福島の集団検診での甲状腺がんの検出は過剰診断だけではなく、スクリーニング効果もある
私は、福島での甲状腺がん検査で検出されたものは、すべてが過剰診断である、のように考えた。
おそらくそのすべてが人の生涯のうちに人を困らせるものにはならない、との考え=過剰診断という思いつきからだった。
先だっての福島での評価部会で、15歳以下での検出は過剰診断ではないとのお話があって、つまりそれはハーベスト効果のうちのスクリーニング効果、ということになる。私の考え方が疑問になってしまった。
でも、よく考えてみたら考えなおせた。
以下のような考察から、福島の集団検診での甲状腺がんの検出は過剰診断だけではなく、スクリーニング効果もある、ということが理解できた。
Ⅰ.集団検診のハーベスト効果
①集団検診の結果に現れるハーベスト効果
②スクリーニング効果と過剰診断
③スクリーニング効果の内訳
④過剰診断の意味
⑤ハーベスト効果の検出は全て治療が原則
⑥集団検診の有効性
Ⅱ.福島での若い人への甲状腺がん集団検診について
①一般的な場合の若い人の甲状腺がんの有病の状況
②福島の甲状腺がん検査の先行検査
③先行検査の結果の意味
④認知されていなかった甲状腺がんの意味
⑤認知されていた甲状腺がんの意味
⑥福島の甲状腺がん集団検診の先行検査の検出にはスクリーニング効果と過剰診断とが現れている
⑦本格検査への、線量応答のこと、ICRPの基準、からの私の見方
Ⅰ.集団検診のハーベスト効果
①集団検診の結果に現れるハーベスト効果
集団検診でまだ症状のあらわれていないがんをみつけようとする。
症状のあらわれてないがんがみつかることをハーベスト(刈り取り)効果という。
②スクリーニング効果と過剰診断
症状のあらわれていないがんとしてみつかるハーベスト効果には2種類の効果が含まれる。
まずひとつはスクリーニング(前倒し)効果といわれる。
もうひとつは過剰診断といわれる。
注意点はこの二つは区別することができないこと。ハーベスト効果でみつかってもどれがスクリーニング効果でどれが過剰診断かはその時に具体的にはわからない。
時間を経た疫学的分析でのみ推測だけできる。
③スクリーニング効果の内訳
スクリーニング効果としてみつけられるがんは人の生涯のうちに症状をあらわすがん。
スクリーニング効果としてみつけられたがんの人への影響のおよぼしかたは次ぐらいが考えられそう。
あるものはその人の生命をもおびやかす。
あるものはその人の生命おびやかすまではいかないものの生涯こまらせつづける。
あるものはその人の生命おびやかすまではいかないもののこまらせるが生涯のうちに収束する。
あるものはその人を生涯こまらせない。
あるものはその人をこまらせないまま生涯のうちに収束する。
④過剰診断の意味
過剰診断としてみつけられたがんは人の生涯のうちに症状をあらわさないがん。
過剰診断としてみつけられたがんは人へはなんの影響もない。
⑤ハーベスト効果の検出は全て治療が原則
集団検診のハーベスト効果でみつけられたがんは、それがスクリーニング効果であるか、過剰診断であるかは区別できない。
集団検診のハーベスト効果でみつけられたがんが、その人の生涯のうちにその人をこまらせることになるかどうかを区別できない。
だから、集団検診のハーベスト効果でみつけられたがんは、基本的にすべて臨床の治療が行われる。スクリーニング効果であるがんのうち、人の生命をおびやかすもの、人をこまらせるものを除去する目的で。
スクリーニング効果であるがんのうち、人の生命をおびやかさないもの、人をこまらせないもの、自然になおるものは、治療はいらないのだけども治療はされてしまう。
過剰診断も治療はいらないのだけども治療はされてしまう。
ハーベスト効果であるがんのうち、人の生命をおびやかすもの、人を困らせるものがあるときにそのがん検診はやくだつ。
しかし、ハーベスト効果であるがんのうち、
発症しても、人の生命をおびやかし、人をこまらせ、自然になおらないものが、まったくないか、とても少なく、
発症しても、人の生命もおびやかさず、人をこまらせず、こまらせても自然になおるものが、そればかりだったり、ものすごく多かったりすると、
あるいは、過剰診断である、人の生涯のうちに発症しないがんが、そればかりだったり、ものすごく多かったりすると、
本当は治療がいらないのものばかりということになり、そのがん集団検診は意味がなくなってくる。
⑥集団検診の有効性
集団検診の役立つ部分と役立たない部分をよく比べて、そのがん集団検診が有効か有効でないかを判断する。
Ⅱ.福島での若い人への甲状腺がん集団検診について
Ⅰのように考えたとき、
若い人の甲状腺がんの集団検診の問題の場合を考える。
①一般的な場合の若い人の甲状腺がんの有病の状況
私の個人的な集計によると
( https://togetter.com/li/1032180 )、日本ではこれまで0〜19才の人では、おおよそでは、1年に70人の罹患と0.7人の死亡が認知されていた、と見ることができた。
一般に0〜19才の人では、おおよそでは、1年に70人が罹患するとしたとき、
1歳の人は生きてきた年月が1年、19歳の人は生きてきた年月が19年ということで計算がむずかしいけども、
とりあえず、0〜19才の人のなかには、年70人の罹患*10年分として、普段の場合、日本全体では700人ぐらい有病者がいる見られるとここでは解釈させてもらって、一応それを基本として仮定させてもらう。
それを、福島1県内だけでみると700/47(都道府県)ということで15人程度の有病者が普段いるとみることができるのではないか。
②福島の甲状腺がん検査の先行検査
福島での集団検診においては放射線の影響がないとされる時期に行われた先行検査で、およそ30万人の福島県のすべての若い人のなかから100人以上の甲状腺がんが検出されたとみることができた。
