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異世界小話~ダンジョンでは恋愛している者から死んでいく話~

ハットマンズショー on サンデー(二週目)PART2 他の小話は異世界小話タグで
異世界小話 BL 帽子男 異世界
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帽子男 @alkali_acid
ダンジョンでは恋愛している者から死んでいく話
帽子男 @alkali_acid
「迷宮では恋愛している者から死んでいく」 これは「賢者の石を求めて」という書物に出てくる言葉だ。冒険者同士で好いた惚れたとか浮ついた気持ちを抱いてもぐると、仲間割れになったり、うっかりして死ぬ、というだけの話。
帽子男 @alkali_acid
とはいえ冒険者はたいてい若く、年をとって引退する前に命を落とすか廃人になるかだから、群れ集まっていれば、しようのない騒ぎは必ず起こる。
帽子男 @alkali_acid
厄介を避けるためには、一人で潜り、一人で帰るのが一番だ。 竪琴弾きの吟遊詩人、略して吟詩はそう決めていた。 もともとほかの輩のように財宝を求めて必死で魔物と戦い、探索をする気概はない。ただ死なない程度に迷宮を見物できれば十分なつもりだった。
帽子男 @alkali_acid
始まりは、生まれ育った門閥のめんどうな社交だの政治だのに嫌気がさして、屋敷を抜け出しての放蕩暮らし。誕生祝いの宝飾を金に変えて売り払い、いささか覚えのある楽器を奏でて遊び惚けていた。 はぶりのよいうちは女にももてたが、やがて財布が空になると潮が引くように遠ざかっていった。
帽子男 @alkali_acid
すぐ屋敷に戻ろうとは思わなかった。愚かな次男坊の粋がりの結果を、憐れむように見つめる父親の顔、おろおろする母親の顔、なにより味方面をする長男の顔。想像するだけでぞっとした。 芸は身を助くというやつで、音曲の演奏でかろうじて糊口をしのげた。以前ほど贅沢はできないが、とりあえず。
帽子男 @alkali_acid
といっても酒場を訪れて、女神の叙事詩だの草原の疾走曲だの奏でても、実入りはまちまちだ。一番払いが良いのは色町だが、よそものは入りづらいし、吟詩にはおよびもつかない練達が多い。あとは商工組合の隊商が集まる酒場、貿易組合の船乗りが集まる酒場。
帽子男 @alkali_acid
北の土豪の名代どもはしぶちんだ。一揆との戦いに明け暮れていて、芝麦の売り上げ金はすべて武器代に消えてしまうらしい。 そう、もう一つあった。冒険者の酒場だ。最近建て替わった豪壮な館、いや砦というべきか、とにかく羽振りのよさで言えば色町に並ぶ。
帽子男 @alkali_acid
吟詩があそこへ足を運んでみようという気持ちになったのは、門付(かどつけ)の多さに期待してもあるが、財宝を掘り起こし、街に富をもたらす命知らずの男共、女共をじかに見て見たいと思ったからだ。 門閥の子弟にとって最も接する機会のない連中だった。
帽子男 @alkali_acid
だが入口に来たところで足がすくんだ。やはり異様な気配を感じる。 気圧されるというか、新築の戸口は広くあけ放たれ、出入りを制限する掲示などもないが、うかつに踏み込まない方がよさそうだ。 「日をあらためるか…」 つい弱音を口に出したところで誰かが背を押す。
帽子男 @alkali_acid
「おい、新入り、あとがつかえてる」 振り返ると、西の草原部族の青年だった。背が高い。黒い髪に黄色っぽい肌、切れ長の眼差し、凹凸の少ない顔つき。長い髪に鳥の毛を織り込んでいる。ひげはない。 「どうした?入らんのか」 「お先にどうぞ」 「おかしなやつだ」
帽子男 @alkali_acid
青年はそのまま吟詩の肩を抱いて引っ張っていく。 「いや…ちょっ…」 「捨てられたリャマの仔みたいな顔をして酒場の前に立っていられては、不運のもとだ。一杯おごってやる。名前は?」 「吟詩…」 「俺は羽髪だ」
帽子男 @alkali_acid
