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帽子男 @alkali_acid
異世界召喚ものに「ネクロテック」が出るのは流石におかしくない?という話
帽子男 @alkali_acid
その異世界には女子高生の死体を崇める宗教があった。
帽子男 @alkali_acid
なんで?と言われると困るが、とにかく女子高生の死体をあがめていた。 セーラースタイルの今時やぼったい感じのスカート丈の長い冬服を着た死体をご神体としてひそかに地下で祀っていた。
帽子男 @alkali_acid
死体がどこの誰なのか、僧侶達は知らなかった。 興味もなかった。なぜなら僧侶達にとって別の世界から召喚されたという奇跡こそが重要であり、もとの世界での死体の氏名とか出自などというものはたいした意味を持たなかったのだ。
帽子男 @alkali_acid
召喚。 そうこの女子高生の死体は召喚されたものだった。 「呼び出しの大釜」という不思議な道具が作動し、僧院の広大な地下堂の闇に、首をつったビニールロープと一緒にふわふわと降りてきた。 もちろんあらわれた時点で死体はすでに死体だった。
帽子男 @alkali_acid
学生証ぐらいひょっとしたら持っていたかもしれないが、僧侶達は保管していない。 僧侶達は、死体を女神の使者、生まれ変わり、娘のようなものと考え、丁寧に洗い清め、秘薬を用いて防腐処理を施した。
帽子男 @alkali_acid
この世界には、迷宮と呼ばれる、恐ろしい魔物と不思議な財宝があまた眠る場所があり、そこからさまざまな効能のある薬や、便利な道具が見つかった。 死者に命を吹き込む蘇生液なるものまであったが、僧侶達は嫌っていた。 蘇生液は迷宮の底に眠る邪悪の化身、“龍”の穢れに属するものと考えていた。
帽子男 @alkali_acid
かくして僧侶達は、女子高生の死体を生き返らせるのではなく、永遠に損なわれぬよう保存することにした。髪や肌や骨や肉やはらわたから、やぼったい冬服にいたるまで、長い時間を耐えるような加工を施した。蘇生液以外であれば迷宮産の薬でもためらわず使った。
帽子男 @alkali_acid
もちろん女子高生の死体は秘めたる神体であり、一般の信徒の目に触れることはなかった。 ただ死体を呼び出して以降、各地の僧院に置かれた新たな女神像は、死体の面影を強く写したものになったという。
帽子男 @alkali_acid
以来、えいえいと許しを得た高僧による礼拝が続いている。 「おお!女神の申し子よ!使者よ!生まれ変わりよ!」 顔に傷のある、僧侶というより戦士といった方が通りそうな逞しい男が、その日も地下堂で像に額づいていた。 「まもなく御身の母にして本体、過去世(かこぜ)たる女神を再臨させます」
帽子男 @alkali_acid
「今日ここに連れてまいったのは、初めて御姿を目にする光栄に預かる、新たなしもべにございます」 二歩離れたところに、痩せた学僧然とした青年が額づいている。 「古読と申します。女神様のお恵みがありますことを」 「この古読は、しばらく地方をめぐっておりましたが、務めを終えました」
帽子男 @alkali_acid
「これからはその学識と思索の才をもって御身にお仕えいたします」 「お仕えいたします」 さらにくだくだしい祈りの歌などが続き、防腐剤の匂いの立ち込める空間で、僧侶達は長い刻を跪拝に捧げたのだった。
帽子男 @alkali_acid
しばらく経った夜の遅く。眠りを知らぬ色町の絢爛たる灯火をはるかに望む下町の酒場。隅の席に酔いつぶれる若い学僧がいた。客はほかに二人しかいない。宿無し同然の薄汚れた髭もじゃの酔っぱらいと、陰気な商人風の男。
帽子男 @alkali_acid
「うぷ…」 学僧が吐きそうになるのを、店主がうっとうしそうににらむ。髭もじゃがよろけながら立ち上がり、介添えにゆく。 「お坊さんそんなに飲んじゃいけねえよ…へへ…吐くなら裏いってやろ…へへ」 肩を支え起こして歩きながらさりげなく懐をさぐる。商人風が一瞬鋭いまなざしを投げるが無言。
帽子男 @alkali_acid
二人は裏に出たっきりしばらく戻ってこない。店主が眉をひそめてつぶやく。 「飲み逃げじゃねえだろうな…お客さんどう思います」 「…知るか」 にべもない。やがて髭もじゃだけが戻って来る。商人風ははじめた気色ばみ、立ち上がった。 「おい、あの坊主は」 「へへ…ひとりで帰っちまいましたよ」
帽子男 @alkali_acid
「飲み逃げじゃねえか」 店主が黄色い歯をむきだすと、髭もじゃはあわてて財布をひっぱりだす。 「まった!あの坊さんの飲み代は俺がもつ」 銅貨を卓上に投げると、店主は態度を和らげる。 「それならいい」 財布はどうもこぎれいすぎ、もしや学僧のものではないかと思えるが、誰も指摘しない。
帽子男 @alkali_acid
「あの坊主はどっちへ行った」 商人風はなおも食い下がる。 「へへ…色町の方にいくと…たどりつきゃいいんですがねえ…魔物も出ますし…たどりついたとしても…素寒貧じゃ…」 髭もじゃが話終えるのを待たず、相手は兎を追う猟犬の速さで出ていった。 その足音にじっと耳を澄ませ、髭もじゃはにやり。
帽子男 @alkali_acid
髭をむしりとると、冴えない中年男の顔があらわれる。 「ご苦労だったな」 店主は溜息をつく。 「酒屑の旦那、かんべんしてくれよ。元気になったと思ったら、僧院と事をかまえるってのかい?」
帽子男 @alkali_acid
「別にそういう訳じゃねえさ。ただちょっと、悩める若人の相談てやつに乗ろうってだけよ邪魔の入らないとこでね。奥を使うぜ」 一度店の外に出て、裏から入れる半地下の部屋に、火焔石を入れた炉と蛍灯(ほたるび)の明かりをしつらえてある。迷宮風。冒険者風。
帽子男 @alkali_acid
中ではぐったりした学僧を、火傷の男が介抱していた。平服だが、どこかいかめしいたたずまい。 「隊長さん。どうですかい」 「いったい何杯、剛零を飲ませた。ふりだけでいいはずだぞ」 「軽く一杯でしょ。俺が飲ませたんじゃねえ。古読さんが勝手に飲んだんで」 「何を…」
帽子男 @alkali_acid
「すみません。ご迷惑を」 白湯を飲んで生気を取り戻した学僧、古読が弱々しく返事をする。 「なあに。つまんねえ芝居を打たせちまってこちらこそ申し訳ねえ」 「ほかに手はなかったのか」 「古読さんにつきまとってたのは、ありゃ寺院の影僧でさ。撒くには多少の工夫がいる」
帽子男 @alkali_acid
「まあ俺からすりゃ、素人に毛が生えたような奴等ですがね」 「…分かった分かった。自慢はいい。肝心なのは御坊の話だ」 「へいよ」 三人は鼎談の構えになる。 「実は…最近私は、院主をつとめております僧院から、わが宗派の本拠である寺院に古文書や記録を移しておりまして」
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