オリジナル140字SS

いままでのオリジナル140字SSまとめ
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早倉@文章垢 @yuki_s420

中庭/いくら晴れているといっても11月だし、北の方は雪が降るとか朝天気予報で言ってたし、つまり何が言いたいって無理矢理連れ出された中庭は寒かった。こっちが寒いと文句を言っても聞く耳を持つ気がないのか、振り返りもせずにずんずんと歩き続ける。掴まれた手だけがじっとりと熱を持っていた。

2011-11-16 18:02:12
早倉@文章垢 @yuki_s420

旅行の計画/予算に頭を痛めながら資料とにらめっこして冬休みの計画をたてる。どこに行こうか、何泊しようか、何をしようか。頭を悩ませながらも、自分の思いは既にまだ見ぬ街に馳せられていた。楽しそうにいろんな提案をする君もきっと同じ事を思っているだろうと考えるともっと幸せな気分になった。

2011-11-17 21:24:53
早倉@文章垢 @yuki_s420

リップクリーム/「…血の味がする」唇を離した彼は顔をしかめてそう言った。どうやら血の味はお好みじゃないらしい。当たり前か、吸血鬼じゃあるまいし。「毎年リップクリーム塗れって言ってるだろ」「えー」だってリップクリームは好きじゃない。キスの時に直接触れてない感じがして嫌なんだもん。

2011-11-18 17:30:51
早倉@文章垢 @yuki_s420

電気毛布/冬は寒さを理由に手を繋いだりくっついたり布団に潜り込んだりできる。だから今日も彼の布団に入る算段をたてていたのに私はいまだに自分の布団にいた。優しい彼は私が寒がりだと思って、電気毛布で布団を温めておいてくれたのだ。このおせっかい。でもそんな所が好きなのだから厄介だ。

2011-11-19 23:07:41
早倉@文章垢 @yuki_s420

明日は明日の風が吹く。/上司に怒られた。後輩への指示を間違えて商品の発注個数を間違えてしまったのだ。「あの、先輩、すみません」後輩は心配そうな顔でこちらを見上げてくる。俺のミスなのに真面目なやつだ。また明日から頑張りゃいーじゃん、と言うと、暢気ですね、とやっと笑顔を見せてくれた。

2011-11-20 22:31:43
早倉@文章垢 @yuki_s420

空っ風/おかしいなあ、こんなはずじゃなかったのに。今日はこれからデートの予定だったし、来月のクリスマスも年越しも一緒に迎えるつもりだったのに。あいつはそんなつもりなかったのか。うわあ、間抜けだな、ひとりでうかれてさ。あー駄目だ、駄目だ、風が冷たすぎて鼻水とついでに涙まででてきた。

2011-11-21 20:18:14
早倉@文章垢 @yuki_s420

落ち葉踏み/真っ白な世界に色とりどりの葉が落ちていた。それらはやけに色鮮やかで白とのコントラストが目に痛いぐらいだ。悪趣味な絨毯の上をなんとなしに歩き始めてみるがかさりとも音はしない。落ち葉しかないこの世界。頭のどこかで果てなどないであろうことはわかっていた。

2011-11-22 23:53:04
早倉@文章垢 @yuki_s420

休日/起きたら目の前に彼がいた。吃驚して遅刻だと言おうとし、はたと気がつく。そう、今日は珍しく私と彼の休日が合ったのだった。起こそうとした手を戻しまじまじと彼の顔を見る。普段は私より早く家を出てしまうから寝顔なんてそうそう見れないのだ。暫くこのままでいても罰は当たらないだろう。

2011-11-23 22:16:12
早倉@文章垢 @yuki_s420

コート/「その上着、あんま可愛くない。お前に似合わないよ」彼から言われた言葉が心に突き刺さる。おばあちゃんが買ってくれた大事なコート。確かに飾り気がなくて少し大きめで不格好だったかもしれないけれど、私はこれが大好きだった。でも臆病な私は涙も言葉も飲み下して彼に苦笑するだけだった。

2011-11-24 22:52:15
早倉@文章垢 @yuki_s420

おかわり自由。/「流石に食べ過ぎじゃねえ?」確かにバイキングは取り放題食べ放題だ。ちゃんと金だって払っているんだから俺にこいつを止める権利なんてない。でも流石に周りの目が痛い。男2人ってだけで既に気まずいのに。あーあ、どうせ後で気持ち悪くなんのは目に見えてんのに学習しないヤツだ。

2011-11-25 17:30:17
早倉@文章垢 @yuki_s420

PM11:00/暗い道を一人黙々と歩く。携帯も見なければイヤホンもつけないでこうやって夜道を行くのは趣味のようなものだ。月の光に星の輝き、風にさざめく木の葉、時折聞こえる生き物たちの声。そんな静謐とした素晴らしい世界に目を向けないのはとても勿体無い事だと思うのだ。

2011-11-26 22:38:46
早倉@文章垢 @yuki_s420

時雨/しとしと、しとしと。薄暗い部屋の中で男はただ一人、虚ろな目で窓を見つめていた。こんな身を切るように寒い日だというのに男はなんとも肌寒い格好だ。髪はぼさぼさで無精髭のままじっとしているものだから死んだようにも見える。いや、事実男の心は既に死んでいたのだった。

