異世界小話~変な文字でノートをとるJDの話~

なろうは異世界小説がしのぎを削る戦場で怖いお…だからTwitterでやるお!!!
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帽子男 @alkali_acid

「変な文字でノートをとるJDの話」

2017-12-25 01:36:00
帽子男 @alkali_acid

その人は大学の講義はいつも、変な文字でノートをとるのだった。 何歳ぐらいなのかはよく分からない。高認で入って来たらしい。 ものすごく年上のようにも、ひどく幼くも思えた。

2017-12-25 01:37:47
帽子男 @alkali_acid

たまたまノートに目がいって、文字をまじまじと見つめてしまい、目が離せなくなって話をすることになった 「ずっと外国にいってたので。山田さん?でしたっけ。佐藤です」 山田としては挨拶するしかなかった。

2017-12-25 01:39:19
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんは、帰国子女なのだそうだ。でも書いている字は英語でも中国語でもないし、あとで調べたけどアラビア語でもヒンドゥー後でもロシア語でもどこでもなかった。 とても珍しい国らしい。運動神経は抜群で、アーチェリーと馬術と、太極拳と水泳とヨットと、とにかく色んなサークルを掛け持ちした。

2017-12-25 01:41:50
帽子男 @alkali_acid

運動音痴の山田としては敬遠したくなる相手だが、山田がやっている神話・伝承系サークルになぜか出入りするのだった 「甲賀三郎伝説のどこにそんなに興味が」 「異世界にいってかえってくるって、ところかな」 「あー帰国子女だから」 「うん」

2017-12-25 01:44:07
帽子男 @alkali_acid

佐藤さんは、異世界にいく話が好きだ。漫画やアニメではなくて、古い話。妖精の国にさらわれる吟遊詩人とか 海をわたって女人が島についた漁師の話とか。 「もう一度、行きたいってことですか。外国」 「…例えば。異世界にいって、そこで忘れものをして戻って来たとして。困りますよね」 「はあ」

2017-12-25 01:46:32
帽子男 @alkali_acid

「忘れ物ってなんですか」 「首」 「首」 「なーんて」 佐藤さんの言うことはときどきよく分からない。

2017-12-25 01:47:03
帽子男 @alkali_acid

「山田さんておっぱい大きいですよね。気をつけないと人買いに捕まって娼館に売り飛ばされちゃいますよ」 などとおおまじめに言う時がある。 「え、いや大丈夫じゃないですかね…」 「…油断はしない方がいいです」 なんだかんだ一緒にいるのは、運動音痴な山田を守ってくれているつもりなのかも。

2017-12-25 01:48:35
帽子男 @alkali_acid

「よく、悪魔を呼び出す話がありますよね」 「ありますねー」 「あれって呼び出された方はどんな気持ちだと思います?」 「迷惑…かな?」 「ですよね」

2017-12-25 01:49:42
帽子男 @alkali_acid

なんだかんだで佐藤さんの家にお呼ばれする山田。年頃の女性の部屋とは思えないほど殺風景。 今時印刷した写真などが飾ってある。十代前半の姉と、もっと年下の弟。 「姉弟だと思ったでしょ?」 コーヒーを出しながら笑いかける佐藤さん。美人である。恐縮する山田。 「ちがうんですか」

2017-12-25 01:52:25
帽子男 @alkali_acid

「こっちがお兄ちゃんで、こっちが妹」 「へー…なるほど」 「ちなみにこのおのこがおしたのが私です」 「佐藤さん。あ、お兄さんいらしたんですね」 「うん…」

2017-12-25 01:53:26
帽子男 @alkali_acid

気まずい沈黙。コーヒーマグを手におどおどする山田。 「えっとえっと…今日はあの見せたいものというのは」 「そうそう。これなんだけど」 古めかしい金属の装飾品。 「え、これ金?ほ、宝石?博物館とかにあるやつでは?」 「王冠、ですかね」

2017-12-25 01:55:23
帽子男 @alkali_acid

「王冠…あ、佐藤さんがいつも書いてる字と同じ…そっか佐藤さんがいた国の…勝手に持ち出しちゃいけない系では…」 「そうなんですよ。返す方法を考えてるんですよねえ…」 「なるほど…」 「手伝ってもらえませんか」 「え?私、神話・伝承サークルやってるぐらいしか能が…外国旅行はいまいち」

