犬シリーズ〜すれ違い編〜【駄犬の場合】

ぺちか @pechika_udon

#犬シリーズ〜すれ違い編〜 【駄犬の場合】 1 最近、番宣やら何やらでものすごく忙しくさせてもらってる僕。 それは嬉しいことなんやけど、よっちゃんとゆっくりする時間がないんはやっぱりめっちゃ寂しい。 ...よっちゃんはそんなことないんやろうか？

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2 久しぶりに早く帰れた今日。 僕はよっちゃんに家で待っててもらうようにLINEして、うきうきと帰路に着いた。 『ただいまー！』 ちょっと勢いよく玄関のドアを開けて、中にいるよっちゃんに声をかける。 ...でも、無反応で。 #犬シリーズ

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3 そりゃ、いつもお出迎えしてくれるわけとちゃうけど、久しぶりなんやから今日ぐらいは...。 内心がっかりしながら、リビングへと足を進める。 靴はあったからよっちゃんが来てくれてるんは間違いないし。 『よっちゃーん？まるちゃんが帰ってきましたよー？』 #犬シリーズ

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4 もし寝てたりしたら悪いと思って、できるだけ静かに中に入った。 よっちゃんはソファに座って何かを真剣に見てる。 ...何やろ？ 僕はそっと後ろからそれを覗き込んだ。 『...あ...！』 そこに書かれてある内容を見て、思わず声が出た。 #犬シリーズ

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5 「ん？あ、まるちゃん帰ってたの？おかえり」 『あー...うん、ただいま...』 「どしたの？何か元気ない？」 『や！何でもない！』 ぶんぶん、と両手と首を振って答える。 「そう？ならいいけど。ご飯食べるでしょ？」 #犬シリーズ

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6 そう言って、よっちゃんは読んでたパンフレットをテーブルに置いてキッチンに消えていった。 僕はそおっとそれを手に取る。 それは大学のパンフで。 そう言えば、よっちゃんもそろそろ進路決めなあかん時期やな、なんてぼんやりと考える。 #犬シリーズ

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7 ...それはええねん。 よっちゃんがやりたいことがあって、その為に先のことを考えてるんは。 ええ、どころかちゃんとしてるんやなぁ、て感心もした。 でも！ そことちゃうねん！ 問題なんは、この大学の場所！ よっちゃんが見てたんは地方の大学で。 それも結構離れた場所。 #犬シリーズ

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8 ...遠距離？ 僕ら遠距離になるん？ よっちゃんと離れ離れになるん？ ...それは絶対嫌や！ よっちゃんと離れるなんて考えられんもん！ その日のご飯は何の味もせぇへんかった。 #犬シリーズ

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9 『まる、どないしてん？顔おかしいで』 『亮ちゃん...』 楽屋でぼんやりと昨日のことを考えとったら、亮ちゃんが声をかけてきた。 ...てか、『顔がおかしい』てどういうこと？ 『疲れてんのか？』 ぶっきらぼうな言い方やけど、亮ちゃんなりに心配してくれてるんはわかってる。 #犬シリーズ

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10 やから、僕はへらりと笑った。 『んー、最近忙しかったからかな？でも大丈夫やで！』 『...それならええけど。無理すんなよ』 そういう亮ちゃんやって、もうちょっとしたら映画の番宣で忙しくなるやろうに。 #犬シリーズ

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11 僕の心配までしてくれるやなんて優しい子ぉやなぁ。 でも、こんなことで悩んでるなんて恥ずかしいて言えんよ。 10歳以上も離れた彼女の進路で悩んでるやなんて...。 #犬シリーズ

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12 「まるちゃん、忙しい？」 よっちゃんからのLINE。 ほんまはそこまで忙しくはないんやけど、なんかうまく話せる自信がなくて『ごめん』とだけ返信した。 それから僕はあからさまによっちゃんを避けた。 ...やって、今よっちゃんの顔見たら大人気ないこと言いそうなんやもん。 #犬シリーズ

