ZK #1

俺達は瑞雲法被を来て欧州へ行った日向師匠のことを忘れてはいけない 2:https://togetter.com/li/1175506
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2017-11-24 21:01:03
劉度 @arther456

午前3時、イギリス東海岸沖。「ミサイル発射!」「発射ァ!」オランダ海軍最後のフリゲート艦、デ・ロイテルから、対艦ミサイルが放たれた。「命中、命中!」「イギリス艦隊は!」「動きません!」艦長は闇夜に浮かぶイギリス島を睨み付けた。「俺達を見殺しにするつもりか、ジョンブル野郎が!」1

2017-11-24 21:03:01
劉度 @arther456

艦長は舌打ちして戦場に向き直った。攻撃を受けた敵の大軍勢が、こちらに向かってくる。とても相手にできる数ではない。「後退するぞ!回頭、始め!」「アイアイサー!回頭始めぇー!」夜の嵐の中、オランダ最後のフリゲートは、数え切れない敗走をまた1つ増やすこととなった。2

2017-11-24 21:06:02
劉度 @arther456

オランダ南部、ミデルブルフ。日本から来た極秘大使、龍堂賢治は、この街にある公民館にやってきていた。対面に座るのは、品の良さそうな金髪の女性。一見すればオランダ人だが、実は深海棲艦である。日本では港湾夏姫と呼ばれる彼女は、このオランダに住む深海棲艦たちのまとめ役だ。3

2017-11-24 21:09:02
劉度 @arther456

深海棲艦が隠れ潜む都市は、南イタリア深海共和国だけではない。シカゴ、香港、リオデジャネイロなど、人口の多い都市のいくつかには、深海棲艦が紛れ込めるだけの余地があった。中でもオランダは埋立地なので、海の中に住む深海棲艦にとっては、人気の土地だった。4

2017-11-24 21:12:00
劉度 @arther456

「人類と深海棲艦の停戦、ねえ」賢治の話を聞き終えた港湾夏姫は、興味深げに呟いた。「イタリアの将軍さんが人間を連れてくるって言ってきた時はびっくりしたけど、そんな話になっていたのね」「ええ。そのためにはまず、互いを知るために、こうして話せる場が必要だと思ったのです」5

2017-11-24 21:15:03
劉度 @arther456

人類と深海棲艦の間には深い断絶がある。海の奪い合いから始まった殺し合いは、ただただ憎しみを煽り合うものだった。人間は深海棲艦を話の通じない怪物と決めてかかり、生物としての研究じゃロクにしていない。だから、対話を始めるためには、まず相手のことを知る必要があった。6

2017-11-24 21:18:00
劉度 @arther456

「すぐに何かをしていただきたい、という訳ではありません。お互いのことを知るために、簡単に話ができる環境を整えたいのです」各地で隠れて暮らす深海棲艦たちとのホットラインの建設。それが賢治の、ひいては外務省が考える深海棲艦との停戦の第一歩だった。7

2017-11-24 21:21:01
劉度 @arther456

「その情熱は微笑ましいけれども」港湾夏姫は呆れた笑みを浮かべた。「私たちは長い間、ずっと殺し合いをしてきたのだし、命としての仕組みも違いすぎるわ。もう手遅れだし、そもそも話し合う必要なんて無いんじゃないの?」「必要はあります」「えっ?」港湾夏姫は目を軽く見開いた。8

2017-11-24 21:24:00
劉度 @arther456

「10年の戦いで地球から失われた資源、人材、文化は計り知れません。このままでは、どちらかが絶滅する前に共倒れになります。生き残る為には、戦争を中断するしかありません」深海棲艦ともわかりあえるという浪漫だけでは、政治は動かない。この停戦交渉は、打算も含まれていた。9

2017-11-24 21:27:00
劉度 @arther456

「……それは人間の都合でしょう?深海棲艦全員が、停戦なんてしないで、死ぬまで戦うって言ったらおしまいじゃない」港湾夏姫はグラスの水を飲む。「それは、ありえませんね」「どうして?」「少なくともあなたは、こうして私と話してくれていますから」10

