まとめの限定公開に「リンク限定」が追加されました。URLを伝えてまとめを共有しよう!
4
帽子男 @alkali_acid
異世界に召喚された普通の兄妹その他がチート無双する話
帽子男 @alkali_acid
佐藤太一と佐藤ひろみ。仇名はタイとヒロ。二人はごく普通の兄妹。小さい頃異世界に召喚され、すったもんだのすえ兄は魔王、妹は勇者になった。ちなみに妹の友達、山田花子は賢者で妖精の女王になった。 そんな都合の良い話があるかと言っても、これは異世界の話。
帽子男 @alkali_acid
異世界では農協は武装してて強大。幻想通貨はいざとなったら食べられるし甘じょっぱい。街では雅茶を引くと娼婦や男娼が買え、安酒の剛零で好きなだけ飲んだくれる。迷宮には犬を飼ってて水洗トイレを育ててる冒険者がいて、寄生虫のたかった龍が暴れ、粉っぽい妖精がキャバ嬢みたいに接してくれる。
帽子男 @alkali_acid
異世界だからなんでもかんでも都合が良い。人間はどんどん死んでどんどん産まれるから少子高齢化の心配もないし、病気や怪我をなんでも治し、へたすると死んでも生き返らせる薬もある。若さも保てる。まあちょっとだけ副作用はあるけどね。
帽子男 @alkali_acid
素敵な異世界。誰だって召喚されて無双したくなる。 こことは違うどこか。望めば英雄になれる場所。無双しまくり、栄光をつかみ取れる場所。あらゆる欲望が満たされる場所。 そこで人間は勇者にだってなれる。魔王にだってなれる。 神にだってなれる。 なったあと、どうなるかは知らない。
帽子男 @alkali_acid
◆◆◆◆ 「そう!いったん馬車から人間は全部おろして!食糧と物資を積むの!いい?人間は歩く!馬車と一緒に!歩けない怪我人、病人だけを載せる馬車は別に確保!足りない?もう、こっちも人が足りないの!」 わめきながら指示を出すのは街の商工組合の娘、名前がないのも不便なので商姫と呼ぶ。
帽子男 @alkali_acid
街の郊外にある傭兵衆の宿営地を仮の事務所とし、棟梁の天幕に書類の山を築いて猛然と避難の指揮をとっている。 頭上では音楽が鳴り響き、五色の光があふれ、色町の男娼や娼婦の歌が北方と南方への疎開を訴える。効果はてきめんで、すでに宿営地と隣り合う隊商の拠点には人が詰め掛けていた。
帽子男 @alkali_acid
「もおおおおお!!うちの商館の連中はどこにいるの?手伝いが、ろくに読み書きもも算数もできない草原部族のぼんくらばっかりじゃ!さばききれっこないんだから!」 羽筆で乱暴に羊皮紙に署名を入れ、しかし火焔石をしこんだ文鎮をかざして乾かすと、すぐに丸めて下僕に手渡す。
帽子男 @alkali_acid
「ねえ早くして!」 そばに控えていた男娼、緑踵が頭につけていた兜を外して話しかける。 「商館の使用人のうち、生き残っているものは、こちらに向かうと。ただ準備が手間取っているそうです」 「準備ってなに?」 「それが…」
帽子男 @alkali_acid
「私には分からないと思ってる?私これでも僧院の試験は通ってるんだよ?あんなとこ入らないけど」 「は…呼び出しの大釜で送るつもりですが、先に魔物の暗号術を…逆行解析し…再暗号化…魔物が使おうとしたら…勇者が迷宮で調査した大釜の座標のうち…龍が破壊していないものに…転送するよう…」
帽子男 @alkali_acid
「何言ってるかぜんぜん分かんない!!」 「私もです」 商工組合の娘と男娼はしばらく見つめ合ってから淡く笑いを交わした。 「商姫様。ご家族はよろしいのですか?」 「家族?赤胴おばさんから聞いて知ってるでしょ。お父様はとっくに亡くなってるし、継母はこの前、幻想通貨でしくじって憤死」
帽子男 @alkali_acid
「さようでございますか」 「私を育ててくれたおばあ様は…もうとっくに南の保養所にいるから」 「なるほど抜け目がなくていらっしゃる」 「当たり前。赤胴おばさんと私が何回、文(ふみ)のやりとりをしたと思ってるの。あの手紙魔。しつこいったら数字だらけで」 「…はい…」
帽子男 @alkali_acid
