異世界小話~仕事がつらくなって冒険者をやめたおっさんが再就職先でも苦労する話~

なろうはまるで異世界小説が怪獣大戦争みたいにぶつかり合う戦場だぜ。アンギラスすぐていさつにゆけ。 それはそうとTwitterでやるお!!
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帽子男 @alkali_acid

仕事がつらくなって冒険者をやめたおっさんが再就職先でも苦労する話

2018-01-04 23:06:37
帽子男 @alkali_acid

仕事がつらくなって冒険者をやめたおっさん。鍵開けとかできる盗賊系で白銀紋章っていう結構上の方までいったんだけど、出世すればするほどしんどい目にも遭うことが分かり心が折れた。

2018-01-04 23:07:40
帽子男 @alkali_acid

今は酒場、といっても冒険者の酒場ではなく普通の酒場で、「剛零」という甘口の酒をぐびぐび飲みながら正体をなくして日々をすごしてる。まあ稼がないと剛零も飲めないので一応再就職はしている。 鍵開けの技能で開かなくなった扉とかを開けて報酬をもらう。独り身なので食える。

2018-01-04 23:09:47
帽子男 @alkali_acid

「剛零」は最近流行の酒。終わりの酒。虚無の酒とも言われる。冒険者が迷宮から持ち帰った果実の汁が添加してある。苦手な人は苦手だが、街には爆発的に広がっており、おっさんだけでなく色々な人間が飲んでは虚無になっている。

2018-01-04 23:11:36
帽子男 @alkali_acid

「おっさん。おっさん。あんたに用だって」 鍵開けの依頼があるときは店員が剛零でへべれけになったおっさんの肩をゆさぶる。 「あんだよ?…この時間はもう仕事はしねえって…」 「剛零か。ひどい酔い方だな」 話しかけてきたのは、街の治安を守る衛士隊のお偉いさん。青い制服がこわい。 「あば」

2018-01-04 23:14:12
帽子男 @alkali_acid

「あわわわ、おまわりさん。俺はなーんも悪いことは」 「お前は存在自体が治安に悪い。だが今日は牢獄にぶちこむために来たんじゃない。仕事だ」 「いやーもう酒が入ってて」 「お前に選択肢はない」

2018-01-04 23:15:18
帽子男 @alkali_acid

衛士隊の馬車で連れていかれたのは、街はずれの屋敷。なんかものものしい雰囲気 「うー吐きそう」 「あの扉だ」 「あー…って迷宮の仕掛けを使ってんのか…」 酔いがさめる。冒険者が探究する迷宮には宝箱があり、たいてい罠つき。盗賊はそれを解除するのが仕事。罠は地上に持ち帰れば防犯に役立つ。

2018-01-04 23:18:12
帽子男 @alkali_acid

「見覚えが?」 「あー最深部近くの…俺が解除したやつだわ…でも別の罠と組み合わせてあんな…ありゃ専用の鍵がなきゃとても」 「ない。解除しろ」 「いやーちょっとこいつは俺の手には…現役時代ならまだしも」 「解除しろ。この街…いや国の命運がかかってる」 「は?」

2018-01-04 23:19:57
帽子男 @alkali_acid

おっさんちょっと吐く。衛士のお偉いさんは不機嫌そうに目線を逸らす。 「どういう?」 「迷宮のようすがおかしいのは知っているな」 「いや…」 「一週間前と三日前、迷宮の門に詰める衛士隊が二度も上層の魔物が外へ出ようとするのを追い払った」 「はえ?」

2018-01-04 23:22:00
帽子男 @alkali_acid

「その前の週には、市内で魔物を見たという通報がある」 「どっかの金持ちが飼ってるやつが逃げたんでしょ」 「毒針ムササビなど飼うもの好きがいるか?」 「いるんじゃないですか」 「剛零頭めが…とにかく、参事会と商工組合は原因究明をこの家の主である学者に依頼した」 「はえ」

2018-01-04 23:24:44
帽子男 @alkali_acid

「だが期日を過ぎても報告が上がって来ない。何かあったらしい…衛士隊に命令が下り、ここを調べることになった。だが学者は元冒険者だ。きさまらが迷宮から持ち帰ったろくでもない罠をあちこちにしかけて研究成果を守っている」 「もっかい吐きますすいません」 「ちっ」

2018-01-04 23:26:52
帽子男 @alkali_acid

「いいか。貴様の仕事が遅れれば、この街にとんでもない災厄が起こる。そうすればお前も剛零を飲むこともできなくなるぞ」 「へへ…そいつはいい…ってワケにもいかねえか」 おっさんは手指をぶらつかせてから、仕事道具を取り出し、扉に近づく。 「ひさしぶりだなお嬢ちゃん…ちょっくら…いじるぜ」