一般の場合には15人ほどの有病者がいるのではないかという私の前提からいうと、85人も多い。
③先行検査の結果の意味
先行検査では放射線影響が甲状腺がんとして現れないとされている。
そうだとしたら、先の医療に認知されいたとする甲状腺がんを持つ人の人数の15人以外の85人ほどの人は、
これまで医療としては認知されていなかった隠れた甲状腺がんとしてみられるのではないか。
④認知されていなかった甲状腺がんの意味
認知されていなかった隠れた甲状腺がんとしてみられる85人は、
ハーベスト効果で見つかった甲状腺がんの、
スクリーニング効果としてみると、そのうちの甲状腺がんを発症してもその人をこまらせないなまま生涯なおらないもの、またはその人をこまらせないで生涯のうちに自然になおるものということになり、
あるいは、過剰診断としてみると、その人の生涯のうちに甲状腺がんを発症しないものということになる、
と判断できる。
⑤認知されていた甲状腺がんの意味
これまで日本で過去、医療に認知されいたとする甲状腺がんを持つ人とみられる15人というのは、
治療がほどこされほとんどのものの予後がよかったというものである。
もし命にかかわるとしても、1県あたり、年に0.7/47(都道府県)=0.015人という率が算出されるので、心配がとても少ないと感じられる。
また、この15人がこれまで認知されてきた甲状腺がんのようなものだとすると、それはつまり、集団検診でみつかるべきものではないとみなせる。
これまで認知されてきた甲状腺がんは、患者自ら気がついて、あるいはなにかのきっかけでみつかったものであるから。
だからこの15人の検出は、今わざわざ検診をしてみつけなくてよかったものと判断できる。
⑥福島の甲状腺がん集団検診の先行検査の検出にはスクリーニング効果と過剰診断とが現れている
福島の先行検査で若い人に約100人に甲状腺がんが検出された。
そのうち約15人はこれまで日本で認知されていた甲状腺がんの罹患にかかる人とみることができる。
その人たちは治療があってしかるべきとみられるが、そのなかの甲状腺がんでの死亡率は0.015人ととても低く、治療があって安心ながんと見ることができる。
しかも、日本では甲状腺がんの集団検診は一般に行われていないので、今甲状腺がんの集団検診をして検出する意味も低い。
これらは、いずれ症状が出て治療されるものが、集団健診で早期発見されて明らかになったハーベスト効果のうちのスクリーニング効果といえる。
その他の約85人はこれまで医療に認知されていなかった甲状腺がんとみられ、
この甲状腺がんは、その人の一生のうちに発見されることなく、認知されないままの、人の生涯に影響を及ぼさない甲状腺がんである。
集団検診におけるハーベスト効果の、
スクリーニング効果のうちの人の生涯のうちに発症するが人をこまらせないがんや、
過剰診断の人の生涯のうちに発症しないがん、
と思われる。
⑦本格検査への、線量応答のこと、ICRPの基準、からの私の見方
本格検査での結果は本当は別に分析されなければいけない。放射線影響があるかどうかが問題になるからだ。
それは放射線の被曝量に対応した罹患数の変化の現れ(線量応答)の存在によって確かめられるということである。
しかし私は、放射線影響は、これまでICRPでいわれてきたことからいえば、ないと私は思う。
***
ICRPでは、
人が弱い放射線を長期に浴びる低線量被曝した時、
その影響を全身で換算した実行線量という値で見て、
それが100mSvになると、その人ががんを原因に死ぬ確率が0.5%上がる、
という評価をしている。(学習院大学田崎教授/やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/radbookbasic/ )
福島での原発事故において、初期被曝、主として放射性ヨウ素の公式な調査がまったくなかったということは残念であるが、
弘前大学が行った事故直後の調査では、
甲状腺等価線量の最大値は35mSvということであった。
それを実行線量に換算するには、甲状腺等価線量に甲状腺の組織荷重定数0.04をかければ良い。
甲状腺等価線量を35mSv受けた人の、全身の影響をみる実行線量は1.4mSvである。
今回の事故で政府は、低線量外部被曝が年間20mSvを超えるとみられる場所の居住を禁止した。
だからこの5年間の人の低線量外部被曝の実行線量は最大でも100mSvである。
また今回の事故で政府は、流通する食品のなかの放射性物質含有量の上限をさだめた。
それによると、人が放射性物質を食べて体内にいれてしまう量は、最大200Bqと考えられる。
1日200ベクレルのセシウムを摂取する成人の年間の内部被曝の実効線量は1.12mSvである。
甲状腺等価線量、外部被曝実効線量、内部被曝実効線量すべてを足した値は102.52mSv。平たく言って100mSvあまりである。
今回の事故の低線量被曝の影響は、規制のなかで最大級の被曝を考えても、今後将来、がんを原因になくなる人が0.5%増える、という評価である。
***
最大級の影響が、将来がんを原因になくなる人が0.5%増えるという予測になると考えると、
これまで行われ、今後行われるかもしれない本格検査の各回で検出される甲状腺がんはやはり全て自然発生となるのではないかと、私は考える。
一部分は、これまで認知されていた甲状腺がんという性質のものでスクリーニング効果と見られ、
その他は、これまで認知されていなかった甲状腺がんという性質のもので人の生涯のうちに発症し人を困らせないスクリーニング効果のもの、または人の生涯のうちに発症しない過剰診断のもの、
となるのだと思う。
現在続いている専門家の検討を見定めたい。