まとめの限定公開に「リンク限定」が追加されました。URLを伝えてまとめを共有しよう!
7
ツイートまとめ 異世界小話~異世界に召喚された普通の兄妹その他がチート無双する話・中篇~ はばたくハットマンズショー 他の小話は異世界小話タグで 1458 pv 3
帽子男 @alkali_acid
迷宮のある街のほど近く、波騒ぐ湖の上で、 魔王と龍とは死の舞踏を始めた。 炎と蟲、竜巻と咆哮、生けるものを一瞬で塩の柱に変える呪文と、虚空をゆがめて血と肉と骨とを捻じ曲げる術。 およそ人間の理を超えた、魔物同士の戦いだった。
帽子男 @alkali_acid
互いに吠え猛り、荒れ狂いつつ、しかし一方の側、人面獣身の異形は標的と周囲とを観察し、闘争の中で学ぼうとしていた。 魔法を。 魔物を魔物たらしむ玄妙のはたらき。 迷宮を成り立たせる霊験。物(もの)の理(ことわり)を超える力。 驚異の根源と言うべき紫燐の長虫から秘密を盗もうとしていた。
帽子男 @alkali_acid
ななめに滑空し、利剣より鋭い龍の尾の一撃をぎりぎりでかわしながら、両の瞳を左右それぞれに動かし、水に浮かぶ塩の柱の数々をつぶさに見ていく。 いずれも魔物が変わり果てた姿だ。龍の怒りに触れれば、迷宮にすまうものどもとて破滅は免れ得ない。
帽子男 @alkali_acid
だが、うわべは白い結晶となり果てても、深みに没せず、あるいは溶け流れてもいない塊がある。大きな体、獰猛な輪郭、水に住む魑魅魍魎のうちでもとりわけしぶとく、剣呑なやから。 「なるほどね」 魔王、佐藤太一、タイ、合成獣。あまたの名を持つ存在はつぶやくや、旋風を起こし急上昇に転じた。
帽子男 @alkali_acid
迷宮の主(ヌシ)の取り巻きである寄生虫が雲のごとく沸いて押し包んでくる。動きを封じておいて、呪文で片づける気なのだ。 魔王はじぐざぐの軌道を描いて翔ぶ。どんな鳥にもまねはできない。まるで冒険者の操る武器の動きを模したような、でたらめさだが、塩の柱になるのは免れる。
帽子男 @alkali_acid
かわりに結晶となったのは虫の群だ。次々落下していく。 「ふうん」 合成獣はじっと見守る。宿主は気にもとめていない。無力に固まった取り巻きは、しかし着水する前に柔らかさを回復させ、再び襲ってくる。 「そうなんだ」 タイはひとりごち、耳まで裂けるあぎとを開き、近づく一匹を喰らった。
帽子男 @alkali_acid
突然、無防備な捕食を始めた敵を、龍はちゅうちょなく殺しにかかる。 首をまっすぐ伸ばして、翼をたたむようにし、錐のように旋回しながら空気の壁を貫き、おとがいをいっぱいに開いて牙で斬りつける。 轟音が遅れて聞こえるほどの疾(はや)さだった。 だが魔王は紙一重で避け、巧みに背を取る。
帽子男 @alkali_acid
そのままだだ広い肩のあいだにとりつくや、男とも女ともつかない容貌をまた禍々しくゆがませ、喉奥から透き通った口吻を伸ばす。 さっき貪ったばかりの龍の取り巻き、寄生虫の器官を我がものにしたのだ。 いかにも使い方を心得たようすで、どんな鋼より硬い鱗を素通りさせ、熱い血を啜る。
帽子男 @alkali_acid
龍は叫んだ。破壊の咆哮ではない。怒りといら立ちのわめきだった。 合成獣は意に介さず、まるで特大のノミかシラミのごとくしがみついたまま、迷宮の主の体液をぞんぶんに飲む。たちどころに毛並みが艶やかさを増していく。
帽子男 @alkali_acid
やがて白皙の額に、鵞鳥の卵ほどもある紅玉のような血の凝りが浮かぶ。 長虫は飛びながらめちゃくちゃにもがき、皮膜で空気を打ちたたかせ、尾で水面を切り刻み、めったやたらに魔法を巻き散らしてから、ついにうっとうしい相手をふりほどいた。
帽子男 @alkali_acid
“龍の血を飲んだものは、多くを知る” 魔王は口の周りについた赤い残滓を舌で舐めとりながら、人間とも妖精とも異なる言葉でそう告げた。 “おかげで色々分かったよ。魔法について” 龍は正面から呪文を浴びせる。今度はかわすいとまはなかった。 人面獣身が塩の柱となる。