2011-11-27 23:00:52
早倉@文章垢 @yuki_s420

プラットホーム/寂れた駅の歩廊で二時間に一本しかない列車を待ちながら思いを馳せる。水浴びをした川、駆け回った野原、探検をした山々、そして産まれてから今まで育ってきた村。その村とも今日でお別れだ。僕は今日、初めて村をでて、そして。きっともう生きて帰ることはないのだ。

2011-11-28 22:56:21
早倉@文章垢 @yuki_s420

焚き火/「ねえ先生、焚き火しようよ焚き火!」「そんなワガママ言うなよ…すみません、先生」「いや、いいんじゃない?」歓声を上げる女子と困り顔をした男子。こんなに枯れ葉があるのにただ捨てるのも勿体無いだろう。せっかくだしサツマイモ焼くのもいいかもなあ。

2011-11-30 23:32:36
早倉@文章垢 @yuki_s420

枯れ葉/自分に割り当てられた庭で葉を掃き集めながら、ふ、と思う。この枯れ葉はただ棄てられるんじゃない。土に還って養分になったり、燃えて暖を与えてくれる。この子達は枯れて、死んで、尚、存在価値があるのだ。それに比べて私は、私たち人間はどうだろうか。ああ、ああ、この葉達が羨ましい。

2011-11-30 23:43:16
早倉@文章垢 @yuki_s420

今年も残り1ヶ月/今年がタイムリミットだった。しかし後1ヶ月で2011年が終わってしまうというのに彼からは何の音沙汰もないまま。彼は約束を忘れてしまったのだろうか。……それならそれで致し方ないのかもしれない。私達はここで終わる、そういう運命なのだろうから。

2011-12-01 22:37:46
早倉@文章垢 @yuki_s420

手袋とマフラー/ため息をついてあたりを見渡す。目に付く人達はみんなカップルで、この寒さに乗じて「手袋片方ずつつけて、手、つなご」だの「マフラーかしてあげる」だのテンプレートなやりとりをしている。本当なら私だって今頃そんなやりとりができたはずだったのに。いつまで私を待たせる気なの!

2011-12-04 17:07:26
早倉@文章垢 @yuki_s420

満員電車/毎朝毎朝うんざりする通勤ラッシュ。いや、今日は多少ラッキーかもしれない。なんたって前に立ってるお姉さんが美人だからだ。ちらちらと前を盗み見ると彼女は白い顔で口に手をあてていた。気持ちが悪いのだろうか。席を譲ろうかどうか迷っているうちに彼女は電車を降りてしまった。

2011-12-04 22:31:55
早倉@文章垢 @yuki_s420

重ね着/「ねえ、あんた何枚着てんの?」友人に胡乱気な顔で問いかけられ首をかしげる。確か今日は6枚だ。そう答えると友人は意味がわからないと首を振った。私からしたら今日みたいな寒い日に2、3枚しか着ていない人達の方が理解できないのだけれど。そんなんじゃみんな寒くて死んでしまうよ。

2011-12-04 22:41:58
早倉@文章垢 @yuki_s420

旅立ち/家を出よう、私はつい先日思い立った。そうして今日私は荷物を纏めて家を出た。生活のあて等は無い。家族は私を引き留めようともしたが、それは私の決意を頑なにするだけだった。私は元来我が儘な性格なのである。老いた両親に婚約者のいる妹。人に去られて私が残されるなど真っ平御免だった。

2011-12-05 23:39:18
早倉@文章垢 @yuki_s420

暖をとる/冬になると彼はよく私を膝に乗せて撫でてくれる。夏はあまりべたべたすると暑苦しいと嫌な顔をされてしまうから、私は彼と気兼ねなく触れ合える冬が好き。「お前はあったかくていいなー」そう言いながら彼が撫でてくれるから私は、みゃあ、と返事をした。

2011-12-06 22:34:12
早倉@文章垢 @yuki_s420

指定席/「あーダメダメ!」「えっ?」心地よい昼下がり、縁側でよじ登ってきた猫を膝に乗せて撫でている所へ喜三太がやってきた。そして言うや否や僕の膝から猫を抱えあげて、問答無用でその空いた場所へ座り込む。僕の膝に喜三太、喜三太の膝に猫。この猫、喜三太のお気に入りだったのかなあ。

2011-12-08 23:57:50
早倉@文章垢 @yuki_s420

鍋/「鍋だ!鍋をするぞ!」そう言い放ち障子を開けて此の男がどかりと座り込んでから、彼此半刻は経つ。人の良い細君は「あら、良いですねえ。お買い物はこれからですし」と出掛けて仕舞った。僕は本を読んで居た。珍しく静かに此方を見る眼には気付いていたが、何故だか顔を上げる事は出来なかった。

2011-12-09 18:01:04
早倉@文章垢 @yuki_s420

凍った水面/薄い氷の張った水面の上で彼女はあちらこちら、くるりくるりと舞っていた。彼女が爪先をちょんとつけばぱきりぱきりと薄氷は割れて沈んでいった。ひび割れはだんだんと広がってこちらへと向かっているようだった。そのうち僕は彼女の湖の奥底へ沈んでいくのだろう。それが彼女の望みなら。

2011-12-11 22:37:35
早倉@文章垢 @yuki_s420

ココア/君の好きなもの。あったかいココア、甘いチョコレートに楽しいおしゃべり、かわいいピンクの小物、それから僕。君のことは全部わかってるよと拗ねた彼女にチョコレートをさしだしたら「あなたは大嫌いですっ」と頬を膨らまされた。拗ねた君もかわいいね、なんて言ったら君はもっと怒るかな。

2011-12-11 22:47:48