【アルストSS】新しいねがいごと

スマホアプリ、『アルケミアストーリー』のSSになります。 お正月イベントの終了によせて何かしたくて書きました。 キャラクターの容姿や言動については、自キャラと自キャラのYOMEを想定して書いています。
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新しいねがいごと

ふらふら @Tender_walker

#### 振り返った彼女の髪が揺れた。夜の神社に灯る篝火の煌めきをすこし跳ね返して、まるで夕焼けに染まる麦の穂のようで美しいと思った。 白い額に滴る汗も美しいし、はく息の白さも、闇夜に映えて美しい。 彼女が汗だくなことに気付いて、ベルトポーチからとっさに布を取り出したはいいものの、

2018-01-10 00:28:00
ふらふら @Tender_walker

考えてみれば此処に至るまでに何度も自分の汗をぬぐった布切れである。 彼女に手渡すのはなんだか気がひけて、なんとなく差し出しかけたようなポーズで固まってしまった。 今ごろ彼女の瞳には、困ったような顔をした自分の姿が映っているだろう。咄嗟に目をそらしてしまったので、よくわからないが。

2018-01-10 00:28:00
ふらふら @Tender_walker

「ありがとう、借りるね」 すこし笑みを含んだ声がして、軽く掴んでいた布切れが手からすり抜ける。 見ると、彼女が気持ち良さそうに彼の布切れを使って汗を拭っていた。 「あ、うん。でも、それでよかった?」 「もちろん。相変わらず気にしぃだね」

2018-01-10 00:28:01
ふらふら @Tender_walker

それはもちろん気にするさ。年頃の娘さんに自分の汗の染みた布切れを渡すなんて、なんてデリカシーに欠けた行いだろう。 彼女は、大事な 「パートナー、なんだから」 自分が考えていた事と全く同じ言葉を、彼女が全く正反対の意味で口にする。やわらかく、優しげな笑顔で。

2018-01-10 00:28:02
ふらふら @Tender_walker

もう、何度こんなやり取りをしただろうか。 彼は記憶喪失の冒険者だ。 気がつけば冷たい洞窟の地面に倒れたまま、彼がもう一度立ち上がることを願う、懸命な祈りの声を聴いていた。 その声に導かれるように、手に触れた剣を掴み立ち上がると、そこには快哉を叫ぶ彼女がいた。

2018-01-10 00:28:03
ふらふら @Tender_walker

何も分からぬ彼に、彼女は自身が彼の相棒であると伝えた。 そして彼は彼女と肩を並べ、手負いの魔物を討ち倒した。 ――それからずっと、彼女とふたり、旅をしている。 「優しいね」 彼女はそう言うと、笑顔で布切れを返してきた。 彼女の汗の染みた布は、なんだかすこし甘い匂いがするようだった。

2018-01-10 00:32:15
ふらふら @Tender_walker

――そんな風に思うのもまた、デリカシーに欠けているのではないか。 でもまぁ、こればっかりは仕方ない。感じてしまうものは、やむを得ない。 それはともかくとして、「優しい」のは決して自分ではなく、彼女の方だと思う。 彼女は記憶を失った彼女のパートナーを決して、責めない。

2018-01-10 00:32:16
ふらふら @Tender_walker

「忘れちゃったものはしようがないよ。でも、キミは、キミでしょ?」 その言葉は、どんな想いで紡がれているのだろう。そんなことも分からないのに自分は今、彼女のパートナーとして彼女の隣にいる。そして彼女は自分がこんな煮え切らないことを考えていることすら、

2018-01-10 00:32:16
ふらふら @Tender_walker

たぶん"分かりきったことだ"というくらい、よく分かっているようだった。 ――ならば、もう一度……。 彼は始めたばかりのお百度詣りに、決意を新たにした。 あれから何日か経った。 お百度詣りを終えて今、自分の願い事として彼女は言った。 今年も、一緒に旅を続けたい、と。 彼の願いは……

2018-01-10 00:32:17
ふらふら @Tender_walker

「おんなじ、かな」 彼女は彼の言葉を聴いて、紅潮していた頬を更に紅潮させた。 赤面性、というやつなんだろうか? 彼女は予想外の言葉を聴いたとき(なんだと思う、たぶん)よく頬を赤く染める。普段あまり動じない穏やかな彼女が赤面してしまう姿は、なんだか可愛い。

2018-01-10 00:35:12
ふらふら @Tender_walker

――本当は、お百度詣りを始めたときに考えていたお願いは、「もう一度、彼女のパートナーになれますように」だった。 でも、百度の試練を共に戦いながら、ふいに「もう、彼女と自分はとっくにパートナーだったのだ」と気づいた瞬間があった。 彼女の足運び、剣さばき、魔法の詠唱の息遣い……

2018-01-10 00:35:12
ふらふら @Tender_walker

そうしたものが「わかる」のだ。わかるから、併せられる。 それはきっとあの、肩を並べて魔物を討ち倒したとき(或いは、そのずっと前)から、彼女と自分がずっと、パートナーだったから、なのだ。 そう、唐突に腑に落ちた。 だから最初に考えていた、願い事はいらなくなった。

2018-01-10 00:35:13
ふらふら @Tender_walker

とっくに叶っていたのだから。 ならば今、願うことは一つだ。 「僕もずっと、君と一緒に旅を続けたいな」 ようやく、戸惑いや変な気遣いなしに、彼女の前で、彼女のパートナーとして、笑うことができた。 ――だから今年はきっと、良い年になる。 ####

2018-01-10 00:35:13