言葉と、差別と、妄想という名の差別意識と。

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森奈津子 @MORI_Natsuko

以前「『美人』という言葉は美人でない人に対する差別だから」と編集者に言われ、「美人」という言葉を削除せざるをえなかった体験をツイートいたしましたが。似たような体験で「人種」というバージョンもございます。「人種という言葉は差別だから使わないように」と編集者に言われ、書き換えました。

2018-02-03 10:22:10
森奈津子 @MORI_Natsuko

編集氏いわく「文章のニュアンス自体には問題はない。ただ、『人種』という言葉は人種差別につながるので、使わないでください。それをおかしいと思う森さんのお気持ちはわかります。しかし、世間にはそう考えない人たちもいるのです」。これ、最近ではなく、90年代の話。

2018-02-03 10:23:48
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

@MORI_Natsuko 編集者が「××は⚪⚪という言葉を使っただけで怒鳴りこんでくるかもしれない」とありもしないことを妄想する。そういう妄想こそまさに差別意識なんですけどね。

2018-02-03 13:00:16
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

本当にね、出版社にはそんな妄想を抱いている人って多いんだよね。だから大手出版社の校閲者が「狂言」とか「盲点」とかいった言葉にまでチェックつけてくる。 当たり前だけど、「狂言」や「盲点」なんて言葉を使っただけで抗議されることなんてありえまん! そんなのは100%妄想! twitter.com/hirorin0015/st…

2018-02-03 14:28:53
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

実際に「“インディアン”という言葉を使ったら100%抗議が来る」と固く信じてた編集者いたし。 hirorin.otaden.jp/e300786.html

2018-02-03 14:35:37
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

実を言えば、〈SFマガジン〉で連載していた長編『輝きの七日間』が単行本にならなかったのもそれが原因。作中でオーストラリアの屠畜業者を登場させたら「カットしろ」と要求されたから。

2018-02-03 14:38:50
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

差別的な描写だったら僕ももちろんカットに同意したけど、早川書房の態度は違った。明らかに、屠畜業者が小説の中に登場すること自体がお気に召さないようだった。

2018-02-03 14:44:12
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

なんでもかなり前に、早川が翻訳小説の中で「屠殺場のような惨劇」という表現を使ったために屠畜業者から抗議を受けことがあり、その時のトラウマがまだ残ってるんだそうだ。

2018-02-03 14:45:30
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

正確に何年のことだか聞き忘れたけど、ヴォネガットのSlaughterhouse-Fiveが早川から『屠殺場5号』という邦題で出版されたのが1973年、映画版が『スローターハウス5 』と改題されて日本公開されたのが1975年なので、たぶん73年から75年の間の出来事だろうと推測される。

2018-02-03 14:52:59
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

実際に現代の屠畜場って、とても清潔で、家畜に決して苦痛を与えないように配慮して処分されてるから、「屠殺場みたいな惨劇」なんて表現は明らかに差別的で、そりゃ抗議されるのは当たり前なんだけどね。

2018-02-03 14:57:11
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

僕は『輝きの七日間』の中でそうした事実もちゃんと説明してた。ごく普通の屠畜業者の人を出して、屠畜業の人に対する差別や偏見を払拭しようと思った。 それが早川のお気に召さなかった。

2018-02-03 15:01:54
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

僕は最終的にこう提案した。 「だったら原稿を屠場の人に読んでもらいましょう。『これは差別です』と言われたら、素直に削除します」 僕はこれを論理的かつ公正なスタンスだと信じた。

2018-02-03 15:04:51
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

ところが驚いたことに、早川はこの提案も拒否してきた。 「彼らは原稿を読んだだけで激怒して怒鳴りこんでくるかもしれない」というのだ。はあ!? 明らかに屠場の人を暴力団のようにイメージしてるだろ、あんたら。 僕はその偏見こそ打破したかったというのに!

2018-02-03 15:09:49
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

さらに「あなたが個人的に屠場の人に原稿を見せた場合、早川は『輝きの七日間』を出版いたしません」と最終宣告された。 これで話し合いは決裂。『輝きの七日間』を早川から出版する道は閉ざされた。

2018-02-03 15:13:54
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

他の小説だったら、これぐらいの妥協はしたと思う。でも『輝きの七日間』だけは特別だった。全人類の知能や認識能力が向上した結果、世界から偏見や差別が消えてゆく消えてゆく話だったから。僕が未来への希望を託した物語だったから。 自分自身が物語にこめたテーマを裏切ることができなかったから。

2018-02-03 15:18:34
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

というか、連載中の原稿をずっと読んできたはずの編集さんが、『輝きの七日間』に僕がこめたテーマをまったく理解してくれてなかったということが、ちょっと失望だったな。

2018-02-03 15:21:08
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

ちなみにその後、自分でコネを作って芝浦屠場の方にお会いし、読んでもらったので、もう永久に早川から出版されることはありません(笑)。

2018-02-03 15:22:54
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

僕の表現にもやはり偏見があることを指摘され、そこは素直に改めることにした。 でも本当に普通の人で、話し合いも穏やかだった。「原稿を見せただけで激怒して怒鳴りこんでくる」なんてイメージがどれほど偏見に満ちているかを再認識させられた。

2018-02-03 15:26:51
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

ちなみにこの時、現代でもどんなひどい屠場関係者への差別が行なわれているかを知り、むかむかと腹が立って書いたのが「リアリストたち」(角川書店『SF JACK』に収録)。 amazon.co.jp/dp/4041038952

2018-02-03 15:33:53
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

もちろん屠場差別なんて問題、ストレートに描けないので(それこそ編集者から拒絶される)、SF的な設定に置き換えたんだけど、逆にこの話のテーマが差別問題であることに気がつかない読者が多いのでがっくりきた(笑)。

2018-02-03 15:37:33
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

そうそう、この問題に興味がある人、森達也さんの『放送禁止歌』という本をおすすめしておきます。めちゃくちゃ面白い! amazon.co.jp/dp/4334782256/

2018-02-03 15:54:27
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

「放送禁止歌」とされているものが、実際にはその「禁止」に何ら実体がない。放送してみるまで関係者はびくびくしてるけど、実際に放送しても抗議なんかなくて、むしろ賞賛の声が多い。「放送禁止歌」なるものは、実は放送関係者の共同幻想にすぎなかった……という内容。

2018-02-03 16:01:40
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

部落差別を扱った「手紙」、部落で歌われていた「竹田の子守唄」などの歌詞も紹介されてるけど、まったく差別を助長する内容ではない。なのになぜか「放送してはいけない」ことにされてしまっていた。こういうものの放送を禁じることこそ差別じゃないのか?

2018-02-03 16:07:32
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

中でもひどいのは、今では童謡の「通りゃんせ」「ほたるこい」がメディアから排除されているというくだり。「行きはよいよい、帰りはこわい」とか「あっちの水は苦いぞ」というくだりが部落を指していると言われているのだ。そんな証拠なんかないのに。

2018-02-03 16:17:26
山本弘 『BIS ビブリオバトル部』 @hirorin0015

>この手の話は多い。誰か一人が「これは部落のことじゃないか?」と声をひそめて思いつきを口にする。それを聞いた誰かが「どうも部落のことらしいよ」と誰かに告げる。次には、「部落解放同盟から抗議が来るかもしれないなあ」と誰かがしたり顔で言う。↓

2018-02-03 16:20:39