2017-11-24 21:30:06
劉度 @arther456

港湾夏姫はゆっくりとグラスを置いた。「……すぐに答えは出しませんよ?」「十分です。ありがとうございます。それで、次の案件なのですが」「それは私が言おう」賢治の隣にいた日向が立ち上がり、足元の箱をテーブルの上に置いた。「瑞雲セットを持ってきた。使ってくれ」11

2017-11-24 21:33:01
劉度 @arther456

「……は?」「これは瑞雲法被。シンプルなデザインで、普段着にもできる。それとこれは瑞雲のお面。日本のヒーロー瑞雲仮面がモチーフだ」日向は箱の中から法被と仮面を取り出した。「えっ、何それ」「瑞雲。航空戦艦とともに海戦を新たなステージに押し上げる、日本の傑作水上爆撃機だ」12

2017-11-24 21:36:02
劉度 @arther456

「なんでそれを私に……?」「いや、ヨーロッパには瑞雲が無いと聞いてな。居ても立ってもいられなくなって、布教用に持ってきたんだ。特別な瑞雲もつけるから、ヲランダ人のみんなで使ってくれ」「は、はあ……」法被と仮面と艤装を渡され、港湾夏姫はただただ困惑するしかなかった。13

2017-11-24 21:39:00
劉度 @arther456

熱が体の中を駆け巡る。自分を戦いに駆り立てようとする熱が。そういう時、装甲空母姫は服を着替える。自分を着飾るものと一緒に、気持ちを切り替える。今日はミデルブルフで買ったシンプルな袖なしトップスに、鮮やかな花柄のスカートを合わせてみた。「うーん」どうにも、決まらない。15

2017-11-24 21:42:01
劉度 @arther456

提督の下に亡命する前は、自分にこんな衝動があるなんて気付かなかった。そして、イタリアの深海棲艦たちと話してみると、ほとんどが彼女と同じような衝動を抱えていて、それを色々な趣味で抑え込みつつ生きていることがわかった。人類と戦う深海棲艦も、きっと同じ熱に浮かされている。16

2017-11-24 21:45:02
劉度 @arther456

つばの広い帽子にワンピース。Tシャツとジーンズ。どれもしっくり来ない。脱ぎ捨てた服が積み重なる。「なんだ、出かけるのか?」「ふおっ」後ろから声をかけられて、装甲空母姫は身を強張らせた。振り返ると、金髪の少女が居た。イタリアからついてきた、"皇帝"と呼ばれている少女だ。18

2017-11-24 21:48:01
劉度 @arther456

「勝手に入ってくるな」「よいではないか。鍵も開いていたのだし」皇帝は床の服をつまみ上げ、首を傾げ、また別の服を持つ。「ふーむ」「なんだ」「これと、これと、これ」いくつかの服が、装甲空母姫に押し付けられる。「やってみよ」「何を」「いいから着てみよ。余のコーデ、受けてみるがよい」19

2017-11-24 21:51:02
劉度 @arther456

数分後。「ふふん、ピッタリだな!」胸元の空いたノースリーブと、ショートデニム。ややシンプルに収まるところを、サングラスやバッグ、腕輪などのアクセサリで飾り付け仕上げた、挑戦的なコーディネイトだ。装甲空母姫は悪くないと思ったが、ひとつ気になるところがあった。20

2017-11-24 21:54:03
劉度 @arther456

「露出が多くないか」肩、胸元、腰、太ももから下。かなり色々なところを見せているのが不安だ。しかし皇帝は首を横に振った。「それが良くない。そなたは顔もセンスも中々だが、それを活かしていない!自分に自信がないから隠れようとしているだけだ!」「しかし、人間は裸を隠すものだろう?」21

2017-11-24 21:57:00
劉度 @arther456

「それはそうだが、しかし、ファッションとは、自分を引き立たせるものである!見せるところは見せ、自信のないところは補う!でなければ、いくら着ても裸と変わらないぞ?」「そう……なのか……?」そんなことは考えたことも無かった。「そうだ!自分に自信を持て!もったいないぞ!」22

2017-11-24 22:00:14
劉度 @arther456

その時、不快なサイレンの音が外から聞こえてきた。「……なんだ?」窓の外を見れば、道を歩いていた人々が、慌てて家に帰っていく。嫌な予感がした装甲空母姫は、海を見た。水平線が黒い。目を剥くほどの数の深海棲艦が、オランダの海に陣取っていた。23

2017-11-24 22:03:00