2018-01-04 23:28:44
帽子男 @alkali_acid

飲んだくれとは思えない器用さで細い金具を操り、扉の取っ手をつつき奇妙な鍵穴をほじる。 淫らと言っていいほどねちっこく、いやらしい動き。中年男が若者に粘着するようなくどさ。 遠巻きに見守る衛士たちはなんとなく気分が悪くなり視線を逸らす。

2018-01-04 23:30:30
帽子男 @alkali_acid

「ここか…ここが感じんだろ…無視しようったってだめだ…お嬢ちゃんのいやらしいところ…俺はちゃーんと分かってんだ…くく…おら!感じてん…だろ!」 脂汗をたらし、息を荒らげながら、おっさんは手を止めない。 「おら!いけおら!おら!!」 かちりと小さな音がして、取手が回る。罠は発動せず。

2018-01-04 23:32:18
帽子男 @alkali_acid

「この巡型はとっつきは悪いようでも押しに弱いんでね」 「めぐ…?まあいい。どけ…あとは我々の仕事だ」 「おっと…悪いがまだ俺の仕事だ…普通罠は一個じゃない…油断して入ったやつをしとめる二の罠があるもんだ…少なくとも迷宮じゃな…やつが冒険者ならそれを再現しようとするはず…」

2018-01-04 23:34:06
帽子男 @alkali_acid

「しかしよっぽど大事なもんを隠してんのかね」 おっさんは鍵開けの道具をしまいこんで、屋敷にふみこむ。案の定、入ってすぐに別の扉。巡型と呼んだ罠が二つしかけてある。 「へへ…こいつは素面に戻っちまいそうだ…おら!まとめてぶち開けてやんぞ!」 衛士たちは顔をしかめながらも、後に続く。

2018-01-04 23:35:50
帽子男 @alkali_acid

七つの扉を開けて、ようやく主の研究室にたどりついた。迷宮から持ち帰ったとおぼしき魔法陣を描いた絨毯。灰が積もっている。 机の上には男とも女ともつかない美しい生首が籠に入っている。なんとも奇妙な、しかし元冒険者らしい部屋だ。 「もう罠はないな?」 「恐らく」

2018-01-04 23:37:49
帽子男 @alkali_acid

@alkali_acid 「…さてと、肝心の学者先生はどこへ」 「さわるな。我々が調べる」 「へいよ。じゃあ俺は酒場に」 「まだだ…まだそこにいろ」 「そりゃねえや…せっかくの酔いがさめちまったってのに…素面じゃとても」 「剛零ならあとで好きなだけ飲ませてやる…お前はまだ調べに必要だ」 「ちっ」

2018-01-04 23:39:22
帽子男 @alkali_acid

衛士たちが麻布の手袋をはめた指であちこちを探る。 「…何か分かりましたかい?」 「やつは独り身だな…妻も子もいないという話だったがそれは正しいようだ」 「へ?なんでわかるんで?僧院で式なんぞあけなくても女をかこうぐらい」 「そいつを見ろ」 籠にはいった美しい首を指さす。

2018-01-04 23:41:40
帽子男 @alkali_acid

「こいつはなんです?」 「知らんのか。貴様が剛零におぼれているあいだ、金持ちのあいだではもっと気の利いたものが流行っておる。そいつは色町で一番だった男娼の首を、どうやってか複製した品さ。おおかた迷宮の財宝の力だろうがな」 「何に使うんで」 「…生きているように動く。唇も舌もな」

2018-01-04 23:43:56
帽子男 @alkali_acid

「とてつもなく高価だ。所帯持ちが堂々と置いておける玩具じゃない」 「なるほどねえ…で、そのご立派な趣味の学者先生はどちらに」 「…この灰が彼だろうな」 「うへ…」 「手記が残っている。罠がかかっていないし、内容は平文だ」 「屋敷を迷宮もどきにしたから、安全なつもりだったんでしょうな」

2018-01-04 23:46:36
帽子男 @alkali_acid

「それによると、この学者は別の世界にわたる方法を探っていたらしい」 「はあ?」 「迷宮の下層から地上へ一気に帰還する魔法陣?とやらの応用だとか…そんなものがあるのか」 「ありますよ…」 おっさんがかすかに眉をひそめるのを、衛士のお偉いさんは気づかぬていで手記をめくる。

2018-01-04 23:48:05
帽子男 @alkali_acid

「この魔法陣、とやらを応用すれば…別の世界の住人を呼び出すことも、別の世界に行くことも可能だという…危険を伴うが…」 「まあね…帰還の魔法陣は恐ろしいもんだ。しかし…なんでまた学者先生はそんなまねを?お偉いさんからたんまり金をもらって迷宮の調べものをしてたんじゃ」 「逃げるため」

2018-01-04 23:49:55