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  • たられば @tarareba722 2018-02-06 00:11:09
    いい具合に酔って足元もおぼつかないので好きな話の好きなシーンを話すんですけど、六条御息所が詠む和歌って、なにげに源氏物語のなかで最高峰なんですよね。それもそのはずで、彼女が美しければ美しいほど、教養が高ければ高いほど、生き霊が恐ろしくなる、という仕組みを紫式部は作ったんですよね。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:23:43
    本日は仕事関連の飲み会で、正直イマイチ、、という感じでしたので、えー好きな話をします。はは。先日チラッと書いた『源氏物語』の大好きなキャラクター、六条御息所のことなどどうでしょう。特に読み返さずつらつら書くので乱文ご容赦ください。いつものようにご興味ない方はリムーブかブロックを。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:26:16
    皆さま六条御息所はご存知でしょうか。ご存知ですよね。「年増嫉妬ヤンデレオバサン」というイメージが付いちゃって大変可哀想なキャラですけど、実は自制心が強く、高潔で、雅で、身分も教養も容姿も申し分ない人物です。自意識が高すぎるのに自制心も強かったのでうっかり生霊になっちゃうんですね。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:27:31
    和歌のやりとりで受け取った光源氏がいちいち感嘆する相手は、全作を通してこの六条御息所くらいです。文を受け取るたびに源氏は「やはり趣味がいい」とか「身分の高い女って最高」と、下品な感想を漏らしてます。 ちなみに光源氏(肉体関係があったのは17〜23歳頃)とは7歳上説と17歳上説があります。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:28:20
    その六条御息所、最大の見せ場といったらやはり「葵」の帖でしょう。全作を通しても屈指の名シーンです。 光源氏の正妻・葵の上が長男の夕霧を出産する直前。愛人である六条御息所の嫉妬心が最高潮に盛り上がります。ここは、周辺情報を整理しながら読むとさらに楽しいので以下、少し解説します。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:30:14
    葵の上が悪阻で苦しんでいる時に、僧侶が退魔のお香(芥子)を焚くんですが、その香りに(葵の上に憑く)生霊が苦しんで「祈祷をやめてくれ…」と頼むんですね。頼むって何よ。ここらへん、『源氏物語』が古代小説と言われる所以でもあるんですが、同時にすばらしいサイコサスペンスでもあります。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:31:08
    その生霊、苦しみに悶えながらなんと和歌を詠みます。そばで介抱している光源氏に向かって、「寂しくて悲しくて、このように乱れ飛んでいるわたしの魂を、どうかあなたが結び留めてください」と訴える。これがなかなか見事な一首で、その内容と声で光源氏は「あっ、六条御息所だ」と気づくわけです。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:32:44
    ここが重要で、苦しむ依り代側の葵の上って、重要なキャラのわりに作中一度も和歌を披露していないんです。立場的にも能力的にも詠んでしかるべきなのに、一首も詠まずにここ(第九帖「葵」)まで来た。そういうキャラだった。いっぽう六条御息所はここまでで何度も源氏と和歌のやり取りをしています。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:34:29
    それが、霊が憑いていきなり和歌が口をついて出た。しかも技巧を凝らしたいい歌です。 かてて加えて「声」と「様子」です。真に高貴な未亡人である六条御息所の声と様子なんて、周囲の女房や坊主には知るよしもないんですね。しかし深い関係にある光源氏と読者にはわかる。だからこそ源氏は気づくと。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:35:07
    さらに言えば、作中時系列では数年前、第四帖「夕顔」で夕顔をとり殺した霊も(そう匂わされていたけれど)やっぱり御息所だったと、ここで伏線が回収されます。つまりこの生霊には前科がある。光源氏にも読者にも、これが命の危機だと分かるわけです。 そしてそして、ここからも怒涛の展開です。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:36:08
    目の前に初産で悪阻に苦しむ正妻(in乗り移った愛人)、周囲には侍女の女房たちと祈祷中の坊主。その状況で愛人の生霊から「恨めしい」と詰められた光源氏の放ったセリフは何か。「な、なんのことかわからん、きみ誰だ」です。おっと。さすが日本文学が誇るクズofクズ。この期に及んでシラを切るとは。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:37:31
    しかもこの野郎(光源氏)、「こんな騒動になって世間体が悪くて恥ずかしい」とか気にします。すげえ神経だなおい。なんというか、このクズ男の描写、絶妙にリアルなんですよね。 そんな源氏をよそに、翌日もうひと盛り上がり仕込まれます。というのも、六条御息所には自身が生霊となった記憶がない。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:39:37
    ぼんやりとした予感はある。しかし自分は高貴で自制心もあり、立場も高い(何しろお相手が亡くなったとはいえ前皇太子妃です)。それが若造に執着して生霊になるなんてありえない…と思っていたら、焚いた芥子の匂いが自分から立ち昇るわけです。髪を洗っても着替えても匂いが取れない。おかしい。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:42:04
    この「芥子の香り」で自分が生霊だったと気づくわけです。「なんてことだ!」と。これすごい演出ですよ。国語学者の大野晋が「こういう逸話が源氏物語以前にあったのかもしれないと思って調べたが、ない。中国の古典に似た話があるかもしれないと思って探したが、やはり見当たらない」と。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:43:03
    比べるのもおかしな話ですが(というか他に比べる相手が世界中いないのですが)、シェイクスピア翁が『ハムレット』や『マクベス』で亡霊に泣訴を語らせて主人公を苦しめる約600年前に、こんなすさまじい内容を描ききった紫式部先輩、圧巻です。どうですか皆さん、源氏物語読みたくなってきませんか。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:44:21
    なおこの「葵」の次の帖、「賢木」で、光源氏と六条御息所はもう一度だけ密会して共に朝を迎えるんですが、和歌のやりとりがあってももう六条御息所側は吹っ切れて「もう終わった」感をバリバリ出してますし、その段階でいきなり光源氏が惜しくなって追いすがって見放されるの、最高にメシウマです。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:45:08
    ついでにこの一夜に関して、前述の大野晋教授と作家の丸谷才一氏が『光る源氏の物語』(中公文庫刊)で、「この夜はこの二人、実事ありですかね」、「実事ありでしょう」、「やはり実事あり」と延々話し合ってて、超インテリ2名が中学生かよというやり取りで大変微笑ましいのでお薦めです。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:47:27
    閑話休題。このあと六条御息所はスパッと娘とともに伊勢へと旅立ちます。その後、京へ戻るもさっさと出家し、光源氏に「くれぐれも娘(秋好中宮)に手ぇ出すなよ」と釘を刺して病没。その後カジュアルに二度ほど亡霊となって登場しますが、面白いのはそれが源氏へのお仕置き役として機能することです。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:48:15
    さて締めです。源氏物語に登場するキャラクターたちは、いつもわたしたちに何かを教えてくれる存在だと思っています。だからこそ千年の時を超えて愛されて来た。では六条御息所は何を教えてくれるのでしょう。彼女は「誇り」の人でした。自らの誇りによって苦しみ、誇りによって執着を断ち切れました。
  • たられば @tarareba722 2018-02-08 22:49:01
    人は自分ではなにもかも失ったと思った時でも、その失ったと思ったものによって救われることもあるのだなあと、そう思います。クズにつまずいて絶望の淵にある時こそ、失ったものではなく、手に残っている大切なものを抱きしめよう。彼女の生き方を思い返すたび、しみじみとそう思うのでした。(了

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