伊東光晴『ガルブレイス』まとめ

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H.Takano @midwhite

一般に産業内の企業数は、産業が生まれた直後に最大になり、その後は減少して一握りの大企業とそれを取り巻く一群の中小企業だけが残る。自動車など、多くの産業がこの経過を辿った。従って市場原理主義が前提とする多数の小規模企業からなる競争市場は現実的ではない。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-19 10:51:58
H.Takano @midwhite

アメリカ経済が世界の中心となった50年代、一世紀前には金持ちすら享受し得なかった豊かさを庶民が享受している。しかし経済学も経済を見る人々の考えも、貧しい時代のままではないか。これが『ゆたかな社会』を著した時期のガルブレイスの問題意識である。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-19 22:38:13
H.Takano @midwhite

ガルブレイスは「アメリカの貧困」についての本の執筆を依頼され、著した本を『ゆたかな社会』と題した。豊かな生活を享受していると思っている体臭や中産階級の人々の貧困を論じようというのである。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-19 22:39:57
H.Takano @midwhite

経済学の教科書は、消費者の欲望を与件とし、それぞれ独立した需要曲線と供給曲線との交点で価格が決まると言うが、それは貧しい社会での話である。現代では生産者が広告によって消費者の欲望を刺激し、需要曲線に影響を与える。ガルブレイスはこれを依存効果と呼んだ。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-20 01:51:24
H.Takano @midwhite

知性と理性を持ち自立した個人からなる市民社会は、西欧知識人の理想の中にあった。彼らは社会の進歩により市民社会へ近付くと考えたが、現実には大衆社会となった。社会的関心が享楽的なものに移り、マスコミに動かされ、感情で動き、人々は組織の歯車に組み込まれた。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-21 08:35:43
H.Takano @midwhite

生産の増大は人々の欲望を充足すると考えられたが、現実には次々に現れる新たな商品が人々の欲望を刺激し、欲望水準を上げていった。かつての窮乏とは空腹に代表される物質的窮乏であったが、「ゆたかな社会」における窮乏とは欲望が充足されない精神的窮乏である。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-21 08:39:21
H.Takano @midwhite

不況はケインズによって克服可能な病になった。一方で新たに生まれたのが「静かな物価上昇」である。ケインズ政策の定着によって生産水準が高まると、大企業による寡占市場において、労働組合の賃上げが要因で製品価格がじわじわと上昇する。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:08:44
H.Takano @midwhite

「ゆたかな社会」では、かつての貧困や不平等とは異なる、新しい不均衡が生まれた。それは人間が生活していく上で必要なもののうち、市場が提供するものと、市場以外が提供するものとの不均衡である。利潤を生むことのない政府提供の財やサービスには資金が回りにくい。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:13:01
H.Takano @midwhite

例えば私的財である乗用車の生産は容易に拡大するが、このことは道路の建設や環境問題への対処など、政府が対応すべき仕事を増やす一方で、政治的な合意が難しく提供が拡大しづらい。また生産の拡大は廃棄物処理の必要を、夫婦共働きは保育所の必要を増大させる。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:17:05
H.Takano @midwhite

私的分野が公共サービスの需要を増大させることの対策が売上税である。私的財の増加と比例して増える付加価値税によって、社会福祉をはじめ公共サービスを全ての人に普遍的に提供することで貧困をなくし、全ての人が安心して暮らせる社会を作るべきだ、と言うのである。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:22:19
H.Takano @midwhite

「ゆたかな社会」は、そこに生きる人々を原子化atomizationから私化privatizationの段階へ進める。その視野は私的なことに限定され、政治的なものに無関心で社会性が欠如する。自らの生活を侵すものとしての増税に反対し、保守化への道を歩んでいく。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:29:55
H.Takano @midwhite

1980年代以降の先進国に登場した市場優位の経済政策は、資本主義に不況という古い病を復活させ、所得と富の不平等を拡大した。「ゆたかな社会」が隅に追いやったはずの古き病は、こうして耐性菌を伴って復活したのである。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:33:54
H.Takano @midwhite

