「ニコニコ売春」から考える「自発的な売春」について

読みながら感想を書いていく読書実況。 末尾に全体感想を付けてフィニッシュです。 過去の読書記録はこちら→ https://togetter.com/li/1144604
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波島想太 @ele_cat_namy

【本棚登録】『ニコニコ売春』千田 夏光 booklog.jp/item/1/4811301… #booklog

2017-12-06 13:23:02
波島想太 @ele_cat_namy

私の勉強法としては、理解できてもできなくてもとりあえず試験範囲を一通り流し、それから引っ掛かった場所を何回もやっていくというのがよくある。女性の権利、性風俗に関しても一応歴史的には一巡りして、二巡目ということになる。以前のものと重複する部分もあるので、適宜割愛しながら読んでいく。

2017-12-06 13:29:00
波島想太 @ele_cat_namy

本書のタイトルは「ニコニコ売春」である。ニコニコ動画とは無関係で本書は1994年の刊行である。著者は大正13年、大連生まれの元毎日新聞記者。他に従軍慰安婦等の著作がある。 奥付けに「現住所」が掲載されているあたりに時代を感じる。

2017-12-06 13:32:40
波島想太 @ele_cat_namy

第一章は公娼制、第二章は従軍慰安婦について。この辺は以前にもまとめているので割愛。 togetter.com/li/1140185 togetter.com/li/1141210

2017-12-06 13:35:59
まとめ 遊女・からゆきが背負ったもの 江戸の遊郭によって高度に発達してしまった日本の売春、人身売買制度の歴史を振り返る読書実況。 ※人身売買のシステムは既にあり、売春にもその手法が使われただけという説もあります。次回はそういう本の予定です。 5860 pv 18 1
まとめ 近現代日本の人身売買について 明治維新以降、近代化を目指す日本の中で立ち遅れた女性、子供、貧困層といった弱者たちはその身を売るしか生きるすべを持たなかった。 売春従事者に対して前借金で縛ることを禁じた売春防止法の成立は戦後も10年が過ぎた1955年であった。 なぜ日本で身売りを禁じる法律がなかなか成立しなかったのか。その経緯を追う。 13165 pv 65 23
波島想太 @ele_cat_namy

第三章は戦後の進駐軍相手に整備されたRAAなどについて。これもまとめてはいないけど読んだので割愛。 booklog.jp/users/electric… 本書も「事務職と思って応募したが娼婦にさせられた」体験談の下りはなかなか興味深い。

2017-12-06 13:39:18

青線、赤線時代

波島想太 @ele_cat_namy

RAA解体後、赤線、青線の時代以降の記述が面白いので引用していく。ざっくり言えば、警察などが売春を黙認した地域が赤線、暴力団などが闇で売春を営業した地域が青線である。

2017-12-06 13:44:23
波島想太 @ele_cat_namy

この時点で公娼制は解体され、また前借金で縛る方法も規制が進んでいた。代金の取り分も、かつては業者が多く取り、娼館の補修などといった必要経費までもピンハネしていたが、「人手不足」のために待遇は向上し、6割を女性が取り、業者は残りの4割からさらに女性の食費を出すまでになっていた。

2017-12-06 13:49:04
波島想太 @ele_cat_namy

娼婦の発言権も増し、嫌な客は断ることもできた。業者が客を取るよう強要すれば、「売淫を強要した者」として処罰されるからだ。吉原では娼婦たちが「新吉原女子親睦会」なる組織を作り、業者側の組合と交渉した記録もある。いわば娼婦の労働組合である。

2017-12-06 13:52:36
波島想太 @ele_cat_namy

残念ながらこの組織は長続きしなかった。娼婦というものは身体ひとつでフラりとやって来てフラりといなくなる者が多く、また団結心も弱く個別に言いくるめられやすかったようで、やがて業者に利用される御用組合と化した。それでも江戸から昭和初期に至る座敷牢のような境遇よりはマトモと言えた。

2017-12-06 13:56:38
波島想太 @ele_cat_namy

売春を営む女性が「フラりといなくなる」ことができた、ということ自体が革命的だったのである。それでも借金から赤線に来ざるを得なかった女性、RAAから解放(解雇)されたものの今さら一般の職に戻ることもできずやって来た女性などもいて、問題がないわけではなかった。

