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帽子男 @alkali_acid
寒い時はエルフの村を焼くとあったまるよという話。
帽子男 @alkali_acid
エルフの村が燃えていた。 「勇者様!勇者様はまだ~!?」 「もう、もちこたえられないよ~!」 「早く…して…」 弓を手にした乙女等が火を放つ巨大な敵に立ち向かうが、 救いの主は来ない。 なぜなら、もうお分かりだろう。 誰も、勇者の助けを求めていないのである。
帽子男 @alkali_acid
おかしい。何かがおかしかった。 異世界召喚された勇者は普通、大変にチート無双で、誰かが助けを求めた次の瞬間には到着する。
帽子男 @alkali_acid
なのに、いまだに影すら見えないとは。 何かが、あったに違いない。一体、何が。
帽子男 @alkali_acid
そう、もうお分かりだろう。 誰も、勇者に助けを求めていないのである。
帽子男 @alkali_acid
◆◆◆◆ 「あたしが、勇者様ってどういうこと?」 異世界に召喚された女子大生、佐藤ひろみは、目の前に差し出されたひとふりの剣を見つめながら、問いかけた。 十束はある片刃の剣。先ほど刀身を覗かせた際は真紅の光を放った。 紅蓮刃、茜の剣。妖精王の佩剣。捧げ持つは赤髪の乙女。人ならぬ。
帽子男 @alkali_acid
「ヒロ、あなたこそは、我々妖精族がながらく待ち望んでいた救いの主。この滅びゆく世界を救える、ただひとりの人物なのです」 とがった耳を持つ美しい娘は、きらめく光の粒をまき散らしながら、そう訴えかける。華やかだが、粉っぽく、すいこむと咳き込むので注意が必要だ。 「初耳だけど」
帽子男 @alkali_acid
「かつて、迷宮から魔物があふれだし、世界を危機に陥れたとき、あなたと同じように異世界からあらわれた女神がそれらと戦い、ついに最強の魔物である龍と渡り合って引き分け、平和をもたらしたといいます」
帽子男 @alkali_acid
「女神の拓いた道をたどって、多くの人間が迷宮に入り、魔物を狩り、財宝を掘り起こして街へ持ち帰るようになりました。のちの冒険者のはしりのようなものです」 「ふうん。で、あたしが女神の再来とでもいうの」 「はい」 「根拠は」 「あなたはすでに龍のもとから妖精王の魔法の王冠を盗み出した」
帽子男 @alkali_acid
「それは、冒険者として頭と度胸を使ってやったこと。冒険者はみんな、迷宮の最高の財宝である魔法の王冠を求めてた。遅かれ早かれ誰かがやったはず」 「いいえ。この世界のものにはできません。かつて冒険者として最高位をきわめた烏の女剣客も、紅蓮刃も果たそうとして果たせなかった」
帽子男 @alkali_acid
ヒロは頭を掻いた。 「あたしは、失敗した先人の経験をふまえて作戦を立てただけ。初めから成功する試みなんてないよ。失敗の積み重ねの先に成功があるんだ」 赤毛の妖精はゆるやかに否定のしぐさをする。 「それだけではないのです。私ども妖精や龍は、人間にない力を持っています…だから分かる」
帽子男 @alkali_acid
「魔法の力、ですか」 横で聞いていた別の女子大生、山田花子が口を挟む。豊満な胸を薄手の衣装でおおった魅惑に満ちたいでたちだが、口調はどこかおどおどしていて、豪奢な姿態に似合わない。おっとりした顔立ちには、涙で化粧が崩れた痕がある。
帽子男 @alkali_acid
「はい。魔法です。人間と違い、龍や妖精は魔法を使います。目で見たり、耳で聞いたりするほかに、魔法によってさまざまなものを感知できます…それだけに魔法に頼りきるきらいがあります…ですが、異世界からいらした方々は、この魔法の感覚でうまくとらえられないのです」
帽子男 @alkali_acid