2017-12-25 01:57:06
帽子男 @alkali_acid

「それでいいんです。異世界に、いく方法を一緒に考えてくれたらなって」 またいつもの変な冗談なんだろうか。佐藤さんの目を見て、山田は悟る。この人いっぺんも冗談を言ったことはないのだ。 「い、異世界ですかあ…いや…どうしたら…その…」 「すぐじゃなくても…ううんすぐの方がいいです」

2017-12-25 01:58:59
帽子男 @alkali_acid

「あ、あの異世界に行きたいのは、もしかしてこの王冠を還すため、ですか」 「そうですね。あと首を」 「首?」 「首を取り返したいんです」 「首?」 「私の…お兄ちゃんの首」

2017-12-25 01:59:48
帽子男 @alkali_acid

嗤った佐藤さんの顔は、やばいくらいに美人で、山田は断れなかった。

2017-12-25 02:00:10
帽子男 @alkali_acid

調べに調べて、出た結論はひとつ。異世界に行く方法はないということ。 「ごめんなさい。みんなお話としては意味がありますけど、本当に異世界に行ったわけじゃないっていうか…」 「…」 「お、王冠を調べたらもっといろいろ分かるんじゃないですか」 「調べてはいるんですけど…」

2017-12-25 02:02:14
帽子男 @alkali_acid

「あの、その、佐藤さんが一番最初にい、異世界に行った?ときはどういうあれで」 「私じゃなかったんですよ。本当は」 「はあ」 「うち、母親がいなくて、祖母もあんまり体調がよくなかったから、お兄ちゃんがお母さんがわりっていうか。だから私がいつもつきまとってて」

2017-12-25 02:03:40
帽子男 @alkali_acid

「あの時も、お兄ちゃんが、多分呼ばれたんです。お兄ちゃんがどこかへ行こうとしているのが分かって。私、嫌だったから、しがみついた。それで…一緒に行っちゃったんですよね」 「なるほど…」 「それが間違いだった。多分。私がいなければお兄ちゃんはあのまま、冒険者の酒場にいって」

2017-12-25 02:05:02
帽子男 @alkali_acid

「冒険者の酒場?」 「そこで一人前になって、この王冠を…手に入れて…国を救って…英雄になって、そうして…きれいなお姫様と結婚して末永く幸せに暮らしたんだと思います」 「そうはならなかった?」 「私がいたから。私が足手まといになったから」

2017-12-25 02:06:17
帽子男 @alkali_acid

「お兄ちゃんがなるべき冒険者になったのは私。王冠を手に入れたのも私。でも…そのためにお兄ちゃんは…首をなくして…死んじゃったんですね」 「は、はい…」 「だから、首だけでもほしいなって…お兄ちゃんの」 にっこりする佐藤さん。山田は二の句が継げない。 「あんまり参考にならないですね」

2017-12-25 02:07:32
帽子男 @alkali_acid

「えっと…あの…私、思うんですけど」 「はい」 「佐藤さんたちをその、異世界に呼んだのは、誰なんですか」 「誰?」 「だってそうですよね。呼んだって、誰かが」 「はい…」 「その人の目的ってあの、この、王冠、だったんですか」

2017-12-25 02:08:40
帽子男 @alkali_acid

「…そういえば、そんな気がします…この王冠は、冒険者が迷宮に挑んで欲する最大の財宝で…皆が追い求めてたし…だから…そういえば…誰なんだろう」 「そ、その、これは憶測なんですけど、もし、その誰かが王冠がほしくて佐藤さんたちを異世界に呼んだんだとするなら、そも目的は果たされてない」

2017-12-25 02:10:26
帽子男 @alkali_acid

「だったら、もう一度呼ぶことも、あるんじゃないですか」 「…それっていつ」 佐藤さんがつかみかかる。めっちゃ痛い。山田涙目。 「痛い。痛いです」 「ごめんなさい」 「い、いや単なる思い付きです…思い付き…あの…ごめんなさい」

2017-12-25 02:11:35