安田先生。

よつげ @Eight_os

１ 今日も私は、放課後の数学準備室に向かう。 ４階の端っこ、先生方ほとんど誰も来ないような教室。 「失礼しまーす」 『わっ！あぁ…驚いたやん笑』 入って正面の席に座る、このちょっと反応の独特な先生が、私の想い人。 安田先生。 #エイトで妄想

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２ 『んもー、部屋に入る時はノックくらいせんと、社会出た時困るで？』 そう言って手を伸ばし頭をポンポンと。 男の人としては背は低い方の先生なのに、手のひらは意外とおっきくてあったかい。 「…へへ、先生に早く会いたくて？笑」 #エイトで妄想

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３ そう言うと先生はちょっと驚いたような表情をしてから優しく微笑んで、 『そういうのは好きな人に言うもんやで？』 と言う。 「私、章大さんのこと好きですよ？笑」 だから私も言い返す。 冗談めかしてでしか名前呼びも告白も許されない、生徒という立場の辛さ。 #エイトで妄想

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４ …でも好きなんだ。 『…それ何回も聞いたわ笑 そういう話はもうちょい場所考えや？ あと！これも何回も言ってんけど！名前呼び禁止！笑』 安田先生はいつもこうやって私の告白を流す。 迷惑なのは痛いほどわかってる。 でも負けられない。 #エイトで妄想

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５ 「はいはーい、 せんせ、今日は告白はこれでやめとくからさ…」 『はいはい、これやろ？』 呆れたように笑って先生が備え付けの冷蔵庫から取り出したのは… イチゴミルクのパック、×２ 先生との戦いに負けた後は、一緒にこれを飲むのが日課。 #エイトで妄想

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６ というよりは、放課後教室を飛び出してからこうやってイチゴミルクを飲むまでが、今となっては私の日課。 まあ、それくらい負け試合なわけだけど笑 そりゃそうだ。何しろ教師と生徒だから。 ま、諦める気はさらさらないけど。 「じゃ、せんせ、また来まーす笑」 #エイトで妄想

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７ 『もう来んな』 「え」 『うそうそ、いつでも来てええで？ 俺がいる時やったら笑』 あぁ、そんなこと言うから。 やっぱり大好き。 階段の途中、数学準備室の方を向いて小さく呟く。 「迷惑なんだったら、期待しちゃうようなことしないでくださいよー…ばーか」 #エイトで妄想

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８ 《梨花ー！遅いー！》 「ごめーん！安田先生に告っててさ」 《またー？懲りないなぁ笑》 この子は親友の蘭。 結構可愛い子なんだけど、ちょっとバカでちょっとお人好しすぎるから、付き合う男はダメンズばかり← 《で、結果は？》 #エイトで妄想

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９ 「ダメに決まってんじゃん( ˙-˙ )」 《やっぱりー…》 そして蘭は安田先生のことがそんなに好きじゃないらしい。 《だって行事とか口ばっかで手伝い来ないし！》 「それはそうだけど」 《背ちっちゃいし！》 「蘭より大きいし」 #エイトで妄想

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１０ 《チャラそうだし！》 「見た目だけだよ←」 《生徒を軽くあしらいすぎ！》 「大人だもん」 《あと女じゃん！←》 「違うし笑」 でも蘭が安田先生を好きじゃない、一番の理由は… 《梨花がこんなに本気なのにさ、ちゃんと答えてあげないとかひどすぎでしょ！？》 #エイトで妄想

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１１ 蘭は私が大好きだから。 はい、自慢の親友です。 《安田先生とかさ、やめといたらいいのに…》 「やめれたらとっくにやめてるよ笑」 そして私が安田先生を好きな理由（は、ないけど）、というかきっかけの話をしなければならない。 #エイトで妄想

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１２ あれは、私が中３の頃。 実は私は、それまでまだ恋というものを経験したことがなかった。 みんなが好きな人や気になる人の噂話を楽しむ中、私はずっと。 恋って…なんだろう、って。 そんなある日。受験を控えたある土曜日。 幼馴染の錦戸くんに呼び出された。 #エイトで妄想

