コールド・ワールド #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:ニンジャスレイヤーことマスラダ・カイは、ガラパゴスからシトカへ帰還するマグロ漁船に海から引き揚げられ、命を救われた。だがその船はウラシマ・ニンジャによって破壊された。灰色の浜辺に打ち上げられたニンジャスレイヤーを見守る者あり……)

2017-12-04 21:06:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おい」呼び止める声。ニンジャスレイヤーは視線を向けた。そこには鈍色にくすんだ長衣の男あり。「ここはまともな人間の立ち寄る場所ではない。本来はな」「……」ニンジャスレイヤーは歩を進める。男の横を、通り過ぎる。男は頭を掻いた。 1

2017-12-04 21:10:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おい」前方には再び灰色の男がいた。ニンジャスレイヤーは歩を進める。「お前……チッ」髭の男は眉根を寄せた。「混じっているな。この前よりもずっと」「……」ニンジャスレイヤーは男の横を通り過ぎる。男は振り返る。「どこを目指す。お前」声が終わるか終わらないかのうちに、もう、前にいる。2

2017-12-04 21:12:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おい」男は再び呼びかけた。「……」ニンジャスレイヤーは足を止めた。「去せよ。力なき影め」ニンジャスレイヤーは言った。男は息を吐いた。「失せるのはお前だ、死神。本来はな。ここは我が領域、何人たりとも……」「オヌシのドージョーか?」ニンジャスレイヤーは遠く霞む丘を見た。 3

2017-12-04 21:16:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドージョー……んん、そういう事にしておいてもいいが」男は少し考えこんだ。「正直、一も二もなく追い返してもいい。だが実際お前は……」「知ったことでは無し」ニンジャスレイヤーは薙ぎ払った。黒炎はブスブスと燻り、そのカラテはおぼつかない。離れた前方に男が立ち、「限界だろ」と言った。4

2017-12-04 21:20:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「黙れ、影」ニンジャスレイヤーは言った。しかし、もはやカラテは繰り出さなかった。「……ここは何処だ」「アラスカだ」男は答えた。「お前が居たのはナスカだが。随分遠くまで流されて来たものだ。俺はお前を呼んではいないが……そういう事もあろう。オヒガンを飛翔する体験は俺に知見を与えた」5

2017-12-04 21:27:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「影に用はない」「……そのまま野垂れ死ぬか?ナラク・ニンジャ=サン」男はニンジャスレイヤーに呼びかけた。「……」ニンジャスレイヤーは男を凝視した。男の輪郭はどこかおぼつかず、0と1のノイズが微かに生じている。「儂の名を……」「初対面ではないからな」男は言った。 6

2017-12-04 21:29:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺はお前を放っておいてもいい。目くらましのジツで、お前をこのまま好きな方角へ歩かせてもいい。お前は死ぬ。今のお前では。敵すら見出せず、虚無の中でな。憑依者が死ねば、お前も終わりだ」「グググ……知った事を」ニンジャスレイヤーは嘲笑った。「こ奴は衣よ。捨てて別のものを纏えばよし」7

2017-12-04 21:33:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ほう。そうか」男は挑戦的に言った。「それなら今、捨ててみればいい。そしてギンカクに帰るがいい。俺が見届けてやる」「……」「マスラダ・カイか。お前がかろうじて引きずって歩いて、かろうじて生かしている。俺の知らん若者だし、お前の事も俺は別にな……利害関係もありゃしない。だが」 8

2017-12-04 21:37:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「俺は実際、どちらでもいい。興味はある」男は肩をすくめた。「その哀れな若者を助けてやりたい気持ちも多少はある。あんまりじゃないか。なあ……」バチバチと音を立て、くすんだ衣がノイズに擦れた。「……俺はどちらでもいい……」海風が吹き、鈍色の男は消えた。 9

2017-12-04 21:41:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドオン。……ドオン。灰色の波が、灰色の砂浜を洗う。寄せてかえす波の狭間を、赤黒のニンジャは進む。やがて陸の方向へ歩みを向ける。砂浜に傾斜が生まれる。砂浜は丘に続いている。丘の上に、建物の影が見える。ニンジャスレイヤーはそこを目指す。 10

2017-12-04 21:46:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

苔が丘を覆っている。ニンジャスレイヤーは歩きながら砂浜を見下ろす。波間にグリズリーの姿がある。空には弱弱しい太陽が照っている。然り、これは現実の光景だ。それでも空は灰色だ。 11