2017-12-06 14:00:18
波島想太 @ele_cat_namy

その頃(昭和23年)国会では日本国憲法や戦前からの廃娼運動を受けて、売春を禁止すべきという動きが始まっていた。この辺も以前に触れたが、売春業者側からの猛反発の様子が本書に詳しい。中でも売春廃止反対論に「売春を廃止すると良家の子女が犯される」という論拠があったのが興味深い。

2017-12-06 14:12:44
波島想太 @ele_cat_namy

この理屈はRAA設立の際にも持ち出されたが、要するに「犯されてよい女性」と「犯されてはいけない女性」という区別が公然となされていたのである。それは犯す側の理屈であり、後に各地で制定される売春禁止条例においても、罰せられるのは客引きと売春婦であり、買う側を咎めないことに通じる。

2017-12-06 14:18:22
波島想太 @ele_cat_namy

それら各地で制定された売春禁止条例すらまともに機能せず相変わらずの売春天国が続くのだが、象徴的な国会でのやり取りが紹介されている。 昭和30年当時、売春業者は「特殊飲食業」と呼ばれていたが、その特飲業組合理事長の娘が、衆議院法務委員会の調査主事補として勤めていることが指摘される。

2017-12-06 14:26:44
波島想太 @ele_cat_namy

要するに国会がどのような法案を作ろうとしているのかが、事前に特飲業界側へ筒抜けであったということである。さらに議員への献金(賄賂)攻勢も激しく、売春業界が政治に強く食い込んでいたことがわかる。

2017-12-06 14:31:21
波島想太 @ele_cat_namy

さらには最高裁判所の売春に関わる部署の職員が、売春処罰法案の成立による悪影響などという文章をおそらく業者のものと思われるパンフレットに寄稿していることが判明する。またこの職員などと連れだって東大や一橋大の教授までもが業者組合のシンポジウムへ列席している。

2017-12-06 14:34:32
波島想太 @ele_cat_namy

結局「売春等処罰法案」は否決されるが、従来唱えられてきた「売春を禁止すると性病が蔓延する、青年の非行化が起きる」という理屈ではなく、「現に蔓延している売春をただ処罰するだけでは解決せず、むしろ取り締まりきれなくなりかえって順法意識が失われる」などと、趣旨自体は否定されなかった。

2017-12-06 14:40:40
波島想太 @ele_cat_namy

売春規制反対派も、いわゆる「総論賛成、各論反対」でしのぐことしかできなくなっていたというのは、世論の変化の証左ではある。それでも驚異の粘り腰を見せつけて戦いは長丁場へと入っていくのだがここでは割愛する。

2017-12-06 14:46:07
波島想太 @ele_cat_namy

千葉の実家に二人の子供を預け、吉原に9年身を置く戦争未亡人の女性の言葉を紹介する。 「何回も視察でくる国会議員、各議院サンや婦人団体の人たちは私のひがみかも知れないけど、私たちを見下しているように見えた。みんな私たちを恥しらずで汗を流して働かない怠け者のように言う。…」

2017-12-06 14:58:00
波島想太 @ele_cat_namy

「…新聞記者たちもそうだった。夜になると私たちを買いにくるくせに記事では私たちを社会道徳を乱す人間みたいに書く」 「汗を流して働けというけど、腕に職もない私たちを雇ってくれる所がどこにあるのかって言ってやりたい」

2017-12-06 15:00:59
波島想太 @ele_cat_namy

当時は朝鮮戦争による特需があったが、活気があるのは一部の業界で、失業者は少なくなかった。太平洋戦争の混乱で小学校までしか卒業できず、ミシンも踏めない女性に働ける場所はほとんどなかった。やむなく苦界に身を投じた彼女たちを刑事罰で処すのは理不尽きわまりない。

2017-12-06 15:04:34
波島想太 @ele_cat_namy

そうした彼女たちにとっては生活防衛のための売春であり、そのため彼女たちもまた売春規制に反対した。ギリギリ公認の赤線にいる方が、ヤクザや愚連隊が支配する青線よりはマシだという苦渋の判断である。だがそれを売春業者が利用して規制反対に繋げようとする。

2017-12-06 15:08:03