ガルブレイスは経済二分法をとる。一方は少数の大企業による寡占的な市場であり、他方は多数の小企業による市場である。これは製品の価格決定メカニズムの違いの背後にある経済構造による二分法であり、自由競争の社会という神話を実証によって打ち砕こうとする。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:39:50
H.Takano @midwhite

20世紀の初頭、企業の政策を決定するのは企業トップの資本家であった。だが企業が巨大化し、株式が多数の人に分散所有されるようになると、企業の所有者としての資本家は次第に姿を消し、経営のトップは企業経営の専門家たる経営者に移り始めた。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:44:05
H.Takano @midwhite

市場を寡占する少数の大企業において、経営を実質的に左右するのは、経営者より下の各種組織の専門知識を持つ集団である。複雑で多様で広範な深い知識を持つこの集団を、ガルブレイスはテクノストラクチュアtechnostructureと名付けた。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:47:14
H.Takano @midwhite

企業経営の支配力がテクノストラクチュアに移ったとすれば、経営トップの並外れた高給は経営への寄与に比べて不当な報酬ということになる。テクノストラクチュアは結集し、会社は何のためにあるのかを問うべきである。大企業は経営者や株主のためだけにあるのではない。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 15:52:08
H.Takano @midwhite

マーシャルの『経済学原理』は、20世紀の初めの数十年間、英語で経済学を学ぶ国々での標準的教科書であった。その経済学と、今日アメリカにおける経済学の標準的教科書にあるような新古典派経済学との大きな違いの1つは、労働曲線の形が逆であることである。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:02:15
H.Takano @midwhite

アメリカの経済学の教科書には、賃金率が上昇すれば労働者は供給量を増やす、右上りの曲線が描かれている。一方でマーシャルは、労働供給曲線は賃金率の上昇に応じて減少する右下がりの曲線を描いた。労働者は賃金の現象に際して現行の収入を維持するため長く働く、と。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:06:30
H.Takano @midwhite

賃金が切り下げられると、労働者にとっての1ポンドは以前よりも貴重になり、より長く働こうとする。もし労働供給が過剰になりさらに賃金が下がれば、労働市場は悪循環に陥る。このように労働市場は自己調整機能を持たず、労働者の生活の崩壊によってのみ止まる。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:11:37
H.Takano @midwhite

ガルブレイスは市場体制内の労働者が労働組合を結成できるよう政府が積極的に支援せねばならないとしている。大企業体制下の労働組合も、ニューディール期に政府支援の下で発展を見たのである。サービス業等で労働組合が活躍するためには、政府の支援あってこそである。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:17:55
H.Takano @midwhite

同時にこうした分野では、最低賃金制の導入と引き上げが必要である。この点もガルブレイスとアメリカの教科書との違いである。アメリカの教科書には、最低賃金制は均衡賃金を歪め資源配分を乱すとして、最低賃金制を否定している。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:19:31
H.Takano @midwhite

またガルブレイスは関税についても興味深い考えを残している。大企業は他国への進出や生産拠点の移動が可能であり、自由貿易の利点が大きいため関税による保護は不要だが、そういったことができない市場体制内の小企業は国際協定によって保護されるべきと主張している。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:22:24
H.Takano @midwhite

この国際協定とは、価格と生産を安定させるための輸入数量制限である。市場原理主義者は価格が経済を律するという考えから、関税による保護を選ぶが、ガルブレイスは数量制限の方が効果的であると見る。だが国際貿易ルールはGATTからWTOへの移行と共に全て関税化した。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:46:35
H.Takano @midwhite

資本主義経済は幾度も投機のブームと崩壊を経験した。1928年から29年にかけての株式ブームは株価操作によるところが大きかったと思われる。大恐慌前のブームは作られたブームであり、それ故に崩壊した。では、崩壊の過程で何があったのか。拓銀の倒産を例に説明しよう。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 16:57:32
H.Takano @midwhite

倒産した会社の株は無価値なはずであるが、倒産後の拓銀や山一證券の株は1株1円、2円で大量に買われており、その数は拓銀で6億株余り、山一で18億株余りにまで上る。誰が買っているのか。拓銀の株を持たずに売った投機筋である。/伊東光晴『ガルブレイス』2016

2017-11-26 17:01:17