山本修理山氏（山本常緑樹氏）の「市バス57系統特別便鎮守府行」

山本常緑樹 @danggogae

駅前から埋め立て地の工業団地第五といういかにもなバス停へ延びる市バス57系統。朝の2本だけフロントガラスの内側に「鎮守府」と書かれた赤いプレートをゴム製吸盤で取り付けた便があるのをご存じだろうか

山本常緑樹 @danggogae

市バスの路線図には工業団地第五から先が点線で書かれていて、「正門前」「本部前」「鎮守府第一」「鎮守府第二」「埠頭終点」というこれまた没個性なバス停が並んでいる。なんでも本来の終点である工業団地第五で出入証の点検があってそれをパスしたものだけが先へ進めるのだとか

山本常緑樹 @danggogae

とある朝早く、私は駅前のバス乗り場に立っていた。市バスのサイトで見た時刻表にはすべて工業団地第五までのバスとして記されていたので「鎮守府」と書かれたプレートが貼られたバスが来るまで待つことにした。

山本常緑樹 @danggogae

一本目と二本目は何も貼られていなかった。工業団地に出勤すると思しき人たちを詰め込んで出発していく。コンビニで買ったおにぎりを食べながら辛抱強く待つこと40分、三本目のバスが来た。フロントガラスの内側も「鎮守府」というプレートが貼られている。これだ。

山本常緑樹 @danggogae

見たところ客層は前の二本とそう変わらない気がするが、どれくらいの人が鎮守府まで向かうのだろうか。車内放送は「工業団地第五行きです」としか案内していないが、車内前方の運賃モニターには「駅前⇒工業団地⇒鎮守府」という文字列が流れているので多分これでいいのだろう

山本常緑樹 @danggogae

いよいよ駅前を出発したが、ぎゅうぎゅう詰めで外が見えない。怪しまれないようにと目的のバスが来るまでバス停から離れたところに座っていたから仕方ないのだが、つり革すら掴めないのはちょっとこたえる。工業団地第三というバス停で一気に乗客が減ってやっと座席にありつけた。あと少しだ。

山本常緑樹 @danggogae

「ご乗車ありがとうございました。次は終点、工業団地第五です。どなた様もお忘れ物のないようにご注意くだ……つぎ、とまります」この先があることを微塵も感じさせない放送が流れたが、前の席の男性が降車ボタンを押したところをみるにやはりこのバスはもっと先まで行くのだろう

山本常緑樹 @danggogae

「ありがとうございましたー。工業団地第五ですー」運転士さんの肉声アナウンスとともにドアが開く。下車客に混じって私もとりあえず降り口へと向かうが、5人くらいが座ったままだった。いわゆる「艦娘」らしき若い女性はいないので、おそらく一般人の従業員なのだろうか

山本常緑樹 @danggogae

普通のバスと何も変わらなかったなと思いながらステップを降りると、目の前に煙突が突き出たようなデザインの金属製のカバンのようなものを背負ったセーラー服の女性が立っていた。彼女は入れ替わりにバスに乗り込むと運転士と車内に残った乗客たちに仰々しいくらいの敬礼をしていた

山本常緑樹 @danggogae

怪しまれないように道路の反対側から見ていると、乗客たちは通路を歩いてきた彼女に何か見せているようだった。眼鏡をときどき人差し指で上げながらそれを見てなにやらメモをしている。身分証のチェックなのだろうか。

山本常緑樹 @danggogae

全員のチェックが済んだところで無線機らしきものを取り出して少し話したあと彼女は前に戻り、もう一度乗客と運転士に敬礼して最前列の席に腰を下ろしたところでバスはやっと出発していった。この先がどうなっているのか気になるが、あれではこっそり乗っていくのは不可能だろう

山本常緑樹 @danggogae

戻りのバスが来るまでは30分ほどあるが、周囲を散策しようにも工場と石炭置場しかない。奥に見える岸壁にはクレーンのついた船みたいなのがあるが、そこまで向かうのもおっくうなのでそのままバス停で待つことにする。

山本常緑樹 @danggogae

20分ほど待っただろうか、先ほどバスが走り去った方向から「回送」と書かれたバスがやってきた。乗ってきたのと同じバスなので、「鎮守府」から戻ってきたのだろう。フロントガラスの内側を見ると、行きについていた赤い鎮守府プレートは取り払われていた

山本常緑樹 @danggogae

と、フロントガラスの向こう、最前列に座っていた眼鏡の女性と目が合った。先ほど乗客の身分証をチェックしていた女性だ。鎮守府行のバスは2本あるという。ということは2本目の点検のために戻ってきたのだろうか。

山本常緑樹 @danggogae

バスの前ドアが開くと彼女は立ち上がって運転士に敬礼し、背中のカバンのようなものをガチャガチャ言わせながら降りてきた。背中の物体は何か大砲を模しているようにも見える。もしかしてこれが艦娘か。

山本常緑樹 @danggogae

と、降りてきた彼女がこちらに一瞥をくれる。誰何でもされるかと身構えたがそのまま道路の反対側に渡って「おりば」と書かれたバス停の前で直立不動の体勢をとる。やはり2本目のバスの点検に来たらしい。確かあと10分ほどで駅からバスがやってくるはずだ。

山本常緑樹 @danggogae

「はいおまたせしましたー。57系統駅前行です―」バスの写真を引き気味に撮っていたら、少し間延びした運転士さんのアナウンスがスピーカーから流れてきた。本当は反対側のバス停で待つ艦娘らしき女性をバスの写真を撮っていますという体で収めておきたかったのだがさすがに躊躇われた

山本常緑樹 @danggogae

戻りのバスは終始私一人だったせいか、運転士さんが話しかけてきていくつかこのバスのことを教えてもらえた。いわく、深海棲艦の活動が活発だったころは駅から鎮守府通勤専用の系統が出ていたが今は通勤者も少なくなったのでこの形態になったとのこと

山本常緑樹 @danggogae

また、これはオフレコだからねと前置きされたのだけど、来年度からは工業団地第五まで鎮守府の送迎車が来ることになり市バスとしては廃止になることと、点検に来ていたのはやはり艦娘で休暇の時以外はいつもあの眼鏡の彼女が任務にあたっているということも教えてもらえた

山本常緑樹 @danggogae

そんなこんなで1時間ちょっとのミニトリップは終わったのだけど、一つだけ疑問点が残ったので今度また工業団地第五まで足を運ばなければと思った。 ―――あの艦娘は私が乗ってきたバス、つまり一本目の鎮守府行のバスの点検にはどういう手段でやって来たのだろう？

山本常緑樹 @danggogae

断じていうが、あの長い髪の眼鏡の艦娘をもう一度見たいからでは……ない（終）

山本常緑樹 @danggogae

イメージとしては横浜市営の瑞穂埠頭行のバスと軍事境界線手前の民間人統制区域の出入りをチェックする憲兵さんと若松の工業団地を足して3で割らない感じですｗ

山本常緑樹 @danggogae

昔米軍基地の中まで岩国市営バスが入ってたんですが、その路線の基地内のバス停が堂々と路線図に載ってたというのもモチーフのひとつですｗ　#書き忘れてた

山本常緑樹 @danggogae

へ？岩国基地への路線だいぶ前になくなったと思ってたんだけど休止状態のまま路線そのものはまだ残ってたの……　#今年度末でとうとう廃止らしい iwakuni-bus.com/0331haisi/0928…