商姫は髪に手櫛を通す。 「最後の手紙。赤胴おばさん。私がこの街で一番お金をうまく使えるって書いてた」 「あのお方の判断に間違いはございません」 「言われなくても私が一番なの!おばさんと商売で勝負して降参させてやるつもりだった!英三劇場を丸ごと買って…商姫一座に!」 「よろしいかと」
帽子男 @alkali_acid
少女は青年をじっと見つめた。 「後追いなんて許さないよ。私は…赤胴おばさんより、ずっと大金持ちになるし、緑踵のことも二番目に大金持ちにしてあげるから」 「うれしく存じます」 「うそ!私のことただの馬鹿な子供だと思ってる!」 「いいえ。ただの馬鹿な子供に、この街は救えません」
帽子男 @alkali_acid
商姫は笑った。 「分かってる。もう一働きね」 「すこしお休みにならないと。ずっと仕事のしどおしです」 「私はへいき。継母の醸造所をぜんぶ分捕るときは、三日にいっぺんぐらいしか寝なかったんだから。緑踵こそ休みなさいよ。きれいな肌が傷むじゃない」
帽子男 @alkali_acid
緑踵は否定のしぐさをする。 「私ども、色町の男娼や娼婦は、もはや人間ほど休息は必要としません」 「人間…?」 「あ、いえ…」 緑踵が口ごもっていると、外から呼びかけがある。 「商姫の小姐、会いたいという連中が来てます」 「いいとこなの。追い払って」
帽子男 @alkali_acid
「それが、例の読み書きと算数ができるって連中で…市外区のもんらしいですが…商人だと」 「ほんと!?なら話は別!すぐ行く」 少女が答えると、男娼が懸念を見せる。 「お待ちください。面識のないものと会うのは危険です」 「大丈夫。傭兵衆もいるし、頭じゃなく腕の方なら足りてる。安全だよ」
帽子男 @alkali_acid
商姫と緑踵が、応接の天幕にあらわれると、平伏していた商人達が面を上げる。 「お初にお目にかかる。傭兵衆の棟梁がかように可愛らしい娘御とは」 「棟梁は街にお出かけ中。逃げてくる人の流れを御すのでいっぱいいっぱい。今頃草原のリャマ飼いの気分じゃない?で?」
帽子男 @alkali_acid
「なんと…では汗の名代は不在と」 「なんなの?私の手伝いをするために来たんじゃないの?」 「獣の先祖を信じるやからに、龍の墓所の入り口を制させるわけにはいかぬと…そう思って来たが…」 緑踵がかばうよう割って入り、草原の言葉で叫ぶ。 「傭兵衆!出ませい!」 天幕を裂き護衛が切り込む。
帽子男 @alkali_acid
商人達は、からくり仕掛けの手足から刃を跳び出させると、一斉に襲い掛かった。少女を狙って突進してくる敵に、男娼は牙をむき、爪を生やして立ちふさがる。 「緑踵」 「逃げなさい!」 美貌の青年が一瞬で魔物じみた姿になったのに衝撃を隠せぬ娘に、叱咤が飛ぶ。
帽子男 @alkali_acid
「龍の怒りを見よ!」 「東方人!錬金術師が狂信を装うか!!」 緑踵が鉤爪をふるうと、商人の服の胸が裂けるが、皮膚の下に鎧のごとく鉄板を埋め込んで補強してある。傭兵の目を逃れて武器防具を持ち込む奇想天外な方法だった。 「龍の怒りを見よ!草原の獣どもは死ね!」
帽子男 @alkali_acid
乱戦が続いたが、商姫は腰を抜かしたまま立てなかった。尻の周りに小水の染みが広がる。殺伐とした街に育ち、毒殺の現場さえ目にしてきたが、むきだしの暴力のぶつかり合いは初めてだった。 「…おばあちゃま…助けて…」 龍の狂信者の最後の一人が倒れる。傭兵側も死傷は多かった。
帽子男 @alkali_acid
「緑踵…緑踵…無事なの…ねえ…」 血まみれの異形を、傭兵が抱えて運んでくる。そこかしこに短剣の刺し傷がある。虫の息だ。牙をむいたおもだちには、わずかに最前までの玲瓏たるかんばせのよすがをとどめる。 「違う…こんなの緑踵じゃない…違う」 「ええ…忘れて下さい…」
帽子男 @alkali_acid
商姫は身震いしてから、血まみれの半魔の鉤爪の生えた手を握った。 「ふざけないで。ちゃんとした緑踵に戻りなさい。命令」 「…そうしたいところですが…」 「お金ならいっぱいあげるから!そうだ…薬!誰か回復膏や蘇生液を…」 傭兵がひきつった表情で口を挟む。 「やつら、刃に毒を」
残りを読む(146)