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１３ 【…ずっと好きやった。 受験合格したら、付き合ってくれへん？】 私は、軽い気持ちでOKした。 亮ちゃんは良い奴だし、きっと付き合ってるうちに好きになるだろうって。 ２人とも受験には無事合格。 同じ高校で付き合うのも楽だね、なんて話した。 #エイトで妄想

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１４ …でもダメだった。 やっぱり私は、亮ちゃんのことを好きになれなかった。 私にとっての亮ちゃんはあくまで幼馴染で。 それ以上の感情なんて今までなかったから。 どうしても感じてしまう、手を繋いだりぎゅってしたりに違和感。 次第にそれが浮き彫りになって。 #エイトで妄想

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１５ 自分にも亮ちゃんにも嘘をついてるような気がして堪らなかった。 亮ちゃんに別れを切り出したのは、５月の初め。 【何それ、いいって言うたやん？ 好きって言ってくれたやん 全部…嘘やったん？】 ちょっと喧嘩になってしまった。 今は和解して普通に話せるけど。 #エイトで妄想

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１６ その時は、亮ちゃんの言葉から傷ついてる気持ちとかが伝わってきて。 グサグサと胸に刺さるようで。 「ゴメンっ…！」 それだけ言って。 十分だけって決めてトイレにこもって声を出さずに思いっきり泣いた。 #エイトで妄想

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１７ なんでこんなに辛いんだろう。 亮ちゃんのことを恋愛対象として見れなかっただけなのに。 フラれたわけじゃないのに。 自分の気持ちがよく分からないままトイレから出ると 『おっと、』 安田先生に出くわした。 ちなみに今更だけど安田先生は担任でもある。 #エイトで妄想

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１８ なんとなく、ぶつかったまま、その場を動けずにいたら、 『どうしたん？』 優しい声が頭の上から降ってきた。 「あ、あの、えっと…」 安田先生は急かすでもなく黙って見つめていて。 …可愛い、かも。 「…可愛くなるには、どうしたらいいですか？」 …ん？ #エイトで妄想

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１９ あぁっ！！！！！！ 質問の内容、完全に間違えた。 安田先生可愛いっていうのと、私どうしたらいいんだってのが混ざって、関係ないこと聞いてしまった← あーあ…ほんと今日は厄日だ。 『せやなぁ…』 ああ、しかも割と真面目に考え始めてる… #エイトで妄想

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２０ 『…髪、切るとか？』 「え？」 唐突の髪切る発言に、私の頭は［失恋したら髪を切るという王道すぎるパターン］とその言葉を変換する。 「や、別に失恋したわけでは…」 すると、安田先生はフッと笑って 『…失恋したん？』 「や！？べ、別に失恋ってわけじゃ…」 #エイトで妄想

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２１ …やってしまった← すると安田先生は今度は可笑しそうに笑って、 『失恋しててもしてなくてもやな…笑』 そして、私の前髪にちょっと手を添え持ち上げて、 『髪、今ロングやけど、ショートにしてオン眉にしたら、水島結構可愛くやると思うんやけどなぁ』 #エイトで妄想

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２２ …へ？ 安田先生の突然の至近距離と可愛い発言に、私はすっかり固まってしまった。 安田先生は続ける。 『でも、流石に今は顔見せられへんやろから…』 『やから今日はとりあえず涙すっからかんなるまで泣いて、 別の日に切りに行きや？』 #エイトで妄想

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２３ 泣いてたの…バレてたんだ それがなんとなく悔しくて。 「余計なお世話です…」 ああ、可愛くないな私。 『あー、ごめんな？笑』 先生も困ってる、気がする。 と思ったけど、違った。 『じゃ、余計なお世話ついでに、はい。 余計な差し入れ笑』 #エイトで妄想

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２４ そう言って先生は何かを私の頭の上に乗っけてそれを使って私の頭をグリグリと撫で。 そして言った。 『お前が辛そうな顔しとったら、錦戸が浮かばれへんやん？ アイツがやっぱり諦めきれへん！ってなるくらい綺麗になったり？』 そう言い残して去っていった。 #エイトで妄想

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２５ 去っていったと同時に安田先生の手が離れたので、私の頭の上の物体が落ちてきて。 「わっ」 反射的に受け止めると。 肌に優しい素材のポケットティッシュと、ちょっと冷蔵庫の匂いのするアイスノン。 ”涙すっからかんになるまで泣いて” #エイトで妄想