かく語りき

ぺちか @pechika_udon

1 大学を卒業して、夢やった保育の道に進んで早や５年。 楽しいことばっかりやなかったけど、子どもたちは可愛ええしそれなりに充実した日々を過ごしてる。 ...恋愛関係以外は。 #かく語りき

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2 そりゃもちろん健全な成人男子やし、女の子には興味あるよ。好きな子やっておったし。 でもそれ以上に進めんのは...なんやろ？ まだあの子が忘れられんのかな？ 大学のときに好きになった人。 #かく語りき

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3 結局それも実らんかったけど、それでも彼女が幸せであることに僕自身も満足しとる。 ...保護者的感覚なんかな？ 幸せにしたいっていうより、幸せになってほしい。 そんな思いをもつ子やった。 #かく語りき

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4 「丸山先生！そこ邪魔！」 『うえ！？』 「そんなとこ突っ立ってたら掃除の邪魔です！」 『は、はい！』 まったくもう、とぶつぶつ言うのは柚ちゃん。 近くの高校の子なんやけど、月に2〜3回ボランティアとして園の手伝いに来てくれとる。 #かく語りき

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5 「暇なら掃除手伝ってもらえませんか？」 そう言って箒を、差し出してきた。 柚ちゃんはいつもこんな調子で。 あの...僕、一応年上...。 ここはびしっと言わんと...！ 『あのね！』 「何ですか？」 『...何でもないです...』 #かく語りき

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6 僕は箒を受け取ってすごすごと保育室に戻った。 あぁ...情けない...。 こんなんやから他の先生にも「頼りない」って言われるんや...。 はぁ、と溜息を吐いて僕は箒を動かした。 #かく語りき pic.twitter.com/KGDenKt8yr

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7 柚ちゃんはすごくしっかりした子で、手伝いを任された仕事はきっちりこなす。 その仕事ぶりとはきはきした性格で、周りの先生方からもめっちゃ気に入られてる。 将来のお誘いがかかるほどに。 それは僕もそう思う。 柚ちゃんは保育士に向いてる。 ...ただ一点を除いては。 #かく語りき

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8 『...柚ちゃん、これ何？』 「何ってパンダですよ。可愛いでしょ？」 『パンダ...？』 それはどう見てもタヌキで。 僕は柚ちゃんに気付かれないように息を吐いた。 そう。柚ちゃんの残念なところは壊滅的に絵が下手なこと。 そりゃ、僕も上手いとは言えんけど。 #かく語りき

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9 柚ちゃんのはそれ以上。ちょっと大袈裟やけどトラウマレベル。 実際、子どもに頼まれてウサギを描いたときには泣かれてた。 そこさえ克服できれば満点の保育士さんになれるのに。 ...そう言えば、あの子は描いたり作ったり得意やったなぁ。 「丸山先生？」 #かく語りき

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10 柚ちゃんの不思議そうな声にはっとする。 『え？何？』 「何？じゃないですよ。どうしたんですか？ぼーっとして」 『あ...や、何でもない！それまだかかりそうやな。僕も手伝うわ』 そう言って、僕は柚ちゃんの向かいに座って描き始めた。 柚子ちゃんよりは若干マシなパンダを。 #かく語りき

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11 『...あかんなぁ』 帰り道、月を見上げてポツリと呟く。 最近特にふとしたときに彼女のことを思い出す。 ...いや、別に未練があるとかそういうことと違うくて。 今何してんやろなぁ、とか元気かなぁ、とかそういうこと。 #かく語りき

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12 好きやった人のこと思い出すとか普通のことやん？ ただそれが最近頻繁やって、ただそれだけ。 なんてことを考えながら家に帰ると、一枚の封筒がポストに入っていた。 白くてちょっと豪華な封筒。 差出人は... #かく語りき

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13 『えぇ！？大倉と茜ちゃん！？』 懐かしい名前の連名で届いた封筒には、一通の招待状が入ってた。 #かく語りき pic.twitter.com/RKJbDlNr3P

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14 「丸山くん！」 『茜ちゃん、元気やった？』 「うん。丸山くんも元気そうでよかった」 久しぶりに会った茜ちゃんはほんまに元気そうで、あの頃と何も変わらへんようやった。 ...ただ一点を除いて。 #かく語りき

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15 『大倉くんは？』 「忠義ならあっちで亮ちゃんたちといるよ」 『一緒におらなあかんやん。今日の主役やろ？』 茜ちゃんは頬を赤く染めて笑った。 そう。今日は茜ちゃんと大倉くんの結婚パーティー。 パーティーて言うても、仲間うちだけの小さなもの。 #かく語りき

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16 それでも二人は幸せそうに笑ってる。 ...良かったなぁ、ほんま。 学生時代紆余曲折あったけど、二人が幸せになれてほんま良かった。 「丸山くん？」 ...はっ！あかんあかん。また浸ってた！ #かく語りき

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17 『な、何！？』 「丸山くんは今幸せ？」 『へ？』 「んー、何て言えばいいのかな...。えーと、つまり私は丸山くんには幸せになってほしいの」 『...え、』 「だから、今幸せ？」 ...僕と同じこと思ってたんや。 それだけで嬉しくなった。 #かく語りき

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18 『...うん。幸せやで。仕事も順調やし、友達もたくさんおる。...何より茜ちゃんが幸せそうに笑ってくれてるから』 「...そっか。だったら私も嬉しい」 茜ちゃんは幸せそうに笑って、友達のところへ行った。 その後ろ姿を眺めながら、僕は胸が暖かくなるのを感じた。 #かく語りき

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19 誰かに幸せを望まれることがこんなに嬉しいやなんて思ってもみなかった。 ...これだけで幸せやと感じるなんて、僕は単純なんやろか。 #かく語りき

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20 「丸山先生？」 『あれ？柚ちゃん』 茜ちゃんたちの結婚パーティーの帰り道、立ち寄ったコンビニで柚ちゃんと会った。 柚ちゃんは珍しいスーツ姿の僕をまじまじと上から下まで見てくる。 『なぁに？』 「え！？あ、や...何でもない、です」 『こんな時間に何してんの？』 #かく語りき

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21 「あ、塾の帰りなんですけど、ちょっとお腹すいたから寄り道です」 『こんな時間まで塾！？』 「いつもは親が迎えに来てくれるんですけど、今日は用があって...」 『女の子がこんな時間に一人でうろうろしてたらあかんよ！送ってくから！』 「へ！？や、大丈夫ですから！」 #かく語りき

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22 『あかん！大人しく送られときなさい！』 僕の迫力に圧されて、柚ちゃんは小さく頷いた。 二人で並んで夜道を歩く。 いつもはげんきな柚ちゃんが何故か静か。 ...どしたんやろ？ 「...何かあったんですか？」 『え？』 #かく語りき

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23 「...珍しい格好してるから...」 『あぁ、大学んときの友達のな、結婚パーティーがあってん』 「友達...」 『おん。友達』 にこっと笑いかけてみれば、柚ちゃんはどこか困ったような顔をした。 #かく語りき

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24 『柚ちゃん？』 「...何でもないです」 そう言うと、柚ちゃんはまた黙ってしもた。 ...変な柚ちゃん。 #かく語りき pic.twitter.com/anwcr8Pm4C

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25 それから暫くして。 お昼寝の時間中、柚ちゃんから呼び出された。 『どしたん？』 「...あの、ですね...」 『うん』 「あの...、」 珍しく歯切れの悪い柚ちゃん。 ...？どしたんやろ。いつもはずばっと物言うのに。 #かく語りき