帽子男 @alkali_acid
わずかな間を置いて、しかしタイは元に復した。寄生虫のごとく。 “ときには魔法にも抗ったり、解いたりさえできるんだね…方法さえ知っていれば…カエルにお姫様が口づけするみたいに…ふふ、あの子はあのお話、嫌いだったけど”
帽子男 @alkali_acid
龍の真紅の双眸に怒りや憎しみ以外の色が浮かんだようだった。 驚き、あるいは怯(ひる)み、だろうか。何かを希(こいねが)う、飢えや渇きだったかもしれない。だが魔王とて理解はできない。 龍は龍。人間、妖精、迷宮のあらゆる魔物とも異なっていた。 他の種と分かち合えるのは、ただ闘争のみ。
帽子男 @alkali_acid
低く傾く青と黄の太陽を浴びて、竜胆の鱗がきらめき、金の翼が大気をかき乱し、いきなり方向転換した。 機敏な敵にさえ、とっさに反応しきれなかった。 逃げたのだ。 矢をしのぐ速さで、一気に街へ向かう。途中で、不思議な力を持つ財宝の一つ、呼び出しの大釜を認めるや咆哮を浴びせた。
帽子男 @alkali_acid
魔物の侵食を防ぐため施してあった暗号の術はただちに吹き飛び、遠く離れた地で見守っていた妖精のひとりを発狂させた。 長虫はそのまま虚空に生じた歪みに飛び込む。だが魔王はぎりぎりで追いつき、後に続いた。
帽子男 @alkali_acid
かくして死の舞踏の場は、人間と魔物の相打つ廃墟の市へと移った。
帽子男 @alkali_acid
◆◆◆◆ 地震で崩れた建物のあいだ、河をせき止めるようにして、異形の屍が折り重なり、花と実をつけていた。 上流からの敵を迎え撃っていた農協事務、青痣は疲労で朦朧としながら、収穫を待つばかりの畑に似た風景を前に、とりとめない記憶を脳裏に蘇らせていた。 故郷、北方の田舎での日々だ。
帽子男 @alkali_acid
少年だった青痣は、組合長に尋ねた。 農協に伝わる武器、打ち出の鎚と刈り取りの鎌はなぜ二つで一対なのかと。 「打ち出の鎚だけでよくないですか?体から作物を生やせばふつうそれだけで相手は死んじゃいません?」 「うむ。そういう場合がほとんどだろうの」 「じゃあなんで鎌で刈り取るんです」
帽子男 @alkali_acid
問うてから考え込む。 「もしかして、苦しみを…長引かせないためでしょうか」 「お前らしい考え方だの。だが違う。敵の中には、まれに体に作物が生えてもなお動くやつもおる。ほうっておくと、作物は体に引っ込んで消えてしまう場合もあるそうな…」 「ええ…」
帽子男 @alkali_acid
想像するだけで気持ちが悪かった。 「つまり、不思議な力にも、抗ったり、解いたりする術はあるということだの。だがそうはさせじと、鎌で刈り取ってしまえば、助からんじゃろ?」 「最低ですね…」 「農家に慈悲は無用。わしらはわしらの大地を守るのじゃ」
帽子男 @alkali_acid
つくづく鎚と鎌がうとましくなったが、結局助けを借りるはめになった。 しかも今まさに、その不思議な力にあらがう敵が、目の前にいるのだ。 ほかの魔物とはずいぶんようすの違う人型で、見上げるほどに大きい。 くねる手足の先が透明な液状になっている。 泳ぐ巨人とでも呼ぶべきか。
帽子男 @alkali_acid
上流で何があったのか、体の半分は白い結晶と化しているが、動くのに支障はないようすで、水柱を作り出してはぶつけてくる。 「参ったな…」 「団長!逃げて!無理です!もう無理!団長が死んじゃう!」 うしろで雀斑の後輩が叫ぶ。 「うーんでもこいつを通すと下流の黒曜さんのところに行きそう」
帽子男 @alkali_acid
農協事務は足を踏みしめ、また鎚をふるった。 巨人の岩塩になっていない方の半分に芝麦が生えるが育ちが悪い。 「はー…厳しい」 水鉄砲が飛んでくるのを転がって避ける。 「だとするとやっぱこっちですかね…」 鎌を振るう。敵の巨躯がよろめく。
残りを読む(227)