りたい味玉があったから」 『んふ、ありがと』 #犬シリーズ

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9 ちかは恥ずかしいのか、ぶっきらぼうな言い方をする。 なんやかんや言うけど、やっぱりちかは優しい。 他にもお客さんが来たから、ちかはそっちの接客に行った。 俺はちかがサービスしてくれた味玉を食べながら、今日こそは連絡先教えてもらおう、なんて考えとった。 #犬シリーズ

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10 後から来た客も帰って、また店の中には俺とちかのふたり。 『なぁ、ちか』 「なぁに？」 『連絡先教えてぇや』 「なんで？」 『なんで、て...』 そんなん好きやからに決まってるやん。 いつも言うてるやろ？ じっと顔を見つめれば、ちかは小さく息を吐いた。 #犬シリーズ

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11 『好きやから』 「...やから、私なんかのどこがええの？大倉くんよりも年上やし、美人でも可愛くもないし、その辺の普通のおばちゃんやん」 『そんなことない！』 突然の大声にちかはびっくりして目を丸くした。 #犬シリーズ

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12 『年齢とか関係ない！俺はちかがええの！ちかやなかったらこんなふうに通って口説いたりせぇへん！』 「大倉くん...」 『なぁ、お願いやからそんなこと言わんとって？俺はほんまにちかが好きやのに』 俺はちかの顔を覗き込むようにして言う。 #犬シリーズ

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13 ちかの目が潤んでるように見えたんは気のせいとちゃうはず。 俺はそっとちかを抱き締めた。 『もうちょっと俺の言うこと信用してよ。俺、ほんまにちかのこと好きやから』 「大倉くん...ごめん」 『謝らんくてええよ』 そのかわり、と俺はにっこり笑った。 #犬シリーズ

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14 休みの午後、俺は駅に向けて坂道を歩く。 人混みの中にちかの姿を見つけて嬉しくなって駆け寄った。 俺の姿に気付いたちかはきょろきょろと周りを見回してる。 いつもとは違うナチュラルやけどちゃんと化粧をしたちか顔は想像以上に可愛くて。 『ちか！お待たせ』 #犬シリーズ

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15 「あ、あんまり大きな声出したら見つかるで？」 『だーいじょーぶやって！こそこそしとる方が変に思われるやろ？』 「せやけど...」 『ほら、行こ！』 俺はちかの手を取って歩き出した。 向かったのは誰もが知ってる夢の国。 「うわぁ...！」 #犬シリーズ

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16 目ぇきらっきらさせて喜ぶちかは子どもっぽくて可愛い。 「早う行こ！」 『あ、待ってぇや！』 「ん？」 『ほら、これ』 夢の国デートと言えば定番なキャラクターものの耳を付けて、手を繋いで歩く。 ちかは少し恥ずかしそうにしながら、でもその手を解こうとはせんかった。 #犬シリーズ

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17 それから、ちかの好きだという絶叫系に乗りまくった。 ...俺的にはそこまで絶叫系に乗りたかったわけやないんやけど。 「あー、楽しかった！ありがとうな。連れてきてくれて」 『いや、俺も楽しかったし。こっちこそありがとう』 #犬シリーズ

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18 ほとんど乗客のおらん電車。 ガタゴトと心地よい揺れに瞼が落ちてくる。 「...眠いん？」 『んー...』 「寝てもえぇよ。着いたら起こすし」 『...ん』 ちかはよしよし、と俺の頭を撫でてくれた。 その手が気持ちよくて、俺は心地いい眠気に身を任せた。 #犬シリーズ

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19 駅に着いたら、約束通り起こしてくれたちか。 ほんまはまだ寝てたかったけど、降りなあかんし仕方なく起き上がった。 『んー...！』 「よぉ寝てたね」 『うん。まぁ、ちょっと年甲斐もなくはしゃぎすぎたかなw』 「それ私の前で言う？」 #犬シリーズ

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20 くすくすと笑うちかの手を取って夜道を歩き出す。 「あ、あの...大倉くん！？」 『楽しかったなぁ、今日』 「あ、うん」 『俺なぁ、もっとちかと一緒におりたいねん』 「...うん」 『ちか』 足を止めて、ちかの顔を正面から見つめる。 #犬シリーズ

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21 『俺はちかのことが好きや。ちかとずっと一緒におりたい』 「...でも、私は...」 『年上やから、とか言わんといてや？それも全部ひっくるめて俺の好きなちかやから』 「大倉くん...」 『...俺のこと嫌いやったら』 「嫌いなわけない！」 ちかは俺の言葉を遮った。 #犬シリーズ

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22 その目には涙が浮かんでて。 「でも、大倉くんはアイドルで...私なんか一緒におれるような存在とちゃうやんか。やから...」 『そんなん関係ないやろ』 「関係あんの！...今は気にせんでもいつか私のことが重荷になる日が絶対来る。それやったら今のままでおる方がええの」 #犬シリーズ

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23 ちかの目からぽろり、と涙が落ちた。 「...もう店にも来んといて」 そう言い残して、ちかは走り去って行ってしもた。 #犬シリーズ

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24 『何落ち込んでんの？』 『...放っといて』 楽屋でソファにうつ伏せになってたら、まるちゃんがやってきた。 でも今はまるちゃんとも話す気すら起きひんで、ぶっきらぼうにそう言うけどまるちゃんはそんな俺の態度は気にもせんと椅子を持ってきて隣に座った。 #犬シリーズ

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25 『大倉はさ、あの子のことどうしたいん？』 『...どうって、』 『やから、あの子とどうなりたいん？』 『...付き合いたい。ていうか、俺んこと好きになってほしい』 『そっか』 たぬき顔で笑ってまるちゃんはぽんぽん、と俺の頭を撫でた。 #犬シリーズ