「私ども妖精も、ほかの冒険者と違って迷宮に入ってきたヒロやヤマダサンに気づくのには時を要しました」 「ふうん…あなた達妖精は、ふだんから冒険者を見張ってるんだ」 「私どものつとめですから」 「驚いたね。命がけで迷宮を探索してるつもりが遊園地の職員さんみたいのが実は裏方にいたなんて」
帽子男 @alkali_acid
赤髪の乙女は上品にまつげを伏せる。細い毛の一本一本が燃えるような色だ。 不死なる美貌の持ち主は、実は迷宮という、魔物の横行する奇妙な場所の管理と修繕をあずかる種族の一員だ。遊園地の職員、という形容もあながち外れてはいない。
帽子男 @alkali_acid
「私どもは人間にも魔物にもできるだけかかわらぬようにしています」 「例のご先祖様の言いつけって訳か?」 新たにくちばしを入れたのは、小柄な若者。嗅鼻という名前で、白銀紋章という冒険者としては上から三番目の位階にあたる凄腕だ。左右には飼いならした魔物、地獄の猟犬を連れている。
帽子男 @alkali_acid
「はい。ご先祖様がおっしゃったのは、私どもの仕事はあくまで迷宮の維持。そこに暮らす野生の命は、かわいそうに思っても助けたりしてはいけないということでした」 「野生の命かあ。なるほどね」 ヒロが笑う。ヤマダサンはぼうっとその横顔に魅入る。嗅鼻氏は合点がゆきかねるという面持ち。
帽子男 @alkali_acid
手持ちぶさたに二頭の巨犬のたてがみを撫でてから、そばで所在なげにしている華奢な少年、もう一人の仲間である草採の髪もくしゃくしゃにする。すると黒い靄が宙にあらわれ、地獄の猟犬の幼獣が二頭、われも撫でろと飛び掛かって来た。
帽子男 @alkali_acid
「あたしみたいな異世界から来た人間は、龍や妖精の魔法をごまかしやすいってのは分かった。でも世界を救うってどういうこと?」 「はい。それはまず迷宮の抱える問題についてお話せねばなりません。最近、迷宮下層の魔物が、中層、上層にまでのぼってきたのはご存知ですか」
帽子男 @alkali_acid
「うん。それに、この草採君の話だと、迷宮の外の街にまで魔物が出てるって」 ヒロが手で示すと、草採君はぴょんと跳ねて、嗅鼻氏の背に隠れたそうなそぶりをする。ヒロが率いる冒険者集団「地獄の猟犬団」に加わってしばらく経つが、もともと一人働きをしていたせいか、注目を浴びるのが苦手らしい。
帽子男 @alkali_acid
なぜか、あまり子供受けのしなそうな嗅鼻氏にはよくなついている。 「あの、はい…街のどっかに…あ、め、迷宮とつながる、あながあいてるんじゃないかって」 「そういうことってあるのかな」 ヒロが尋ねると、妖精の姫はうべなった。 「あります。かつて女神の時代に起きたのと同じです」
帽子男 @alkali_acid
赤髪の乙女はさらに、剣を抱きながら滔々と語る。 「迷宮では、強い魔物が弱い魔物を襲い、殺すのはままありますし、強い魔物同士は縄張りを作って互いを牽制しています。頂点に立つのが龍で、すぐ下に最深部の魔物達が続きます」 「生態系ですね…」 ヤマダサンがぽつりとひとりごちる。
帽子男 @alkali_acid
文系女子大生のヤマダサンは最近、地元の言葉が堪能になったがセイタイケイという単語だけはもと来た世界の言葉を使ったので、通じたのは同郷のヒロだけだった。 「生態系か…その仕組みはうまく機能してたんじゃない?以前そう見えたけど、あたし達冒険者が殺し過ぎた?」
帽子男 @alkali_acid
「多少は関係があるかもしれません。しかしもっと大きいのは、最深部の魔物の変化です。まず無敵の龍は、かつて私どものご先祖様がとりつかせた寄生虫のせいで、徐々に弱りつつありました。そこで、その座に挑戦するような魔物があらわれたのです。合成獣という」
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