酒場は広い。門閥の集まる宴会場ほどではないが、多くの武器を帯びた人々でごった返していて、しかし妙に静かだ。 「あんたの武器は?その竪琴か?」 「ああ。まあ、そうとも言うが」 「…お、大姐!小姐!もう来ていたのか」 羽髪が叫ぶと、指をからめて話し合っていた女二人が振り返る。
帽子男 @alkali_acid
「その若いのは?」 「竪琴弾きだ。吟詩という。外で拾った」 「ふうん。食い殺すんじゃないよ」 女の台詞に、吟詩が不安げに一瞥を投げると、羽髪はかかと笑った。 「大姐は冗談好きだ。紹介しよう。烏の女剣客と、隼の女剣客。歌をなりわいにするなら、名前ぐらいは聞いたことがあろう」
帽子男 @alkali_acid
さすがに聞いたことはあった。双剣。白金紋章と黄金紋章という冒険者としてきわめて高い位階にのぼった二人組だ。想像していたよりも若い。 烏のほうは鷲鼻で、縹緻はそうよくないと、吟詩は冷静に観察したが、一種おかしがたい雰囲気があった。隼の方は小柄で愛嬌があって冒険者らしくない。
帽子男 @alkali_acid
「それで螺旋梟がこう飛んできたでしょ?竜巻のあいだを縫うのは無理だからまた、暗器に頼っちゃって」 だが隼が目にもとまらぬ速さで懐から短剣を抜き、壁になげうつ。硬煉瓦づくりの壁に刃が深々と食い込んだ。 「おいおい。新築したばかりだぞ」 給仕が酒を運びながら叫ぶ。
帽子男 @alkali_acid
「あんた。剣客はやめて手妻使いに名乗りを変えたらどうだい」 鷲鼻の女は笑って杯をあおる。かすかにただよう貴腐酒の香。門閥の宴でも、帝国の使節や草原部族の首魁の血縁など、上客を迎えなければ出さないとびきりの銘柄だ。うわさ以上の奢侈。色町に劣らない羽振りだ。
帽子男 @alkali_acid
今日はずいぶん稼げそうだと、吟詩は気持ちが浮き立った。 「何か弾けるのかい?じゃあ龍の歌をやっとくれ」 烏が注文すると、羽髪がうなずいた。 「そりゃあいい。俺も吹こう」 「吹く?」 草原部族の青年はリャマを集める牧笛を出した。 「いっしょにやらんか?」
帽子男 @alkali_acid
どうも妙な雲行きになったと思いながら、吟詩は愛用の竪琴を調弦する。 「龍の歌は…不運を招くのでは?」 「だが大姐は好きなんだ。龍が好きなのさ」 「では」 音を合わせる。羽髪はかなりいい腕をしている。見た目よりも繊細な耳と指を持っているようだ。 「いい腕だ」 向こうが褒めてくる。
帽子男 @alkali_acid
龍の歌を始めると、ささめきさえも凪いで、皆がじっと耳を傾ける。 ほかの酒場では見られない光景だ。かなり厳しい聴衆だと、吟詩は悟った。 自然、指にも力がこもるが、つとめて柔らかく、なめらかに運ぶ。 龍の歌は厳めしく恐ろしい曲だが、底には哀切が流れている。 汲み取れねば野暮だ。
帽子男 @alkali_acid
歌は、墓守の龍について語っている。不死の龍さえも命を捨てる日が来ると、翼をはばたかせて龍の墓場に集まる。だが誇り高い龍は貴重な、鱗や牙、爪、骨などが他種族の手に渡るのを許さず、一柱の墓守を置く。
帽子男 @alkali_acid
墓守の龍は、死を許されず、滅びの慰安に憩う同族が時の塵に孵ってゆくのをただ見つめ続けるのだ。紫の鱗、赤い瞳、黄金の爪と牙、翼をした生きた財宝のような長虫。終わりを知らず、ただ死を聖(きよ)く保つためだけに生きる最後の一柱。
帽子男 @alkali_acid
迷宮の最深部に住む龍こそが、墓守の龍だという言い伝えもあった。 本当のところは分からない。だが演奏しているうちに、吟詩は一度も見たことのないはずの魔物の巣の奥底、財宝のしとねで孤独をかこつ主(ヌシ)の姿をかいま見たような気持ちにさえなった。
帽子男 @alkali_acid
曲が終わると、草原部族の青年は思い切り竪琴弾きを抱きしめた。 「すばらしかったぞ!本当にすばらしかった」 「ああ、うん…ぐえ…君、もうちょっと加減を」 「さあ、飲もう!俺のおごりだ」 それをさえぎって、烏の女剣客が金貨をほうる。 「私がおごるよ」
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