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ハイイロネズミの薪拾い

自分向け夢日記。夜明け前の森の深い青と、松明のオレンジ色、焚き火の明るさが鮮烈な印象だった。
夢日記 日記
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にゅい @lanuit2012
ひとつめの夢。私は山中に住むハイイロネズミという種族だった。朝早くから薪を拾っては山を下り、人間にそれを売って、得た銭で必要なものを買い求めて山に戻る、という生活を繰り返していた。薪拾いは観察力と根気の仕事。ちまちまして、代わり映えしない、この地味な仕事は私に向いていた。
にゅい @lanuit2012
その日は虎の刻(朝3時ごろ)に目が覚めたので、私は身支度(毛づくろいだろうか)をして、空っぽの風呂敷を担いで山に入った。昨夜吹いた大風のせいか、その日はなかなか拾えず、どうにか片手いっぱいの小枝を一刻(2時間)もかけて拾ったところだった。このままでは埒が明かないな、と思った。
にゅい @lanuit2012
ところで、この日の私は薪以外に貴重な収獲をひとつ得ていた。これも昨夜の大風のおかげなのか、綺麗な簪がひとつ、私の棲み処から丸太の橋を渡って少しの所に落ちているのを見つけたのだ。これは大層高価な品で、人間でさえ村なら庄屋の娘でもない限りは、生涯手に入れることが叶わないようなものだ。
にゅい @lanuit2012
私はこれを売って稼ぎの足しにしても良かったのだけれど、ネズミには価値のいまいち分からない簪の売り買いの交渉をするのも、なんだか気が引けた。相応の対価を払ってくれれば良いが、ネズミに価値は分かるまいと買い叩かれる恐れのほうが強かった。それなら、これは友達にあげようと考えていた。
にゅい @lanuit2012
その友達というのも風変りな子で、人間が身に着ける装飾品がことのほか好きで、古ぼけた帯飾りやなんかが、彼女の棲み処にはたくさん集められていた。簪にしたって毛の短いネズミには挿す場所なんか無いだろうに、彼女が喜ぶであろうことは分かっていたから、これは売らないでおこう、と思った。
にゅい @lanuit2012
さて、簪を売らないなら私はもっと薪を拾わなくてはいけない。しかし山の生き物は縄張りにうるさい。ハイイロネズミは温厚だから「まあまあ」で済むが、他の種族の縄張りとなると話は別。見つかったら揉めるのは目に見えている。しかしこの日、私はずいぶん早起きしていたから大丈夫だろう、と思った。
にゅい @lanuit2012
普段なら近づきもしない谷りまで下りてくると、山の薪が全部吹き飛ばされて、水が溜まるように谷に集まっているのが見えた。私は喜んで拾い始めた。薪拾いなんてのは細々とした商いで、三貫目(10kgくらい)も拾わないと、日々の足しにならない。私は風呂敷いっぱいになるまで拾い続けた。
にゅい @lanuit2012
風呂敷がいっぱいになったところで、私はうっかり簪を取り落としてしまった。風呂敷の薪がこぼれないよう、そうっと拾おうとしていると、間の悪いことに向こうから松明の灯りがこちらへ近づいてくるのが見えてきた。しまった、と私は思った。
にゅい @lanuit2012
火を怖れずに使うのはチャイロネズミの一族だ。陰湿で知られるこの一族と揉めれば、私が文句を言われるのはもちろん、ハイイロネズミの長老にまで、ねちねちと文句をつけられかねない。そうすれば私が縄張りを破ったことがばれてしまう。私はいったん、けもの道の脇の藪に隠れた。
にゅい @lanuit2012
近づいてくるのはどうやら、父と子ネズミの親子連れのようで、目的は私と同じ薪拾いのようだった。私は親子が簪に気がつかないことを期待したのだけど、松明を煌々と炊いている父ネズミの目に留まらないはずがない。彼は、おや、という風に簪を見下ろして、手を伸ばそうとした。
にゅい @lanuit2012
最初に拾ったのが私であろうと、落ちていれば手を付けた者の所有物、というのが山のしきたりだ。私は慌てて風呂敷を置いて飛び出し、簪を拾って、風呂敷を担いで逃げようとした。しかし毛色は見られてだろうから、これは揉め事は覚悟しないとな、とも思っていた。
にゅい @lanuit2012
意外にも、父ネズミは私を咎めるでも、簪を奪おうとするでもなく、やんわりと「まあ待ちなさい」と制止した。完全に姿を見られてしまった以上、私は大人しく立ち止まった。「その簪はあんたのかい」「はい」「あんた谷の者じゃないね、山の者かい」私はしょぼくれて答えた。「そうです、すみません」
にゅい @lanuit2012
「いや、謝ることはないんだ。それより、さっき随分と魚が釣れた。丁度ひと休みしようと思っていたところだ。あんたもどうかね。」父ネズミは、チャイロネズミにしては随分と穏やかで気のいいネズミのようだった。彼はそこらじゅうに転がっている薪を集めると、手早く火を起こし始めた。
にゅい @lanuit2012
そうして、魚籠から取り出した魚を枝に刺して、焚き火であぶり始める。せっかくの新鮮な魚をわざわざ焼いて食べたりするのも、チャイロネズミならではの文化だった。そういう私の思いが露骨に表情に出ていたのか、父ネズミは私を見て笑った。「これはこれで美味いんだよ、まあ食べてみなさい」
にゅい @lanuit2012
人間に照らし合わせて言えば、これはせっかくの握りたてのお寿司をトースターに入れて焼いてから食べるようなもので、私にしてみれば全く理解しがたいことだったのだけど、食べてみると生の魚とはまるで違って、とても香ばしくて美味しかった。食事の後、私はお礼を言って村まで下りていった。
にゅい @lanuit2012
そこで次の夢に変わったのだけど、ぼんやりと、その親子とはその後も付き合いが続いたように思う。次の夢は、起きた直後は鮮烈な印象を放っていたけど、物語の内容としてはどうということもなかったと思うので、割愛しよう。ただ、かさね色目の美しい着物を夢の中で着られたのでは、それは嬉しかった。

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