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13 『行かんといて』とか...。 よっちゃんのやりたいことはもちろん応援したいし、応援するつもりや。 やけど、やっぱりよっちゃんと離れるんも嫌。 これってただの我侭？ 『会いたい』けど『会えない』 それが今の僕の気持ち。 #犬シリーズ

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14 そんな日が暫く続いて。 めっちゃ久しぶりのオフ。 いつもやったらよっちゃんに連絡して、遊んだり一緒にごろごろしたりするのに、もちろんそんなことはできんくて。 ...はぁ、情けないなぁ。 あかん！家でごろごろしてるからこんなマイナス思考になんねん！ ちょっと散歩でも行こ！ #犬シリーズ

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15 近くの河川敷を一人でふらふら散歩する。 賑やかな子どもの声に、仲良さげに歩く老夫婦。楽しそうに僕の横をすり抜けていく学生たち。 どれもこれも今の僕にとってはよっちゃんを思い出すものでしかなくて。 ふと空を見上げれば大きな鯨雲。 ...会いたいなぁ。 #犬シリーズ

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16 あの鯨雲がよっちゃんを連れてきてくれんかなぁ。 ...なんて、乙女のようなことを考える。 「まるちゃん！」 そうそう。こんな声で僕のこと呼ぶねん。 「まるちゃんってば！」 ちょっと怒ったような拗ねたような声も好きやなぁ。 #犬シリーズ

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17 「こら！まる！」 『ぐぇ！？』 ぐいっと服を引っ張られて足が止まる。 慌てて振り返ると、そこには息を切らしたよっちゃんがいて。 #犬シリーズ

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18 「もう！さっきから呼んでるのに...！」 『え？え？これ夢？僕たち、歩きながら夢見てんの！？』 「本物だ、ばか！」 『だ、だって...学校は？』 「今日は休み！まったく相変わらず曜日感覚ないんだから」 『ほ、本物...？』 「そう言ってるでしょ！この駄犬！」 『きゃいん！』 # 犬シリーズ

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19 ...本物のよっちゃんやぁ...！ 『よっちゃん！』 「ちょ...急に抱き着かないでよ！」 べし、と頭を叩かれたけど、そんなことは気にせずよっちゃんに力いっぱい抱き着いた。 #犬シリーズ

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20 「...ていうか、会えて物凄い嬉しそうにしてたけど、避けてたのはまるちゃんだよね？」 『う...、はい』 「私、何も悪くないよね？何で避けられなきゃいけないわけ？」 『あのぅ...それはですね...』 ソファに座るよっちゃんと床に正座する僕。 しどろもどろと避けてた理由を話す。 #犬シリーズ

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21 よっちゃんが遠くの大学に行っちゃうのがやだっていう子どもみたいな理由を。 話を最後まで聞いたよっちゃんは物凄く大きな溜息を吐いた。 ...やっぱり女々しい？ #犬シリーズ

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22 「まるちゃん」 『...はい』 「いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず一つだけ」 『...はい』 「誰が県外の大学行くって言った？」 『...は、え？』 「あれはただパンフ見てただけ。確かに進学のことは考えてるけど、今のとこ県外に行く予定はないんだけど」 #犬シリーズ

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23 『え...てことは...？』 「ただのまるちゃんの勘違い」 勘違い？僕の？ てことは、よっちゃんと離れ離れになるんは... 「今のところまるちゃんから離れる予定はないけど？それともまるちゃんは私から離れたいの？」 #犬シリーズ

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24 『嫌や！離とぉない！』 ぎゅっとよっちゃんの手を握る。 いい歳したおっさんが女子高生に振り回されるやなんて情けないけど、でも仕方ないやん。 僕の大事なものは結局この手の中にあるんやから。 #犬シリーズ

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25 『...まる、どないしてん？顔が気持ち悪いで』 ソファでスマホを弄ってたら、亮ちゃんにそんな風に言われた。 『気持ち悪い、て！亮ちゃん、口が悪い！』 『しゃあないやん。にやにやして気持ち悪いねんもん』 『え？僕そんなににやにやしてる！？』 #犬シリーズ