2017-12-04 21:49:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

丘は岩がちになり、背よりも高い石塊が視界を遮る。ニンジャスレイヤーは立ち止まらず、その狭間を通過し、歩いてゆく。やがて明らかに人の手がくわわった石の並びが現れた。ニンジャスレイヤーは石段を踏みしめ、上がってゆく。見上げると、そこにダウンジャケットを着た少女が立っている。 12

2017-12-04 21:52:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハーミットは誰とも会わぬ」少女は石段に立ちはだかり、目を閉じたまま、荘厳に両手を広げた。「ニンジャよ。下山するがよい。彼のメディテーションを乱すべからず……ア!」少女は慌てた。ニンジャスレイヤーは彼女の言葉に構わず、無雑作にその横を通過したからだ。「ちょっと待って!ダメ!」13

2017-12-04 21:56:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ニンジャスレイヤーは一度振り返ったが、少女を冷たく一瞥しただけだった。少女は憤慨した。「ちょっと!」「ゾーイ。構わん。そのまま通せ。勝手をするな」声が聞こえた。「敵意を感じまい。俺の客だ」「……」ニンジャスレイヤーは石段を登りきり、その先の、こじんまりとした庵を見た。 14

2017-12-04 21:59:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アタシは警告したからね!こんな奴にちょっかいかけるなッて!」少女の不満の声を背に、ニンジャスレイヤーは石を並べたおぼつかない道を進み、庵の段を上がった。彼はフスマ戸に手をかけた。そして言った。「入るぞ」「ああ。入れ」声は近い。ニンジャスレイヤーはフスマを引き開ける。ターン! 15

2017-12-04 22:02:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこはタタミ敷きの四角い小部屋であった。それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方全てがフスマであり、それぞれには雲、バンブー、灯火、フジサンの見事な墨絵が描かれていた。タタミの中央に座する男を見て、ニンジャスレイヤーの目の表情が動いた。 16

2017-12-04 22:05:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ゾーイがシツレイした。最近いろいろと物騒でな」くだけた口調で話すのは、鈍色のニンジャ装束を着、髭を生やした、年齢のわからぬ男。今度は影ではない。質量と実在感が確かだ。「ここへ立ち寄ったのは実際賢明な判断だと言っておく。ナラク・ニンジャ=サン、いや……」「ニンジャスレイヤーだ」17

2017-12-04 22:11:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうだな。マスラダ=サンがお前を抑制してもいる。斑の状態ッてわけだ」「……」「近隣の漁師連中には、ハーミット(隠者)、グレイハーミットで通っている。奴らを近づけさせやしないがな。お互い不幸になる」男は座り直した。「オヌシの名は違う。それではない」ニンジャスレイヤーは言った。18

2017-12-04 22:15:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「名前まで覚えてるか?光栄だね。ああ、俺だぜ」年齢のわからぬ男は頷き、自身の長く伸びた髭を撫でた。「俺はシルバーキーだ。久しいな。"ニンジャスレイヤー" =サン」19

2017-12-04 22:18:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ターン!フスマが開き、憮然としたゾーイが現れた。その手にはホット・マッチャの缶入り飲料があった。ベンダーで売られる、アルミ缶入りのマッチャ。ネオサイタマ・スタイルだ。それをシルバーキーに投げてよこした。「そいつにもやってくれ」シルバーキーはニンジャスレイヤーを示した。 20

2017-12-04 22:27:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゾーイは不満そうにニンジャスレイヤーを睨んだが、言われた通りにした。彼女は無雑作に虚空から缶入りマッチャを取り出した。01のノイズがチリチリと舞った。「ほら」ゾーイはニンジャスレイヤーに缶入りマッチャを投げた。ニンジャスレイヤーは無言でそれを受け止めた。 21

2017-12-04 22:30:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「美味いぞ」シルバーキーはプルタブを開き、ゆっくりと飲んだ。「ンン、熱過ぎる!いつもだ」「なら、そういうものなんでしょ」ゾーイは素っ気なく言い、部屋から出て行った。「反抗期なんだ」シルバーキーは言った。ニンジャスレイヤーをじっと見る。やがて彼も観念したようにチャを飲んだ。 22

2017-12-04 22:34:10