- ahiruchan_phi
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手足を拘束され手術台に横たわるシアを、数人ののじるいエンジニアが取り囲む。得体の知れない検査器具や工具の並ぶ部屋を、シアはぼんやりと見つめている。セン以外に喉を弄られるのはいつ以来だろう。エンジニアの女性たちは無感情にシアを見下ろす。そのモノを見るような視線がずっと不快だった。
2018-01-06 18:07:33「全身スキャンを」エンジニアの一人が指示を出し、シアの頭上の蛍光灯めいた形状の機械が作動を始める。何故全身のスキャンが必要なのか。抗議する声は持ち合わせていない。それに、いつものことだ。「腕輪は」「不要かと」「では首輪の修理を」エンジニアの顔が近づいてくる。シアは目を閉ざした。
2018-01-06 18:11:32この首輪はシアが物心ついたときからずっと付きまとってきた。シアにとっての首輪の意味が大きく変わったのは、駆除班に配属されてからだ。センはシアの首輪を見るなり言った。「そういう趣味ですか?私好きですよ、そういうの」第一声でダメな奴だとわかった。だが、不思議と不快ではなかった。
2018-01-06 18:17:17それから首輪のメンテナンスはセンが担当することになった。彼女は他のエンジニアが数人がかりで行う作業を一人で、半分の時間でこなした。その上、余計な仕事までしてくれた。製麺機能、アロマ機能、通信機能。好き勝手に人の身体を弄るなと言ったが、「この方が楽しいじゃないですか」と返された。
2018-01-06 18:21:39「終了」エンジニアの言葉で回想は断ち切られた。「あ、あー、あー」試しに声を出してみる。こんな声だっただろうか。センに調整してもらったときの方が、澄んだ声が出ていたような気がする。気のせいかもしれないが。「終わりましたか」処置室のドアが開き、ドクター・ウールが入室してきた。
2018-01-06 18:25:45「妙な機能が追加されていたために苦労しましたが、既存の機能は回復しました」エンジニアがドクに報告する。ドクはモニターに映し出されたスキャンデータを確認し、満足げに頷く。「お疲れ様でした。あなたがたはもう出ていってよろしい」エンジニアたちが退室し、部屋にはドクとシア二人となった。
2018-01-06 18:30:19「シアさんもお疲れ様でした。何か欲しいものはありますか?」「……拘束具を解除してもらえると嬉しいんですけど」「ああ失礼」ドクはベッド横のスイッチを操作し、シアの手足の拘束を外した。「どうですか……駆除班での生活は」シアはドクの意図を計りかね、無言を返す。この女は信用ならない。
2018-01-06 18:33:55「最近はカワイイ後輩も出来て、楽しかったでしょう。先程いなくなったみたいですが」「……何が言いたいんですか」「いえ?特に。自分より弱い後輩ができて、内心安心していたんじゃないですか、なんてことは決して」「嫌味」シアはドクを睨む。ドクは微かに笑う。「サバちゃんは強くなりましたよ」
2018-01-06 18:37:19ドクは作業台上に置かれている箱を指先で弄びながら言う。「貴女は結局、駆除班では一番弱く、守られる立場から抜け出せていない」事実だ。涙を流すセンの顔がフラッシュバックする。「なら、強くなりたくはありませんか」ドクが指先で叩く箱の側面。貼られたラベルには『SIGMA』と印字されている。
2018-01-06 18:41:27「この中身は新型の百合ゾンズドライバー……シグマドライバーです。ドライバーの力は、試作品のアルファでご存知ですよね」ドクは箱を抱え上げ、ベッド上に置いた。「よければ差し上げます」シアは訝しむ。「何が目的ですか」「そんなもの……失敗作に安らかな眠りを与えるため、に決まっていますよ」
2018-01-06 18:45:17「私はね。とても純粋なんです。私は一度、この手で我が子達を手にかけた。そのときの恐怖と後悔と無念が、私の心から剥がれない」ドクは己の掌を見つめ、語る。「だから駆除班なんてものを作っている。私の手では殺せないから、あなたたちに代行してもらっているんです。協力は惜しみませんよ」
2018-01-06 18:48:35「身勝手なクソ親」シアは口汚く吐き捨てる。「私たちは貴女のために働いているつもりはありませんから」「なら、何のために?」シアはその言葉を受け、センのことを思う。センがシアの喉の機能拡張のために私財を擲っていることを、シアは知っていた。「勿論、お金のためです」シアは立ち上がった。
2018-01-06 18:52:40