達成目標管理と研究は相性が悪い

作るものが決まっている生産管理に向いている達成目標管理は、未知との戦いである研究と甚だ相性が悪い。
18
shinshinohara @ShinShinohara

農研機構で新たな人事評価システムが始まる。これは日本の農業研究を衰退させる原因となる恐れがあるので、言及しておく。 研究者にマイルストーン(その時々の達成目標)を設定させ、それがきちんと達成できているかを評価するという。達成度で人事評価するというシステムは、GEが昔導入した方法。

2018-01-16 09:15:27
shinshinohara @ShinShinohara

しかしGEはその後、この人事評価システムを廃止している。上司はマイルストーン(目標)を高く設定しようとする。するとどうしても目標未達が増えて部下のやる気を奪う。部下は部下でマイルストーンを低く設定しようとする。すると開発が進まない。結局、研究開発力を大きく削ぐのだ。

2018-01-16 09:22:09
shinshinohara @ShinShinohara

もうひとつ、マイルストーンの根本的な問題は「研究と全くそぐわない」ことだ。研究は未知との戦いだ。未知に立ち向かい、既知へと変えていく作業が研究なのだが、何しろ未知なだけにどんな結果が出るかわからない。だから目標の立てようがない。出たとこ勝負のバクチが研究なのだ。

2018-01-16 09:26:57
shinshinohara @ShinShinohara

ギャンブルでマイルストーン(目標)を設定することがバカらしいことは誰でもわかるだろう。億万長者になるため、1か月後は1千万円、半年後には1億円のマイルストーン・・・こういうのを「捕らぬ狸の皮算用」という。研究もバクチ的な面があって、「タヌキ」がとれるかどうかは事前にはわからない。

2018-01-16 09:30:05
shinshinohara @ShinShinohara

それでも無理にマイルストーンを設定するとどうなるか。研究なのに「未知」に立ち向かわなくなるのだ。すでに知られている現象を少しもじったような研究ばかりになり、結果がすでに予想されるような研究ばかりになり、確実に結果は出るが「どこかですでに聞いたことがあるような研究」ばかりになる。

2018-01-16 09:33:23
shinshinohara @ShinShinohara

人事評価で「PDCAサイクル」という言葉が出てくるのも気になる。PDCAは作るものが決まっている生産管理には強力な方法だが、P(プラン)から始まっているところが研究にそぐわない。プラン(計画)から始めてしまうと、思い付きの研究、行き当たりばったりの公共事業みたいな研究ばかりになる。

2018-01-16 09:37:08
shinshinohara @ShinShinohara

研究は未知との戦いだから一見行き当たりばったりに見えるが、そうではない。どんな結果が出るかわからないが何かしらの結果は必ずつかむことができるよう戦略を立てている。そのキモが「観察」だ。現象を徹底して観察する。ありとあらゆる角度から。

2018-01-16 09:40:47
shinshinohara @ShinShinohara

徹底した観察の結果、「こういうメカニズムが働いているのではないか」という「仮説」を立てる。実験の結果、その仮説が正しければ理論を構築できるが、もし仮説が誤っていたとしても、別のメカニズムを次に想定できるようにしている。こうすることで、いずれは真実を追究できるようにしている。

2018-01-16 09:43:49
shinshinohara @ShinShinohara

手塚治虫「ブラックジャック」に、社長たちがビルの地下室に閉じ込められ、壁のどこかにある配線を切らなければ出られないという回。社長の一人が「たぶんここだ」と勘で壁を削ろうとするのだが、ブラックジャックはそれを止め、打診で辛抱強く配線を探す。デタラメなプランよりはるかにマシ。

2018-01-16 09:50:50
shinshinohara @ShinShinohara

観察しまくり、もっとも妥当な仮説を立てる。それによって比較的「あたり」をつけることができる。それでも研究は何が出るかわからない。でもわからなくてよいのだ。素晴らしい研究は偶然から発見されることが多い。しかし偶然に見える発見も、徹底した観察と適切な仮説があってこそだ。

2018-01-16 09:53:24
shinshinohara @ShinShinohara

人間の目は「見たいものしか見えない」という欠点がある。関心のあるもの以外は「路傍の石」化する。だからこそ、科学は取りこぼしを防ぐため「徹底した観察」を重視する。 プラン(計画)を先に立てるとそれにそぐわないものは見えなくなってしまうから、価値観を持ち込まずにまずは「観る」のだ。

2018-01-16 09:59:39
shinshinohara @ShinShinohara

膨大な観察の結果導きだした「仮説」は、もっとも広く現象を包括しうるものになっているので、仮に仮説通りの結果が得られなくても「だとしたら次の仮説の可能性が高くなったな」と、確実に進歩する。科学は「未知」との付き合い方を徹底して磨きあげた作法なのだ。

2018-01-16 10:02:02
shinshinohara @ShinShinohara

そんな科学に「PDCA」を押し付けるととんでもないことになる。プラン(計画)が先に来ると、プラン通りの結果が出るかどうかが気になり、焦り、観察眼が失われる。目の前にとんでもない発見が転がっているのにそれが見えなくなる。

2018-01-16 10:03:53
shinshinohara @ShinShinohara

ドラえもんに、おもちゃの宝箱にママのネックレスを入れて宝探しをする話がある。のび太とドラえもんは宝箱が見つからなくて焦り、ボロい木箱を掘り出しても「こんなのじゃない!」と放り出す。ところがそれこそ本当の大判小判がつまった宝箱だった、という話。

2018-01-16 10:07:44
shinshinohara @ShinShinohara

プラン(計画)を立ててしまうとそれ以外が見えなくなる。そうすると、研究は研究でなくなってしまう。研究は、ある程度方向性を定めて進めるものではあるが、途中で面白い発見があったら脇道に進んだ方が面白いからだ。

2018-01-16 10:09:41
shinshinohara @ShinShinohara

ある植物病原菌の研究室の学生が、病原菌の胞子を静電気を利用して別のシャーレに移すという作業を行っていた。学生は言われた通りの作業方法でなかったので先生に叱られると思ったが、先生はピンときてその後、静電気で病気を防ぐ研究にシフトした。

2018-01-16 10:11:52
shinshinohara @ShinShinohara

研究が一応の方向性を定めるのは、「ビックリするような出会い」をするためだ。その出会いがあったら、これまでの方向性はうっちゃって、出会いの方向に邁進した方が画期的な成果が出る。ところがプランを立ててしまうと「出会い」を評価しなくなる。

2018-01-16 10:13:58
shinshinohara @ShinShinohara

以上、マイルストーンの設定とPDCAサイクルの重視は、日本の農業研究を著しく阻害する恐れがある。早期に改められることを期待したい。

2018-01-16 10:15:09